個性あふれる演技で僕たちを魅了してくれた俳優の古谷一行さんが、8月23日にお亡くなりになりました。78歳でした。

 

古谷さんは、2011年に肺癌であることを公表され、切除手術を受け、翌年復帰されますが、脳への転移が判明して放射線治療を受けるなど闘病を続けてらしたそうです。

 

さらに胃癌により胃を全摘していたことも没後にご子息の建志さんにより明らかにされました。

 

亡くなる2年前からは体調不良を理由に公の場に姿を見せてはいらっしゃらなかったのですが、ご本人は復帰に向けてトレーニングを続けていらしたそうです。

 

先月23日、体調不良から大事をとって検査入院されたところ、そのまま帰らぬ人になられてしまいました。

 

一報を聞いた時は驚きました。突然だったもので…。

 

古谷さんは、肺癌を切除された後、脳転移が見つかったそうです。

 

僕の母は、亡くなる一年前くらいから、足の付け根が痛いと言っていたんです。マッサージやら鍼灸やらでごまかしていたようでしたが、一向に改善しないので病院で診てもらったところ、大腿骨に腫瘍があり、それは放射線治療で治りましたが、他に転移がないか詳しく調べたところ、肺に癌が転移していて、後に脳転移も見つかりそれが死因でした。

 

どうして、足が痛いと言っていたときに、もう少し親身に母のことを気遣ってやれなかったのかと今でも悔やまれます。

 

仕事に追い立てられて、中々一緒の時間を作れなかった息子を許してほしいと思います。

 

その時、実は癌になると、1割が脳転移を起こします。脳転移しやすい癌が肺がんで、全体の46%を占めているとお医者さまから言われたことを思い出しました。

 

僕の父も胃癌で胃を3分の2、摘出していました。大動脈瘤の手術も2回受けていますし、高血圧症のため、慢性腎不全になり、週3回、人工透析を受けていました。晩年は歩行器や介助がなけれは歩けない状態で、人工透析中に心不全で突然亡くなったんです。

 

今回、古谷さん死去のニュースを聞き、天国にいるであろう両親のことを思い出してしまいました。

 

人はいつかこの世からいなくなる時が来ると分かっていても、身内や好きな人の死は辛くて悲しいものですね。

 

僕の中で古谷一行さんといえば、小学生の頃、夕方、母と一緒にTVの再放送で見ていたドラマに出ていた人と言うのが最初の出会いです。

 

記憶に残っているのは、1976年〜1977年にかけてTBSで放送していた『三男三女婿一匹』というドラマです。

 

【脚本】高橋玄洋、福田陽一郎、市川森一

【主題歌】杉田二郎「僕たちの箱舟」

【出演】森繁久彌、山岡久乃、井上順、新克利、杉村春子、西田敏行、あべ静江、泉ピン子、古谷一行、坂口良子、研ナオコ、堀内正美、池上季実子、加藤 健一、財津和夫、高畑淳子、吉行和子、カルーセル麻紀、由利徹、高橋長英  ほか

 

◎こんな物語です。

桂大五郎(森繫久彌さん)は上野の不忍池のほとりにある桂病院の二代目院長。口は悪くて素直じゃない気難しい性格をしていますが名医と評判です。

 

嫉妬深くて口やかましい妻・政江(山岡久乃さん)は元婦長。長男の啓介(新克利さん)は外科医。次男の健太郎(井上順さん)は小児科医。長女・すみれ(泉ピン子さん)は栄養士。次女・弓子(あべ静江さん)は薬剤師。三女の君子(池上季実子さん)は大学浪人生。そしてすみれの娘婿・和之(西田敏行さん)は病院庶務主任。三男の英世(加藤健一さん)だけ病院一家の変わり種で風景専門のカメラマン。

 

大五郎は入り婿で、長男、次男、三男は大五郎の実子。長女すみれは養女。次女と三女は政江の連れ子という家族構成です。

 

大五郎はそんな大家族の大黒柱ですが、新人看護師から入院患者と間違えられ、巡回に行けば、口悪く仕切ってしまうため煙たがられ、家族といえば大五郎の説教など聞きもしません…。

 

森繁久彌さん演じる院長とその息子たち、生き方の違いから起こる自己主張の対立や家族の悲喜こもごもを、個性あふれる名優たちが軽妙洒脱に演じる、思わず笑みを誘われる秀作ドラマでした。 

 

最高視聴率25.4%をマーク!

