初商品化音源を含む、歌手としての真価証明BOX！

　12年前の2006年に出たデビュー35周年記念BOX「 天地真理 プレミアム・ボックス 」（ こちらで紹介、解説を担当させていただいております）をきっかけにしてか、一時期は目に余るほどだった風評に変化が見られ、年々再評価が高まってきた感のある天地真理さん。
　その流れを目の当たりにしてきた者としては、愛娘の青木真保さんをはじめ核となるスタッフさんの尽力が何より大きいと実感していますが、8年前にはついにファンクラブも結成。さらにはソニーとナベプロの協力を得てスクリーンコンサートの開催を地道に重ねるなど、その活動は草の根的に浸透しているように思います。
 
　リリースの方も順調で、懐刻盤でブックレットが充実した「ゴールデン☆ベスト」（ こちらで紹介、セルフ・ライナーノーツの取材構成を担当させていただいております）、シングルジャケット完全復刻ブックの付いた「ゴールデン☆アイドル」（ こちらで紹介）といったベスト盤だけでなく、オリジナルアルバムも名盤復刻シリーズ（ こちらで紹介）にラインアップ。記憶にも記録にも残るビッグネームな分、ファンにカムバックしてもう一度真理ちゃんの歌を楽しむ人も増えているようです。
 
　前述のプレミアム・ボックスも通販チャネルだったのが功を奏し、今も廃盤にならず流通しておりますが、このたび真理ちゃんの本分である“歌手”としての魅力にスポット当てた新BOX「 天地真理／私は歌手 」がオーダーメイドファクトリーの候補に挙がりました。
 
　歌手としての天地真理というと、真っ先に挙がるのがその実績。記録という点では、真理ちゃんは73年にシングル5曲連続オリコン1位という前人未踏の新記録を樹立していますが、特筆すべきはシングルよりもアルバムセールスが凄かった点でしょう。
 
　流行歌がまだオトナのものだった時代、シングルはともかくLPはオトナの鑑賞にたえうるものしか売れなかったのですよね。その時代に真理ちゃんは突出したアルバムセールスを記録。72年のオリコンLPチャートでは、フォーク志向全開のファースト「水色の恋／涙から明日へ」と歌謡ポップスも視野に入れシフトしたセカンドの「ちいさな恋／ひとりじゃないの」、そしてベスト盤「ギフト・パック」の3作で通算23週にもわたり１位を独占しているのです。
　資料をひもとくと、72年の同チャートで首位を獲得したLPは洋楽を含みたったの8作ですが、うち3タイトルが真理ちゃんだったというのは驚異的。特に子どもに愛され、さまざまなキャラクターグッズが作られるなど、社会現象的なアイドルへと変化してしまったせいで誤解されがちですが、少なくとも初期の天地真理はルックスやキャラクターを第一にしたアイドル歌手ではなく、フォーク系の本格的な歌手として認知されていたことが分かるでしょう。
 
　ちなみに今年で創立50周年を迎えたソニーミュージックにとっても、真理ちゃんは邦楽初のオリコン1位獲得アーティスト（72年）。
　1ドル360円時代、敗戦国の日本にとって欧米の背中がはるか彼方だった当時、ソニーミュージックの前身であるCBS・ソニーは外国企業による資本自由化後の第1号合弁会社であり、わずか創立4年の新進企業でしたが、外資系における国内部門初のトップがどれほどの記念碑的な存在だったのか、天地真理という所属アーティストが本国のCBSからどのように評価されたのか—軒先を借りていたソニーが母屋となってからでさえ30年が経った今となっては、あの時代の感覚を過不足なく理解するのは困難なほど、恐るべきことなんじゃないかと思ったりしています。
 
　という偉大な功績を持つ“歌手・天地真理”にクローズアップして編まれた今回のBOXは、5枚のBlu-spec CD2と、DVDをセットにした6枚組。
　一見、プレミアム・ボックスのダイジェスト版のようではありますが、なんと未発表曲3曲、未発売音源2曲、初商品化映像4曲を収録予定と、ファンならずとも入手したいレア音源入り。これはプレミアム・ボックスを持っている人でも予約決定のアイテムという気がします。
 
　まずDVDは、ご存じTBSテレビの冠番組からの歌唱映像集「真理ちゃんシリーズコレクション」 。
　シリーズは「真理ちゃんとデイト」「となりの真理ちゃん」「とび出せ！真理ちゃん」「アタック真理ちゃん！」「はばたけ！真理ちゃん」と足かけ4年も続き、カラーテレビが生んだアイドル第１号といっても過言ではない真理ちゃんですが、この映像を見ればその理由がハッキリ分かると思います。
　ちなみにプレミアム・ボックスとの違いとしては、「真理ちゃんとデイト」から「好きだから」「ある日私も」「青春 」「思い出の足音」 の4曲を追加。権利関係で映っているのは真理ちゃんのみですが、いつの日か石森章太郎デザインのキャラクター人形やヌー坊に小ヤジ、ゲストらとの楽しいやり取りも観られたらいいですよね。個人的には、大きな影響を受けた「はばたけ！真理ちゃん」の世界名作文学ミュージカルを再視聴したいと思っています。
 
