80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.237

 

真実  小林明子

作詞 松本隆

作曲 小林明子

編曲 船山基紀

発売 19862

 

 

 

『恋におちて』の大ヒットの次というプレッシャーの中でリリースされたのは、一転して爽やかで心地よいメロディーのラブソング

 

 小林明子といえばデビュー曲『恋におちて -Fall in love-(19858)です。社会ブームにもなった大ヒットドラマ「金曜日の妻たちへIII・恋におちて」の主題歌に起用されると、ドラマの内容と番組内での音楽の使われ方が見事にマッチして、オリコン1位、売上95.4万枚という、歌もこの年を代表するような特大ヒットとなったのです。一気にテレビやラジオ、雑誌等のメディアへの露出が増え、いきなり有名歌手の仲間入りを果たしました。そんな中で、2ndシングルとして発売されたのが今回取り上げた『真実』です。

 

 大ヒット曲の次の曲ということで、どんな歌で攻めて来るのか、大いに注目を浴びるでしょうし、期待もされたでしょう。一発屋になってしまうのか否かという、世間的には興味本位的な視線もあったと思われます。そんな状況下において、不倫ソングとしてイメージが定着した『恋におちて -Fall in love-』とその歌い手である小林明子は、同じ路線で攻めることをせず、むしろ対照的な爽やかで前向きな恋愛ソングで来たわけですね。

 

 作詞は松本隆。『恋におちて -Fall in love-』は英語の得意な湯川れい子ということで、ここで松本隆を起用したことからも、路線を変えていきたいというのは明確なところ。作曲はもちろん小林明子自身。歌詞の内容自体は、恋人と思われる相手に対しての素直な思いを綴ったものになってしまいますが、それが松本隆にかかると、情景がしっかり浮かんでくるような詩になってくるのですよね。

 

 《旅行鞄抱いて待つわ 星空に浮かぶ駅》

《最初の嘘は偽りの電話教えた時ね 二度目は 愛してる?って聞かれ 黙ってたあの夜》

《失くしたリングも ほんとは外してただけ》

…。素直になれずに、好きなのに意地を張ってしまい離れてしまった恋人に対し、

《哀しいくらいに好きよ 後悔したくはないから あなたに逢いにゆくわ 抱きしめて》

と、本当は好きで仕方ない気持ちに素直になって、恋人のいる街へ夜汽車で向かうというストーリーが浮かび上がってきます。歌謡曲の世界ではよくありそうな設定ではありますが、新進アーティストの小林明子のメロディが乗ると、また新鮮な曲に仕上がっていくのです。

 

個人的には『恋におちて -Fall in love-』よりもこちらの方が好きで、彼女の作った曲は、マイナー曲よりもメジャーの曲に魅力を感じています。5thシングル『くちびるスウィング』       (19872)も明るさの中に切なさを感じる初春らしい曲で、好きなんですよね。でも売れたのは『恋におちて -Fall in love-』や『心みだれて』(198610)のように、ドラマがらみの悲しげな曲。『真実』はオリコン18位、売上7.4万枚と健闘はしていますが、一般に知れ渡るほどのヒットにはならず、個人的には残念でした。他のアーティストへもたくさん楽曲提供していますが、アルバムが中心。何かシングルで1曲でも当てていたら、また違って展開が見えたのかもしれません。