好評につき3シリーズ制作されました。

 

古谷一行さんは、桂病院に勤務する上原得三郎という内科主任を演じていました。

 

昔はこういう大家族だからこその楽しさや難しさや、肉親同士の心の触れ合いの大切さを問いかけるドラマはたくさんありましたよね。

 

古谷さんはメインキャストではなかったと思いますが、二枚目で色気があり、子供心にいいなぁと思っていました。

 

1981年にフジテレビ系列で放送された時代劇『江戸の用心棒』も覚えています。

 

藤沢周平さんの時代小説『用心棒日月抄』が原作で、古谷さんは主人公の正義感の強い剣客・青江又八郎を演じていました。

 

奥州高沢藩を浪人して江戸に出て、浅草に住み着いた剣客・青江又八郎(古谷一行さん)。

 

又八郎と知り合った5人の子持ちの素浪人・細谷源太夫(夏木勲さん)、旗本の三男坊で、博打にはまった為に、家を勘当された米坂八内(田中健さん)の3人は、口入れ屋の吉蔵から仕事をもらって生活する日々を送っていましたが、3人の周りでは難事件が次々に起こり、3人はそんな数々の事件を解決すべく活躍するのでした…。

 

個性豊かな素浪人トリオ(古谷一行さん、夏木勲さん、田中健さん)がいいんですよ〜。なんかみんな人間臭くて。それぞれ生きていかなきゃならない事情を抱えてて、藤沢周平さんの原作もいいんでしょうけど、この3人の俳優の魅力がドラマを引き立てていました。毎回、ゲストも豪華でした。

 

古谷一行さんといえば、1977年〜1978年に放送された『横溝正史シリーズ』ですよね〜。

 

ドラマ版が放送される前年、1976年の10月16日に封切られた角川映画、市川崑監督「犬神家の一族」の大ヒットを受けてのドラマ化だったのかも知れませんが、映画版には負けないぞというような、作り手の熱い情熱が感じられる素晴らしいドラマシリーズでしたよね〜。

 

僕はドラマ版を観る前に、『犬神家の一族』から『病院坂の首縊りの家』までの映画版5作は観ていましたし、原作も全て読んでいました。市川崑監督による華麗なる映像表現に魅了されていましたから、ドラマ版はどうなんだろうと最初は甘く考えていましたが、特に第一シリーズはどの作品も傑作といえる出来栄えで、何度でも見返したくなる映像作品だと思います。

 

『横溝正史シリーズI』

第1作『犬神家の一族』

監督:工藤栄一

主演:京マチ子 田村亮

 

第2作『本陣殺人事件』

監督:蔵原惟繕

主演:淡島千景 佐藤慶

 

第3作『三つ首塔』

監督:出目昌伸

主演:佐分利信 真野響子

 

第4作『悪魔が来りて笛を吹く』

監督:鈴木英夫

主演:草笛光子 沖雅也

 

第5作『獄門島』

監督:斎藤光正

主演:中村翫右衛門 

 

第6作『悪魔の手毬唄』

監督:森一生

主演:佐藤友美 夏目雅子

 

このシリーズは全作品DVD化されていますし、CSでも繰り返し放送していますので、それだけ人気があり、制作されてから月日が経っていますけど、古びない作品なんだなと感じます。

 

各作品、キャストが豪華なんですよ。毎日放送と角川春樹事務所の企画で、東宝、大映京都・映像京都、三船プロダクションとの共同製作。劇場映画経験豊富なベテランスタッフを投入した豪華な制作陣が話題となったドラマです。

 

監督も東宝、日活、東映、大映で活躍されていた名匠ばかり。

 

エンディングに流れる、茶木みやこさんが歌う『まぼろしの人』が雰囲気があって良かったですよね〜。なんかミステリアスな歌声でね。

 

古谷さんは、金田一耕助役のオファーがあった時、金田一耕助という探偵の存在も知らなかったそうです。原作を読んだのも出演が決まってからで、読み終わったとき「自分にははまらないのではないか?」と、役者としての不安を感じたとおっしゃっています。

 

撮影で京都へ行っても、「このまま東京へ帰りたい…」と思ってしまうほどだったそうです。

 

