【高知県探訪・前編】朝ドラ「らんまん」で話題の牧野富太郎博士ゆかりのスポットを巡りました(伊尾木洞・横倉山自然の森博物館・高知県立牧野植物園編)

左:伊尾木洞 右上:牧野富太郎記念館 展示館(高知県立牧野植物園内) 右下:横倉山自然の森博物館 展示風景

植物学者・槙野万太郎の人生を描いたNHK連続テレビ小説「らんまん」。「植物が好き」という一途な思いを胸に、あらゆる常識や逆境を打破しながら突き進んでいく主人公・万太郎の姿に、幾度も元気をもらえます。

万太郎のモデルとなった牧野富太郎博士(1862年〜1957年)は、日本各地を訪れて植物採集・観察を行い、1500種類以上の植物を命名し、約40万枚におよぶ植物標本を収集しました。

全国に牧野博士の足跡が残っていますが、中でも、ふるさと・高知県は博士の研究人生の原点と言えるでしょう。博士は幼い頃から、豊かな自然に恵まれた高知県を「天然の教場」とし、植物への情熱を育んでいったのです。

「らんまん」がクライマックスを迎えつつある今、高知県にある牧野博士ゆかりの場所を訪れました。

訪れた場所

・伊尾木洞(安芸市)
・横倉山自然の森博物館(越知町)
・高知県立牧野植物園(高知市)
・佐川町

探訪したスポットのおおまかな位置関係を美術展ナビ編集班で示してみました。(地図提供:高知県観光政策課)

※各施設情報等は、この記事の末尾をご覧ください。

※牧野博士のふるさと・佐川町については、後編で紹介します。

伊尾木洞(安芸市)

「らんまん」といえば、第一話の冒頭のシーンを思い浮かべる方も多いはず。神木隆之介さん演じる万太郎が、息を切らしながら渓谷のなかを進み、ふと見つけた植物に目を輝かせながら話しかける、あのシーンです。

冒頭のシーンのロケ地となったのが、高知県安芸市にある伊尾木洞(いおきどう)。高知龍馬空港から40分ほど車を走らせると、住宅街の中に突如、洞窟の入口が現れました。

約40メートル続く洞窟の先に、まるで別世界のような渓谷の景色が広がります。40種類以上のシダが渓谷の壁や地面をびっしりと覆っているのです。

これほど多くの種類のシダが一箇所に生息するのは珍しいため、伊尾木洞のシダの群落は国の天然記念物に指定されています。牧野博士は1892年(明治25年)、伊尾木洞を訪れ、シダを採集したそうです。

足元を流れる川のせせらぎ、周囲を取り囲む木々の隙間から漏れる柔らかな光が心地よい! 川によって湿度が保たれ、光が柔らかく差し込むこの環境が、シダにとって理想的なのだそうです。

実は伊尾木洞は、周辺がまだ海だった頃に、波が繰り返し打ち寄せることによってできた天然の洞窟。伊尾木洞の壁は、約310万年前から230万年前の間に土佐湾の海底にたまった地層(砂や泥)からできていると考えられています。

その証拠に、洞窟の壁や地面では、ところどころ、絶滅した二枚貝モミジツキヒガイなど、貝の化石を発見できます。長い年月をかけて生み出された奇跡を体感できるのも、伊尾木洞の魅力の一つです。

シダの種類や地層の見方を教えてくれる有料のガイド(2名から)もあるので、伊尾木洞の見どころを余すことなく知りたい方はぜひ活用してみてください。(詳細は記事の末尾をご覧ください。)

ドラマで万太郎が渡った丸木橋も

横倉山自然の森博物館(越知町)

浅尾沈下橋(提供:高知県観光政策課)

高知県の中西部に位置する越知町は、清流・仁淀川が悠々と流れ、四国の屋根と呼ばれる山々に囲まれた自然豊かな町です。「竜とそばかすの姫」の舞台のモデルにもなり、話題を呼びました。

横倉山(提供:高知県観光政策課)

越知町は牧野博士のふるさと・佐川町の隣にあります。越知町のシンボル・横倉山は、若き日の牧野博士が足繁く通い、研究を重ねた場所。「ヨコグラノキ」「ヨコグラツクバネ」など、博士が横倉山で新種として発見し、命名した植物もあります。

