天本英世(1926~2003)と言えばやっぱり「仮面ライダー」(1972)の死神博士を思い浮かべる方も多いのではないか。

私は残念ながら昭和の仮面ライダーはほぼ見た事がなく、自分の子供と一緒に「仮面ライダークウガ」(2000)を見たのがライダー初体験に近い。そんな私であるから天本英世さんと言えばやはり東宝特撮映画の出演が印象深い。

中でも代表作と言えるのは「キングコングの逆襲」(1967)のマッドサイエンティスト、ドクター・フーだろう。この男の色気、たまりません。これはゴジラ・ストアで発売されている「東宝特撮公式ヴィジュアル・ブック」の「天本英世1967」の表紙である。一冊まるごと天本英世。たまりません。

「海底軍艦」(1963)のムウ帝国の長老とか

「マタンゴ」(1963)では顔も見えないマタンゴの人間体を演じていたりします。

テレビでも活躍し、「ウルトラQ」の第28話「あけてくれ!」(製作は1966。放送は1967)のSF作家・友野健二役も印象深い。

ある年代の方にとっては「平成教育委員会」で1991~1993年に生徒役で出演していた印象も強いのではないか。東大(中退)出身のインテリであり、自由主義者、無政府主義者であり、国家への批判、天皇の戦争責任を問うなど過激な発言でも知られたが、その素顔は大変子供好きな優しい人だった。

この柔和な笑顔こそが天本英世さんの本質だと私は思っている。そんな天本さんの優しさが一番現れている役が

「オール怪獣大進撃」(1969)の発明おじさんだろう。死神博士から町の優しい発明おじさんまで演じる幅広さが天本さんのスゴさだ。1984年の「ゴジラ」公開に合わせて発売されたムック本の中で最大の異色作にして最大の問題作「ゴジラ宣言」(1985・宝島編集部・JICC出版局)は最高のムック本であり、昭和のゴジラシリーズを初めて様々な観点から掘り下げ、本多猪四郎監督の演出や伊福部昭の音楽の本格的な再評価を最初に取り上げたムック本とも言えるが、この本の中に「出さなかったファン・レター 怪獣俳優に愛をこめまくって」というコーナーがあり、そこで天本英世さんについて「ドクター・フーのようなマッド・サイエンティストももちろん素晴らしいのですが、「オール怪獣」の時の町のやさしい発明おじさんが忘れられません。あのやさしさは天本さま自身のやさしさではないかと思います」と書かれています。

天本さんについてはもうこれ以上語る必要がないくらい素晴らしいコメントだと私は激しく同意する。