『ゴールド・ボーイ』 (2024) 金子修介監督 | FLICKS FREAK

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いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

「好きこそものの上手なれ」を地で行く金子修介監督。ヲタクよろしく怪獣映画を撮らせれば、平成ガメラシリーズや『ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』(2001)といった素晴らしい作品を撮る監督。彼はゴジラ・シリーズとガメラ・シリーズの両方を監督した唯一の監督(庵野秀明は、樋口真嗣監督『シンゴジラ』で総監督、『ゴジラ3 邪推覚醒』のメイキング『GAMERA1999』を監督しているが)。しかし個人的には、これまでそのほか一般映画ではさほど評価できる作品はなかった(『毎日が夏休み』(94)くらいのものか)。

 

その金子修介監督最新作は、中国のベストセラー小説の映画化作品。先立って中国でドラマ化された配信シリーズは総再生回数が20億回を越えるという人気作品。

 

ネタバレ厳禁というのは最近邦画で人気しているジャンル映画の決まり文句だが、結論から言えばいかに個人的に敬愛している金子修介監督とはいえ、猜疑心満々のひねくれ者の自分にとっては、この手のジャンル映画は合わなかった。展開が非合理的なご都合主義で、腑に落ちない点が満載。こうした作品に素直に驚ける人がうらやましいと思えた。それでもいい点を先に述べ、その後にネタバレの感想を述べる。

 

本筋は、殺人犯と少年たちが繰り広げる心理戦の行方を描いたクライムサスペンス。殺人をモチーフにしたミステリーでありながら、愛が感じられた。個人的にそれは大きなプラス。事件の暴露となる中学生の一人夏月の手紙に、自分が犠牲になっても愛する人を守りたいという愛の本質を見た。また、黒木華演じる母親の姿に、子供がいかにモンスターであっても母親はそれを受け入れる存在という母性愛を見た。そのいずれも観る人によっては納得がいかないところかもしれないが、個人的にこの作品での見どころはそこだった。

 

以下ネタバレ。

 

まず、中学生が殺人犯の殺人現場を偶然に動画に撮って、それを警察に届けるのではなく恐喝のネタとするという荒唐無稽さには目をつむるとしよう。

 

岡田将生演じる殺人犯が(婿養子ではない)入り婿であり、義父母を殺しても遺産を直接相続することはできず、離婚されると全く実入りがないことが一連の事件の背景。なので、遺産目当ての結婚であれば、離婚される前に妻を殺害しなければならないという展開。しかし、妻の殺害に覚醒剤の内服というのはかなり無理がある。妻が毎朝飲む美容サプリに模した二重のカプセルに入れた覚醒剤を飲ませるのだが、美容サプリのボトル中身を全て覚醒剤に入れ替えるならまだしも、一粒入れたカプセルが狙った日の朝に出てくる確率はかなり低いだろう。そして、カプセルをいかに二重にしようとも、それが溶け出すのはアリバイ工作(その前に二日間の出張に出る)にはあまりにも時間が足りない。しかも、それが溶け出した時に高速道路で愛人を同乗させた運転中というのは偶然が過ぎる。そして覚醒剤を内服してのODが不自然であることは警察も理解しながら、殺人事件として捜査しないというのはあり得ないだろう。

 

そして朝陽が、父とその再婚相手の女性を殺す動機があまりにも弱過ぎる。そもそも中学生が振られた相手にキモいと言われたからといって殺すのも「どうなんだろう」だが、それはよしとしても。

 

そして最大の難点は、大どんでんの展開。中学生3人は、東昇のマンションには警戒して3人が揃って行くことはなかった。それが、義父母殺害現場を映したメモリーを手渡す際には3人で向かった。そして中学生の一人の浩が東昇に心を許していた。3人が東昇のマンションに入っていくシーンの時点で、3人が殺されるであろうことを予感。しかし、それでは物語としては面白くないので、どう逆転するのか注意深く観ていた。そして食事を取ることに。「ん、これは毒殺か」と思ったのだが、「ウーバーか。毒を入れるのは難しいな」と思ったところに、テーブルの上のコーラと東昇がアイスペールに入れた氷を持って来る。「ははーん、これはコーラか氷のどちらかに毒を盛るパターンだな」と思っていると、浩と夏月がコーラを飲んだ後に朝陽が咳き込む。これで朝陽が毒殺を免れることは確定、のはずだった。それがその後に朝陽もコーラを一口飲んだのを見て「あれ?」となった後の、あの展開。自分の見間違えでなければ、朝陽もコーラを口にしていた。そしてその毒が(朝陽が示唆した通り)即効性のある青酸カリであるならば、浩が東昇を刺殺するという偽装は不自然だろう。

 

日本でありながらどこか異国情緒の漂う沖縄を舞台にしたことは、作品の雰囲気づくりには大きく寄与したと思われた。しかし、全体の演出が古臭く、火曜サスペンスの域を出ていない「昭和の感覚」のミステリー作品という印象はぬぐえなかった。

 

李相日監督の秀作『悪人』 (2010)で満島ひかりを車から蹴り出した大学生を演じ、イケメンながらサイコパス的な悪い奴を演じさせれば右に出る者はいないと個人的に思っている岡田将生。この作品でも、彼のキャラクターは存分に発揮されていた。そしてそれを上回るサイコパスが実は中学生にいたという驚きの展開。しかし、自分にはそれが観客に対して不誠実な騙しによるものとしか思えなかった。

 

★★★★★ (5/10)

 

『ゴールドボーイ』予告編