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  • 2023.12.21

ビヨンセの空山作品盗用疑惑から、改めて著作権侵害とフェアユースについて考える

現在、アート&カルチャー界隈では、歌手のビヨンセが最新アルバム『RENAISSANCE』のリリースにともない2023年5月10日から9月27日にかけて行った「RENAISSANCE WORLD TOUR 2023」のイメージビジュアルが、日本のアーティスト、空山基の作品の盗用ではないかという疑惑が話題になっている。これを機に、改めて著作権侵害とフェアユースについて考える。

2023年5月10日、スウェーデン・ストックホルムのフレンズ・アリーナで開催された「RENAISSANCE WORLD TOUR」初日のステージでパフォーマンスをするビヨンセ。Photo: Kevin Mazur/Getty Images for Parkwood

空山基は、女性の身体の曲線美とロボットを融合させた「セクシーロボット」シリーズのイラストや立体作品で知られている。

12月12日、空山は自身のインスタグラムに、ビヨンセが「セクシーロボット」の頭部のデザインに酷似するヘッドピースを身に着けたツアー映像、ツアーグッズの写真と自身の作品画像を並べて投稿し、「あなたは私に“正式に”お願いすべきだった。そうすれば、ザ・ウィークエンド(*1)のように良い作品を提供したのに」という内容のキャプション(英文)をつけた。それに対して現在(2023年12月21日時点)までに3500件以上のコメントが寄せられている。

これらのコメントの中には、「セクシーロボット」はそもそもフリッツ・ラングによるSF映画の名作『メトロポリス』に登場する女性型のロボット、マリアを参照しているのではないかという指摘や、ビヨンセは2007年のBETアワードでもマリアを彷彿させる衣装で登場しており、今回も空山作品ではなく『メトロポリス』の引用であるとするビヨンセ擁護派の主張もあった。


*1 カナダ出身のシンガーソングライターで、2011年「Echoes of Silence」のMVで空山とコラボレーションしている

これを受けて、空山の所属ギャラリーであるナンヅカは12月15日に発表した声明の中で、空山のインスタグラムでの訴えは、「“空山風”のデザインが、本人のものだと認識されることへの拒否感」からであると同時に、「ザ・ウィークエンドやステラ・マッカートニーなど現在進行形でコラボレーションしているパートナーへの配慮」「多数のファンからの問合せへの回答」であると説明した上で、『メトロポリス』については以下のように見解を述べている。

「まず、一部で指摘のあった『Metropolis』の影響に関してですが、アートにおける引用は、美術史的な方法論に基づいて、美学的な観点で議論されるべき事項です。大前提として、私たちはアートの歴史が、影響関係の連鎖で成り立っていることを踏まえる必要があります。1920年カレル・チャペックによる戯曲「R.U.R」において生まれたロボットという概念は、1927年フリッツ・ラングの映画『Metropolis』に登場するマリアにおいて、女性の身体性を纏ったデザインを伴って広く知れ渡ることになりました。そして、空山が1980年以降描き続けているピンナップのロボットが、このマリアのデザインを美学的に更新した、新たな作品だと捉えることは、アートの文脈において妥当な見解だと考えます」

アートの世界において、「盗用かフェアユース(公正使用)か」という著作権をめぐる論争は、これまでも度々起きている。

フェアユースとは、米国著作権局の説明によると「特定の状況下において著作権で保護された作品の無許可使用を認めることにより、表現の自由を促進する」という著作権法における法理だ。その判断において重要な要素の一つが、変容的利用(transformative use)、つまり、元の著作物が新しい作品の作者によって「変容」し、「新しい性質や意味を持つ」か否かだ。

これまでジェフ・クーンズマウリツィオ・カテランリチャード・プリンスをはじめとする様々なアーティストが、自身の作品のフェアネスを法廷で争ってきた。アート業界で最近最も注目された同様の訴訟としては、アンディ・ウォーホルが、写真家のリン・ゴールドスミスが1981年に撮影した歌手プリンスのポートレイトを自身の作品に流用した件がある。ゴールドスミスはこれが著作権侵害にあたるとしてウォーホル財団に通達したが、訴訟を起こされることを懸念した財団は2017年、先手を打つ形で裁判所に「非侵害宣言」を求めた。これにゴールドスミスが反訴したことで長い裁判が始まったが、2023年6月に米連邦最高裁判所は、ウォーホルがゴールドスミスの著作権を侵害しているとの判断を下した

こうした判例に照らしても、今回のビヨンセの一件が変容的利用(transformative use)にあたると考えるのには無理があるが、空山の所属ギャラリーは、ビヨンセ側と司法で争うことは「空山にとっての優先事項ではない」としている。

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