「キース・ヘリング展 アートをストリートへ」で東京展スペシャルサポーターと、音声ガイドナビゲーターを務める磯村勇斗さんに聞く

東京・六本木の森アーツセンターギャラリーで、「キース・ヘリング展 アートをストリートへ」が2024年2月25日(日)まで開かれています。キース・へリングの大ファンで、東京展のスペシャルサポーターと、全会場で音声ガイドナビゲーターを務める俳優の磯村勇斗さんが、美術展ナビなどのインタビューに答え、今の自分と同じ31歳で生涯を閉じる直前まで「鑑賞者の立場に立って、アートはみんなのためだというのを最後まで心の中に秘めながら描いていたんじゃないかなと思いました」と、キース・へリングの壮絶な人生に思いを馳せました。(美術展ナビ編集班・若水浩 撮影:山本倫子)

《イコンズ》を見つめる磯村さん

キースを見て、「ビビッと来た」

―美術がお好きなそうですね

磯村「美術を専攻していたぐらいなんで、絵にはものすごく興味を持っていました。時間があれば美術館に足を運んだり、地方で撮影する時は、休みの日にはその土地の美術館へ行きます。家族で旅行へ行ったりする時は、必ず美術館に寄るぐらいでしたから、家族が美術館が好きなんでしょうね。その影響で自分も絵が好きになっていったという感じです。絵を見るのが好き、そして美術館の空間が好きです」

ー好きなアーティストは

磯村「キース・ヘリングですね。これは間違いなく一番好きなアーティストです」

―スペシャルサポーターのオファーが来たときの気持ちは

磯村「率直に嬉しかったですね。それまで取材などでも、キース・ヘリングが好きですと話していたのが、ようやくこういう形になったので嬉しく思います」

―ヘリングとの出会いは

磯村「大学に行っていた頃に、美術を専攻していました。アメリカンポップカルチャーなどを勉強していて、アンディ・ウォーホルだったり、草間彌生さんもそうなんですけど、キース・ヘリングがいました。教科書に載っていた絵を見て、なんかビビッと来たんですよ。自分の中に。何か分からないけれど、この絵が好きだという。そこからキース・ヘリングを知って、どんどん作品を見るようになりました」

『スウィート・サタデー・ナイト』のための舞台セットの前で

ーそれはどんな作品でしたか

磯村「何年も前で、まだキース・へリングを知らない時だったので、明確には思い出せませんが、人の集合体のような絵でした」

―どう感じましたか

磯村「絵なので止まっているはずなのに、なんで動いてるんだろうと思いました。それは(人の周りに描かれた)線の効果だと思うんですけど、あとは人のちょっとした動き具合だと思うんですが。こんなにも止まっている絵を楽しく見せることができるんだなと思って、感銘、衝撃を受けた感じですね」

「好きを貫き通したのが魅力」

―キース・へリングはどういう存在ですか

磯村「親しみやすい人なんじゃないかと思います。本当に小さい頃から絵を描くのが大好きで、親や学校の先生から止めなさいと言われてるにも関わらず、手が止まらずどんどん描いてきた子だった。

そういう意味では、自分も役者やりたい、やりたいと言っていて、反対されながらも、ずっと口にしてきたので、その辺のマインドはすごく共感できる。今の時代に生きていたら、この話をして『分かる、分かる』と言い合いたいなと思いました。いい友達になれそうな気がします」

―キース・へリングの社会的メッセージは今でも通用しますね

磯村「キースが生きていた時代と変わらず、メッセージが僕らに刺さるということは、今もその問題に向き合っていかないといけないなと教えてくれます。そして、それが20代で色々見えていたというのが、僕の中では考えられません。

キースは自分がエイズと知って、死を感じながら、そこから創作活動をしていたと思うんですけど、死を知りながら物作りをするっていうのは、どんな気持ちだったんだろうと、すごく考えます。その時代に描いていた絵など見ると、ものすごくエネルギーがありながらも、どこか寂しさもありつつ、それを悲しく描くのではなく、最後まで色を使ったり、明るく生きていこうとしていたんじゃないのかなと感じました。それは、鑑賞者の立場に立って、アートはみんなのためだというのを最後まで心の中に秘めながら描いていたんじゃないかなと思いました」

ーキース・へリングの作品を求めてニューヨークに行ったことはありますか

磯村「ニューヨークには行けてなくて。行くのは夢なんですけど。中村キース・へリング美術館には行きました。(ニューヨークは)行ってみたいですね。キースが『サブウェイ・ドローイング』を描いたりたように、作品を描いたりして、その空気に触れたいなと思います。

―グッズや作品はお持ちですか

磯村「グッズは色々持っていて、ステッカー、ファイル、ポーチ系も持っています。Tシャツも、服系はジャケットとかも。オブジェは『光り輝く赤ん坊』と『吠える犬』は人間の赤ちゃんぐらいのサイズのものを持っていたりします。(全部で)十何点はあるんじゃないですかね。

