2025年のNHK大河ドラマは”江戸のメディア王”蔦屋重三郎を描く、横浜流星主演の「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」

左は主演の横浜流星さん。右は作者の森下佳子さん

NHKは4月27日、2025年の大河ドラマが、横浜流星主演の「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺つたじゅうえいがのゆめばなし~」に決まったと発表しました。

喜多川歌麿、葛飾北斎、山東京伝、滝沢馬琴らを見出だし、東洲斎写楽を世に送り出したことで知られる“江戸のメディア王”蔦屋重三郎(1750‐1797)。通称「蔦重」の波瀾万丈の生涯を描きます。作は「JIN-仁-」「おんな城主  直虎」「大奥」などで知られる森下佳子さん。

来年、2024年の大河ドラマは吉高由里子が主演する紫式部が主人公の「光る君へ」が予定されています。

この日、東京・渋谷のNHK放送センターでは制作・主演発表の記者会見が行われました。横浜流星さんは「大河ドラマの主演に選んでいただき光栄です。蔦屋重三郎とともに成長していきたい」と緊張した面持ちで話しました。

脚本を担当する森下さんは会見の冒頭、「正直、この人をやるのか、というのが最初の感想でした」と笑わせ、蔦屋重三郎について「底流に流れるものが明るく、かつお上をチクっとやることも忘れないところがすごくいい」と語り、蔦屋重三郎の楽天的で、かつ批判精神を忘れないスタンスに共感していました。

日本のポップカルチャーの礎築いた「蔦重」

制作統括の藤並英樹チーフ・プロデューサーは、放送年の2025年が日本で初めてラジオ放送が行われてから100年、というマスメディアの大きな節目の年であることを念頭に、テーマを考えたといいます。蔦屋重三郎を選んだ狙いについて「当時の版元として出版を手掛け、黄表紙や浮世絵といった作品を数多く制作。喜多川歌麿や葛飾北斎、山東京伝らと組んで世に送り出した人です。今の日本のアニメや漫画、ドラマ、映画の礎を築きました」と説明。現代へ連綿と続くメディアやポップカルチャーの源流として、蔦屋重三郎に注目したことを明らかにしました。

喜多川歌麿画 「婦女人相十品」(ふじょにんそうじっぽん) ポッピンを吹く娘

そのうえで「彼が生きた時代は飢饉や自然災害が起きて、自由な気風が抑圧された時代でした。蔦屋重三郎自身もお上から罰を受けるなどしましたが、その中で笑いや喜び、悲しみといった感情を描き、人々にエネルギーを与えてきました。視聴者の皆さんと一緒に人が生きる歓びや楽しさについて考えていきたい」と意気込みを語りました。

「写楽はどう描く?」にチーフプロデューサーは!

蔦屋重三郎といえば、東洲斎写楽を世に送り出したことでも有名です。「なぞの多い写楽をどう描くのですか?」と藤並CPに聞いてみました。すると「様々な説がある人物でもあり、森下さんと喧々諤々しながら考えています。美術好き、歴史好きには特に関心が高い人物ですし、皆さんにご納得いただける形にならないかもしれないですが、この『べらぼう』という作品ならでは写楽になると思います。楽しみにしてください」と答えてくれました。キャスティングも含めて期待が高まりますね。

東洲斎写楽画 三世大谷鬼次の奴江戸兵衛

吉原の貧しい庶民の子から江戸の出版王へ

【物語】 蔦屋重三郎(1750-1797)
18 世紀半ば、人口は 100 万人を超え、天下泰平の中、世界有数の大都市へと発展した大都市・江戸。蔦重こと蔦屋重三郎は、江戸郊外の吉原の貧しい庶民の子に生まれ、幼くして両親と生き別れ、引手茶屋の養子となる。血のつながりをこえた人のつながりの中で育まれた蔦重は、貸本屋から身を興して、その後、書籍の編集・出版業をはじめる。
折しも、時の権力者・田沼意次が創り出した自由な空気の中、江戸文化が花開き、平賀源内など多彩な文人が輩出。蔦重は、朋誠堂喜三二などの文化人たちと交流を重ね、「黄表紙本」という挿絵をふんだんにつかった書籍でヒット作を次々と連発。33 歳で「江戸のシリコンバレー」こと、日本橋通油町に店を構えることになり、“江戸の出版王”へと成り上がっていく。
蔦重が見出した才能は、喜多川歌麿・山東京伝、葛飾北斎、曲亭馬琴、十返舎一九といった若き個性豊かな才能たち。その多くは、のちの巨匠となり日本文化の礎となっていく。

弾圧を受けても、権力には屈せず

しかし時世は移り変わり、田沼意次は失脚。代わりに台頭した松平定信による寛政の改革では、蔦重の自由さと政治風刺は問題になり、財産の半分を没収される処罰を受ける。周囲では江戸追放や死に追いやられるものもあらわれる…蔦重は、その後も幕府からの執拗な弾圧を受け続けるが、反権力を貫き通し、筆の力で戦い続ける。
そんな中、蔦重の体を病魔が襲う。命の限りが迫る中、蔦重は決して奪われない壮大なエンターテインメント「写楽」を仕掛けるのだった……。
(美術展ナビ編集班 岡部匡志)
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