それまでの古谷さんは、メロドラマと言われる男と女の愛を演じることが多く、そういった意味では解放された、金田一のような自由なキャラクターは、やりにくく、難しいなと感じていたんだそうです。

 

そうなんですよ〜若い頃の古谷さんって恋愛ドラマが多かったんですよね。木下惠介プロダクション制作の『華やかな荒野』(1974年〜1975年)とか。これCSで放送してくれないかなぁ。

 

金田一耕助って映画版の石坂浩二さんの印象が強いと思うんです。僕もそうでした。

 

だから古谷さんのドラマ版を観る前は結構不安でしたね〜。映画を超えることは難しいだろうと思っていました。

 

でも第1作目の『犬神家の一族』を観た時にそん不安は消えました。あぁ、また違った新しい個性の金田一耕助がいるじゃないかって。

 

古谷さん演じる金田一は、とても人間臭くて、親しみやすく、愛嬌のある笑顔の優しい金田一でした。ガサツそうに見えて繊細で肌が白いところが良いです(笑)。金田一は色白でなきゃ。

 

「うーん…わからんのですよ。」と頭をかきむしるところも可愛いし、ボサッとしていながら突然ズバッと確信をついたセリフを決めるところも良いですね〜。

 

着物がはだけて下着のラクダのシャツが見えているところも人間味があって良いし、映画版にはない、東京の金田一事務所の野村昭子さん演じるおばちゃんから、たびたび「早く金を送ってくれ!」「電気が止められた!」「早く帰ってきてくれ!」という電話がかかってくるシーンも微笑ましいです。二人の関係性も良いですね〜。

 

『犬神家の一族』の工藤監督は、走ったり、逆立ちしたりというダイナミックな金田一を、『本陣殺人事件』の蔵原惟繕監督は、人への癒しとか優しさを前面に出した金田一を創ってくれたそうです。

 

『獄門島』の斎藤光正監督、『悪魔の手毬唄』の森一生監督などが、自分なりの思いを金田一に加えられてそういうものが総合的に重なり、人間的な、親しみやすいキャラクターに成長できたと思う、金田一役は役者として一皮むけるためのきっかけとなったとても大切な役だったと古谷さんはおっしゃっていました。

 

シリーズは高視聴率を記録し、『金田一といえば古谷一行』というイメージが定着しましたよね。

 

日本唯一のミステリードラマ専門チャンネル 『AXNミステリー』では、古谷一行さんを偲び、古谷さんが主演を務める『金田一耕助シリーズ(1983年〜2005年)』全32話を、11月3日(木・祝)朝6時より3日間にわたって放送するそうですよ。

 

<放送エピソード>

本陣殺人事件/ミイラの花嫁/獄門岩の首/霧の山荘/死仮面/香水心中/不死蝶/殺人鬼/死神の矢/薔薇王/悪魔の手毬唄/魔女の旋律/八つ墓村/悪魔が来りて笛を吹く/女怪/病院坂の首縊りの家/三つ首塔/迷路の花嫁/女王蜂/悪魔の唇/悪魔の花嫁/呪われた湖/黒い羽根の呪い/幽霊座/獄門島/悪魔の仮面/悪霊島/トランプ台上の首/水神村伝説殺人事件/人面瘡/白蝋の死美人/神隠し真珠郎

 

古谷さんは映画でも1本、金田一耕助を演じています。1979年公開、大林宣彦監督の『金田一耕助の冒険』です。

 

横溝正史さんの小説『瞳の中の女』の映画化で、盗まれた石膏像の頭部にまつわる連続殺人事件を金田一耕助の活躍で解決に導くミステリー・コメディ映画です。

 

全編にわたって当時大ヒットしていた邦画洋画、過去の名画、CMや角川映画、歌謡曲などのパロディが盛り込まれているんです。

 

金田一の相棒の等々力警部に田中邦衛さんを配し、新ヒロインに熊谷美由紀さん(現・松田美由紀)を起用。低予算でありながら、豪華なキャスティングなんです。

 

友情出演として、原作者である横溝正史さんがセルフパロディを含む本人役、製作の角川春樹さん、『白昼の死角』の原作者・高木彬光さん、作家の笹沢左保さんがゲストで登場しているほか、志穂美悦子さん、斉藤とも子さん、峰岸徹さん、岸田森さん、檀ふみさんら、これまで大林宣彦監督の映画や角川映画に縁のあった俳優も、短いシーンながら数多く出演しています。

