「やまと絵展」で注目の「四大絵巻」 原寸大オールカラーの『国宝 源氏物語絵巻』(9万9千円)と『国宝 伴大納言絵巻』(13万2千円)を紹介

10月11日から12月3日まで東京国立博物館で開催される特別展「やまと絵―受け継がれる王朝の美―」。本展の見どころのひとつが「四大絵巻」(「源氏物語絵巻」「信貴山縁起絵巻」「伴大納言絵巻」「鳥獣戯画」)と呼ばれる4つの国宝の展示です。なかでも10月11日~22日の期間は、この四大絵巻が30年ぶりに集結する貴重な機会です。

四大絵巻のうち2つを紹介

中央公論美術出版がオールカラーで原寸大の『国宝 源氏物語絵巻』と『国宝 伴大納言絵巻』をこれまで刊行しています。定価はそれぞれ9万9000円と13万2000円で、書店で気軽に立ち読み、という機会も少ないと思います。そこで、この本の中身とともに、「源氏物語絵巻」と「伴大納言絵巻」の魅力について、中央公論美術出版の担当者に教えてもらいました。「やまと絵」展での鑑賞の楽しみを増やしてください。

「源氏物語絵巻」日本絵画史上の重要ジャンル

四大絵巻の中でも有名なものといえば、「鳥獣戯画」と並んで、『源氏物語』を絵画化した「源氏物語絵巻」をあげる人が多いのではないでしょうか。
『源氏物語』の絵画化は、11世紀初頭、紫式部によって著された原作が成立してさほど時を隔てずしておこなわれていたようで、以後各時代を通じて描き継がれて「源氏絵」と呼ばれる日本絵画史上でも重要なジャンルを形成してきました。
その中にあって、今回展示される徳川美術館、五島美術館所蔵の「源氏物語絵巻」は、『源氏物語』が成立してから約150年後の平安時代末期(12世紀前半)の作品と考えられ、現存最古の絵巻であり、国宝に指定されています。

『国宝 源氏物語絵巻』全19場面をオールカラー画像で原寸大

「源氏物語絵巻」の関連書は多数刊行されていますが、今回ご紹介するのは中央公論美術出版の『国宝 源氏物語絵巻』です。
本書は、日本美術史上もっとも重要な作品である「源氏物語絵巻」の全容を解明するため、徳川美術館、五島美術館の共同研究として進められた科学的調査の集大成となります。
最新高精細デジタル撮影をはじめ、X線透過撮影、赤外線撮影、顕微鏡写真撮影、さらには蛍光X線分析で褪色し失われた表現部分の可視化を試み得られた調査結果など、これまで知り得なかった国宝「源氏物語絵巻」の姿を示す画期的な公刊となっています。
学術的にも鑑賞用としても有効に活用できるように、全19場面をオールカラー画像で原寸大に収録し、各場面解説と共に登場人物77名のカラー拡大図や詳細なデータなど網羅しています。B4判横開きという大型サイズで、国宝を原寸大で手にとって鑑賞できる永久保存版といえるでしょう。
『源氏物語』の初出は1008年といわれていますが、『国宝 源氏物語絵巻』は「源氏物語1000年紀記念出版」として、中央公論美術出版から2009年に発売されたものです。やまと絵展の会場で実物と対面し、約1000年前となる平安時代の貴族の生活に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

『国宝 源氏物語絵巻』徳川美術館/五島美術館 編
B4判上製麻布帙函入 カラー口絵326頁 本文40頁
価格/99,000 円

伴大納言絵巻は日本のアニメーションのルーツ!?