横倉山自然の森博物館 「横倉山のおいたち」展示風景

横倉山のふもとにある「横倉山自然の森博物館」を訪れると、牧野博士がなぜ横倉山に魅せられたのかがよくわかります。同館は、横倉山について「自然」「歴史」「伝説」の観点で紹介し、なかでも「地質学」に関する展示に注力しています。

実は横倉山は、日本最古の部類に属する地層や岩類が広く分布する山。横倉山からは、約4億5千年前の岩石のほか、サンゴや三葉虫など恐竜よりもはるか昔に生きていた生物の化石が発見されています。これらの化石が南半球で見つかる化石と一致していることから、約4億5千年前、南半球の大陸が分裂し、その一部が長い時間をかけて運ばれてきて横倉山を形成したと考えられています。

「横倉山のおいたち」展示風景

こちらは、横倉山で発見されたシルル紀(4億4300年前~4億1700万年前)の化石。絶滅種・クサリサンゴなど、サンゴの化石が展示ケースの中を埋め尽くす様は圧巻です。まさに、横倉山の太古のロマンをありありと物語っています。

北米で見つかったトリケラトプスの化石やアンモナイトの化石も

展示室では、北米のトリケラトプス、アンモナイトの化石なども紹介され、地球の歴史についても学べます。

「アカガシ原生林の不思議」展示風景。横倉山の尾根に広がるアカガシの原生林をジオラマで紹介している。

横倉山のもう一つの魅力が、特殊な地層を好む珍しい植物や、アカガシの原生林が自生していること。しかも驚くことに、古来の森の姿が手つかずの状態で残っているのです。

もともと横倉山は、高知県が土佐国だった頃から高知で唯一の修験道の霊場として神聖視され、伐採が禁じられてきました。さらには、壇ノ浦で入水した安徳天皇が、実は落ち延びて横倉山に住んでいたという伝説も伝わり、安徳天皇陵墓参考地として宮内庁に認められています。展示室では、横倉山の動植物の生態系、伝説なども解説されています。

「歴史と伝説の横倉山」展示風景

人々の横倉山への尊敬、信仰が、稀で豊かな自然環境を今まで守り続けてきたのかもしれません。好奇心旺盛な牧野博士が横倉山に惹きつけられたのは、必然のことのようにも思えます。

企画展「ある日、彼はこの山で大きな夢に出会った」展示風景

同館では、牧野博士と横倉山の関係について紹介する企画展「ある日、彼はこの山で大きな夢に出会った」が来年3月3日(日)まで開催中。今から100年以上前に、牧野博士が横倉山で採集した標本、牧野博士の著作本など、同館が所蔵する資料を通して博士の歩みをたどります。

横倉山自然の森博物館

ちなみに同館は、建築家の安藤忠雄さんが設計。安藤建築の意匠が随所に見られます。建築ファンも必見です。

高知県立牧野植物園(高知市)

牧野博士が愛した植物と触れあいながら、博士について知りたい方には、「高知県立牧野植物園」がおすすめです。高知県立牧野植物園は、牧野博士の業績を顕彰するための施設で、日本で唯一個人の名前を冠する植物園でもあります。牧野博士ゆかりの野生植物や園芸植物など、3000種類以上の植物に出会えます。

「植物園を造るなら五台山がええ」という牧野博士の言葉によって、逝去翌年の1958年、五台山に開園しました。起伏に富んだ地形など、もともとの自然環境との調和を意識しながら各植物を植栽し、植物研究施設としての役割も担います。

園内のあちらこちらで、「らんまん」でおなじみの植物を発見! 様々な場面が頭の中を駆け巡ります。

牧野富太郎記念館・本館

見どころの一つが、1999年に開館した牧野富太郎記念館です。建築家・内藤廣さんが設計した建物で、まるで自然の中に溶け込むかのように佇んでいます。

記念館は、本館と展示館で構成。本館にはボタニカルショップや図書室、牧野博士の蔵書や遺品など約6万点を所蔵する「牧野文庫」や標本室(一般非公開)があり、展示館では常設展示のほか、牧野博士に関する企画展が開かれます。