(光り輝く)赤ちゃんと(吠える)ドッグは、自分の中でもお気に入りで、ヤシ科の大きな葉の観葉植物の下に置いています。色合いが似合います。気分によって、ドッグに追われる赤ちゃんにしたり、赤ちゃんが追っているドッグにしたりしています。物語を作ったりします。寂しい遊びでした。(笑)

 ベルギーに行ったときに《アンディ・マウス》が画廊に置いてありました。買おうかそのときにすごく悩みました。でも、かなり大きくて、送るのも大変だと思ってやめました。それは今でも後悔しています。いずれ飾りたいです」

「好きな気持ちを乗せた」音声ガイド

―音声ガイドを初めて担当されました

磯村「初めてだったので、緊張はしました。キース自身が作品についてあまり説明をしてこなかったり、タイトルが《無題》であったり、作品の背景や、当時どのような思いで生きていたのかというのを明かさないまま今に至るので、そういった彼の言葉だったり、思いをセリフみたいに自分が語る部分があるんですけど、そういうところは気持ちをどれぐらい入れたらいいんだろうと悩みながらやりました。

セリフの部分をキースの声に寄せるのか、自分自身の言葉でいくのか迷いましたが、そもそもキースの声を聞いたことがないので、変にやらない方がいいと思い、自分らしくやりました。キースを好きな気持ちを乗せながらやらせていただきました」

―ガイド聞きながら会場を見て、どう感じましたか

磯村「自分の声なんで照れくさかったです。でも、キースの色々な作品の説明を耳で感じて、目で作品を見てという五感をフル活用して楽しめる展覧会になるんじゃないかなと思いました」

ーガイドをやって改めて感じたことは

磯村「キースの言葉で『鑑賞者もアーティスト』というのがあって、僕たちの仕事と同じだと思ったんですよね。映画を撮り終えた段階が90%、あとは劇場で公開して、お客さんに見ていただいて、ようやく100%になると思っているのですが、それと一緒だなと。そこの感覚は、近いものを感じられた瞬間というか、その心を大事にしておかないとなと。すべて自分たちで解決というか、満足してしまうのではなく、余白を残してしっかりお客様、鑑賞者にゆだねるというのも大事だなと思いました」

《ブループリント・ドローイング》の前で

―本展でお気に入りの作品は

磯村「絞るのが難しかったんですが、《ブループリント・ドローイング》という作品です。今回の空間づくりも含めてなんですが、ちょっと暗いところにモノクロの版画で作られた作品が並んでいて、キースが死の宣告を受けてから、彼のアート人生を振り返りながら制作した作品ということもあって、悲しい部分も感じつつも、でも凄いパワフルで結構皮肉な部分もあったりして、でもそれを暗く描くのではなく、明るく描いているところが、すごい自分の中ではしびれたんですよね。きょう展覧会を見たなかで、ぜひ注目していただきたいポイントでもあります」

―アートが俳優業とつながる部分はありますか

磯村「絵というものは自分の世界を広げてくれるものでもあるし、想像力を豊かにしてくれる。役者も想像力豊かじゃないといけないので、養う力がアートにはあると思う。

キースは天才肌でどんどん描いちゃうんだろうなと思ったら、いろんなアーティストや芸術の技術をすごく学んだ努力家ということを聞いて、まじめだし、より好きになりました。やはり努力が必要なんだなとすごく感じました」

 ―ご自身で絵は描かれますか

磯村「描きます。頻繁には描かないですけれど、時間があるときに描いたりします。(作風は)ポップアートですね。キースにすごく影響を受けているので、1枚の紙にバーッと敷き詰めた感じの、でもその中に物語性を作って、いろんなキャラクターを登場させたりとか、そういう絵を描いたりしています」

「ここまで裏側を解説した展覧会はない。逃したら後悔」

―最後にメッセージをお願いします

磯村「キースの作品は、若い人でも見たことがあるというのがほとんどだと思います。けれど、キースがどんな人なのかまでは、知っている人は少ないんじゃないかと思います。今回の展覧会では、キースがどういう人だったのか、どういう人生を歩んできたのか、そしてみなさんが見たことのある絵にはどういう背景があるのかを知ることができるチャンスだと思います。ここまでキースの裏側を解説していく展覧会はなかったので、これを逃したら絶対後悔すると思うので、ぜひみなさんに来ていただけたら嬉しいです」

All Keith Haring Artwork ©Keith Haring Foundation

 磯村勇斗(いそむら・はやと)

俳優。1992年生まれ。静岡県出身。2015年ドラマ『仮面ライダーゴースト』で頭角を現し、その後NHK連続テレビ小説『ひよっこ』(2017)で注目を浴びる。映画『ヤクザと家族 The Family』(2021)、『劇場版 きのう何食べた?』(2021)で第45回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。映画、ドラマを中心に多方面で活躍中。出演映画『月』、『正欲』が公開中。主演映画『若き見知らぬ者たち』が2024年公開予定。

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