 

特別出演に、夏木勲さん(夏八木勲)が『白昼の死角』の隅田光一、岡田茉莉子さんが『人間の証明』の八杉恭子、三船敏郎さんが劇中劇の11代目金田一耕助、三橋達也さんが劇中劇の等々力警部としてクレジットされていました。彼らの殆どが無償か無償に近い出演だったそうです。

 

大林監督は「角川春樹と大林宣彦に対する非難のすべてをギャグにしてやろうという、たいへん身も蓋もない、多少ネクラな悪ふざけをやってみよう」と思い、本作を作ったとおっしゃっています。

 

馬鹿げた映画だという人もいるでしょうけど、好きな人は好きなんじゃないかなぁ。くだらないと一言では言い切れない魅力のある作品だと僕は思っています。もっとつまらない映画なんて他にもたくさんあるじゃないですか。若き日の古谷さん、良いですよ(笑)。

 

日本映画初の試みとしてつかこうへいさんが「ダイアローグ・ライター」として参加しているし、タイトルバックは和田誠さんだし、そんなところも見所だと思います。

 

最後に僕が高校生の頃、再放送で観てハマったのが『金曜日の妻たちへIII 恋におちて』(1985年)です。

 

小林明子さんが歌った主題歌『恋におちて -Fall in love-』が大ヒットしましたね。

 

“金妻(キンツマ)”なる流行語を生み出したヒット作「金曜日の妻たちへ」のパート3です。脚本は前2作と同じ鎌田敏夫さんが手がけました。

 

パート3の舞台は東京郊外の私鉄沿線で“中庭を持つ家”。名門女子校の同窓生で、現在は同じ住宅地に住むヒロイン4人の友情を恋愛も絡めながら描いています。

 

彩子(篠ひろ子さん)、由子(小川知子さん)、法子(森山良子さん)、桐子(いしだあゆみさん)は仙台のお嬢様学校、青葉女学院で幼稚園から短大まで16年間を共に過ごした同級生。子供の頃のまま桐子以外はお互いの愛称でタケ、おコマ、ノロと呼び合っています。その後結婚し家庭を持ちますが、家が近いことも縁でそれぞれの夫も含めなにかと連絡を取り合い集まっています。桐子は離婚後連絡が取れなくなっていましたが、おコマが偶然銀座で再会するのです。タケの父親が所有している三浦の別荘でパーティーが開かれ、そこに桐子も招き4人は旧友を温めます。しかし彩子の夫、圭一郎(古谷一行さん)と桐子は以前恋人関係で、それはこの2人の再会も意味していました。このパーティーに桐子が同僚で後輩の藤森(奥田瑛二さん)を連れてきてノロと藤森は出会います。この2組の禁じられた恋とグループ交流そして女学生時代の思い出話を主にストーリーは進行します。

 

結ばれるはずだった元恋人同士の二人がある夏の日のパーティーで再会したことから、平凡な日常と長い友情がとめどなく揺れ始めるのです…。

 

大人なドラマでしたけど、僕、ハマっちゃいまして(笑)。

 

桐子を演じた、いしだあゆみさんが良いんですよ〜。かつて熱い想いを抱いた恋人(古谷一行さん)は今は親友の夫。不倫と知りながら抑えられない気持ちや葛藤、揺らぐ心を目で表現されていて素敵なんです。

 

親友の夫を奪うのですから、悪い女なのかも知れないけれど、僕はなぜかすごく共感したんですよね〜。妻を演じた篠ひろ子さんの気持ちも痛いほど分かったりして、変わった高校生だったなぁ(笑)。

 

その二人の間で、揺らぎ続ける古谷一行さんの気持ちも男だから理解できたりして、鎌田敏夫さんの脚本が、登場人物一人ひとりの背負っているものを細かく描いていて、俳優さんたちも年齢的に脂の乗り切った頃で、ただの不倫ドラマではない人を愛することの奥深さを感じさせてくれたドラマだったと思います。

 

最終回の決着の付け方も、とても感動的でした。

 

また一人、僕の人生に感動を与えてくれた名優が旅立たれました。古谷さんの笑顔は、いつまでも作品の中で生き続けます。

ご冥福をお祈りいたします。