現在、展示館では企画展として菅原一剛「MAKINO 植物の肖像展」が10月1日(日)まで開催中。

「MAKINO 植物の肖像展」展示風景より

Room1では、写真家の菅原一剛さんが撮影した牧野標本の写真が15点展示されています。1億5千万画素のデジタルカメラと技術を駆使して撮影された写真は、花びらや葉の重なりを立体的に写し出し、葉脈すらも精細に見せてくれます。まさに「植物のポートレート」。植物が、意思をもつ人間のように生き生きとして見えてきました。

「MAKINO 植物の肖像展」展示風景より

Room2では、被写体となった牧野標本を含む資料を展示。標本の作り方もわかりやすく説明した解説パネルもありました。

常設展示「牧野富太郎の生涯」展示風景
常設展示「牧野富太郎の生涯」展示風景

常設展示「牧野富太郎の生涯」では、牧野博士の94年の生涯を紹介。牧野博士が実際に使用した道具、ノート、日記などの複製をはじめ、様々な資料が展示されています。博士の生き様や人柄がにじみ出るような写真も印象的でした。

牧野富太郎記念館・展示館の中庭

展示館の中庭には、牧野博士ゆかりの植物が約250種類、美しく植栽されています。企画展や常設展示を鑑賞した後、余韻に浸りながら、牧野博士の歩みに思いを寄せるのにふさわしい場所です。

温室

この他、東洋の園芸植物を鑑賞できる「50周年記念庭園」、熱帯の植物が生い茂る温室、高知の山々や水平線まで見渡せる「こんこん山広場」など、見ごたえがあります。園内の見どころや見頃の植物を紹介してくれる、有料の園内ガイド(団体のみ)もおすすめです。

さらに園内には、二つのグッズショップ(「ボタニカルショップ nonoca」「牧野ミュージアムショップ サクラ」)があり、植物園のオリジナルグッズや牧野博士にちなんだグッズを購入できます。

※グッズは後日、別記事で開封!

後編では、牧野博士のふるさと・佐川町の見どころを紹介します。

(読売新聞美術展ナビ編集班・美間実沙)

本記事で紹介した場所・施設の詳細

伊尾木洞
住所安芸市伊尾木117
問い合わせ安芸観光情報センター TEL:0887-34-8344
見学所要時間20分~40分
アクセス:ごめん・なはり線伊尾木駅より徒歩7分
高知駅より車で約60分
入館料:入場無料

※有料のガイド有(2名から)
【通常コース(洞窟入口から約200m地点で折り返し】大人800円、小学生300円、未就学児無料
【冒険コース(洞窟入口から約400m地点で折り返し】大人1,000円、小学生300円、未就学児無料

詳しくは(https://www.akikanko.or.jp/kanko/iokidou.html
横倉山自然の森博物館
住所:高知県高岡郡越知町越知丙737番地12
問い合わせ:0889-26-1060
開館時間:午前9時~午後5時(入場は午後4時30分まで)
休館日:毎週月曜日(祝日の場合は翌日)
12月29日から翌年の1月3日まで休館
アクセス:高知~佐川 JR特急で約30分、JR普通で約50分
佐川~越知 黒岩観光バスで約15分
バス停「宮の前」下車 徒歩5分
入館料:大人 500円、高校・大学生 400円、小学・中学生 200円
詳しくは(https://www.yokogurayama-museum.jp/)へ。
高知県立牧野植物園
住所:高知県高知市五台山4200-6
問い合わせ:高知県立牧野植物園 TEL:088-882-2601(代表)
開園時間:9:00~17:00(最終入園16:30)
休園日:年末年始 12/27~1/1
メンテナンス休園 2023/10/30、11/27、
2024/1/29、6/24、9/30、11/25、
2025/1/27
アクセス:JR高知駅南口とさてらす発MY遊バスで約30分
入園料:一般730円 (高校生以下無料)
団体630円 (20名以上)
年間入園券2,930円(1年間有効のフリーパス)
有料の園内ガイド有(10名から予約可)。詳細はホームページをご覧ください。
詳しくは(https://www.makino.or.jp/)へ。

◇【高知県探訪・後編】牧野富太郎博士の故郷「佐川町」を訪ねました。