　CDの方はといいますと、71年のデビュー曲「水色の恋」から83年のラストシングル「私が雪だった日」までを網羅した「コンプリート・シングルA面コレクション」はプレミアム・ボックスと同一内容ですが、後の4枚は新編集。カバー曲集「フォーク・ポップスコレクション」が2枚、アルバム曲集「オリジナルソング・コレクション 」、そして「レア音源コレクション」という構成となっています。
 
　この中で核となるのが、今回のコンセプトでもある、真理ちゃんの歌の上手さが実感できるカバー曲集「フォーク・ポップスコレクション」。CD2枚に外国曲のスタンダードポップスを含む47曲を収録していますが、フォークといっても社会派や思想系ではなく、チェリッシュやガロ、赤い鳥、トワ・エ・モワ、シモンズ、森山良子、よしだたくろうといった品のよいカレッジフォークやフォーク歌謡がメインとなっています。
　国立音大附属高校でクラシックを学び、ヤマハボーカルスクールでポピュラーのセンスを身につけた真理ちゃんの志向はフォーク。公式デビュー作「時間ですよ」でもちゃんとギターの弾き語りをしていたように森山良子路線のデビューが予定され、アイドル路線にシフトしなければ同じCBS・ソニーでも南沙織や奈良冨士子とではなく、本田路津子や五輪真弓との3人娘として売り出されていたのかもしれないのですからね。ファーストアルバムが全編フォーク系カバーだったように、フォークソングが最もフィットするは当然なのです。
 
　70年代半ばからはびこるカワイコちゃんの素人アイドルとは違い、音楽的素養を持ったプロフェッショナル・シンガーの真理ちゃん。カバー曲であろうと歌い飛ばすことは決してなく、どの曲も丁寧にきっちりと歌っています。
　殺人的スケジュールの中、初見の譜面であっても一発OKに近い短時間での歌録りだったそうですけど、時間がない分極限まで集中したような、神がかった歌唱もあったりして。忙しさのせいでファルセットのコンディションが最良とはいえない録音もありますが、そうであったとしても、その分歌心できっちり補完しているのですからね。
 
　そのあたりは、まさに一発録りのライブ録音でこそ実感できることでしょう。特に、苦悩していた76年のライブ盤「私は天地真理」からのナンバー（みなみらんぼうの「ウイスキーの小瓶」、グレープの「告悔」など）は、研ぎ澄まされた感性といいますか、理屈ではなく本能で表現に取り組もうとしているような絶唱です。
 
　それと、今回の目玉となっているのが、初商品化音源5曲を収録した「レア音源コレクション」。
　5曲中、ライブの「トルコ行進曲」以外はいずれも山上路夫さんが作詞したナンバーで、森田公一さん作曲の「秋ふたたび」、加藤和彦さん作曲の「早春」、川口真さん作曲の「若い合唱」、そしてアレンジ、歌詞違いの「想い出のセレナーデ」となっています。
　特に「想い出のセレナーデ」は、当初「青春のセレナーデ」というタイトルで「恋と海とTシャツと」のB面に予定されていたものが、ブラッシュアップの末タイトルも変わって次のシングルＡ面になった…という有名なエピソードがありますが、その過程のバージョンがついに日の目を見るのだとしたらいうことありません。プレミアム・ボックスを持っている人も、このディスクを目当てに買っても損はないと思います。
 
　という真理ちゃんの新BOX。戦後最大、社会現象と呼ばれるほど爆発的人気を得たことや、前人未踏の連続ヒット記録を樹立したことなども当然後世に語りつがれるべき事柄ではありますが、何よりもレッテルや先入観を抜きに事実をもとにした正当な評価として“天地真理が、希有な才能と国民的人気に恥じない実力を兼ね備えたシンガーであった”ことを実感する人が増えることを祈っています。
 
　だって“記録より記憶に残る名曲”を声高に叫ぶのが悪いとは申しませんが、ヒット曲より隠れ名曲の方が価値があるかのごとく珍重したり、リアルタイム世代以外に広がる昭和歌謡ブームをいいことに大した実績も残せなかったのに歴史修正したかのごとく“昭和を代表するアイドル”という触れ込みで復活を遂げる人が平気の平左でいたりするご時世ですのでね。真理ちゃんのことを思うだに、口惜しくなってしまうんですよね。
 
　OMFではあるものの難なく商品化されると思いますが、先着の商品化協力特典として、真理ちゃん本人の直筆サイン色紙がもらえるそうですので、ご予約はお早めに。なお、 特設サイトでは「天地真理への100の質問」も実施されているそうですから、ぜひアクセスしてみてください。