つづいて、伴大納言絵巻の全場面をカラー原寸大で収録した『国宝 伴大納言絵巻』(中央公論美術出版)をご紹介します。
さて、伴大納言絵巻とはどのような絵巻なのでしょうか。
伴大納言絵巻は、平安時代前期、貞観8年(866年)閏3月10日に実際に起きた応天門の炎上(応天門の変)をめぐる、一人の実在した政治家(大納言・伴善男)の野望と陰謀そして失脚の物語を、生き生きと描いた絵巻です。伴大納言絵巻のストーリーは史実をもとにしているだけに四大絵巻のうちの他の3つとは異なり現実味があり、また絵画化されるにあたって絵師の表現におけるすぐれた演出が場面展開をとてもおもしろく構成している点が特徴で、絵巻という日本独特の絵画芸術の醍醐味を堪能できるものです。
伴大納言絵巻は後白河上皇のもと、当時最高レベルの宮廷画家によって制作されたと考えられ、主要な登場人物以外に400~500人の名もなき庶民たちを脇役として動静豊かに描き、巧みなストーリー展開で各場面をダイナミックに構成するという表現手法は極めて映像的で、多くの傑作に恵まれたこの時代の絵巻のなかでもひときわ魅力的といえるでしょう。
テレビアニメ「アルプスの少女ハイジ」やアニメ映画「火垂ほたるの墓」などを手がけ、「スタジオジブリ」設立者のひとりである高畑勲監督は20年ほど前に『十二世紀のアニメーション ―国宝絵巻物に見る映画的・アニメ的なるもの―』(1999年、徳間書店)という本を著し、そのなかで伴大納言絵巻にも詳しく触れていました。そのことからもおわかりのように、伴大納言絵巻は動いていない絵画をまるで映像のように見せるという際立った美的特質もち、日本が世界に誇るアニメーションのルーツともいえるでしょう。

『国宝 伴大納言絵巻』人物の表情、動植物、建物、燃え盛る炎などの優れた表現も詳細に

中央公論美術出版『国宝 伴大納言絵巻』は、この日本絵画の最高峰と位置づけられる伴大納言絵巻(全3巻、全長26m)の全場面を原寸大の高精細カラー写真で再現しています。また、人物の表情、動植物、建物、燃え盛る炎などの優れた表現を詳細に鑑賞できるよう拡大した部分図を多数収録するとともに、史実応天門の変との関わり、絵巻の伝来、伴大納言の怨霊伝説、表現による特質、画家像、制作年代・意図、そして科学的調査による新知見などをまとめた決定版です。
『国宝 伴大納言絵巻』でその魅力を十二分に知っていただき、ぜひ「やまと絵」展で本物をご鑑賞ください。

『国宝 伴大納言絵巻』黒田泰三/早川泰弘/城野誠冶 著
B3判(天地515mm 左右364mm)上製 保護函入
カラー口絵338頁/本文76頁
定価13万2,000 円

なお、いずれも中央公論美術出版のHPから送料無料で購入できます。

参考「やまと絵」展での「四大絵巻」展示期間

「源氏物語絵巻」
関屋・絵合:10月11日(水)~22日(日)
柏木二:10月24日(火)~11月5日(日)
横笛:11月7日(火)~19日(日)(以上、徳川美術館蔵)
夕霧:11月21日(火)~12月3日(日)(五島美術館蔵)

「信貴山縁起絵巻」
飛倉巻:10月11日(水)~11月5日(日)
延喜加持巻:11月7日(火)~19日(日)
尼公巻:11月21日(火)~12月3日(日)

「伴大納言絵巻」
巻上:10月11日(水)~22日(日)

「鳥獣戯画」
甲巻:10月11日(水)~22日(日)
乙巻:10月24日(火)~11月5日(日)
丙巻:11月7日(火)~19日(日)
丁巻:11月21日(火)~12月3日(日)

特別展「やまと絵―受け継がれる王朝の美―」
会場:東京国立博物館 平成館(上野公園)
会期:2023年10月11日(水)~12月3日(日)
(※会期中、一部作品の展示替えあり)
休館日:月曜日※ただし、本展のみ11月27日(月)は開館
開館時間:午前9時30分~午後5時 ※金曜・土曜は午後8時まで開館 ※最終入場は閉館の60分前まで
観覧料:一般2,100円、大学生1,300円、高校生900円
土・日・祝日は事前予約制(日時指定)。平日は予約制ではありません。平日券では土日祝日は入場できません。
詳細は展覧会公式サイト https://yamatoe2023.jp/
展覧会公式X(ツイッター)@yamatoe2023問い合わせ先050-5541-8600(ハローダイヤル)

(読売新聞デジタルコンテンツ部美術展ナビ編集班)
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