ポップな効果音とともに
お侍さんが城下町を歩いている様子が
可愛らしい漫画絵によって描かれています。



お侍さんは見すぼらしい格好をした
サングラス姿の男に
「あたいはだれだい?」
と、早回しのような声で呼び止められます。



お侍さんが男のサングラスを取り、
「ふうせんガムすけだろう」
と、同じく早回しのような声で応えると、



男は身につけていた見すぼらしい服を脱ぎ、



ふうせんガムを膨らまして、



不思議そうに見つめるお侍さんにお構いなく
浮かんでいきます。



そのまま空高くに浮かび上がった男が
お日様に見守られながら風に流されていき、



カラスの鳴き声を背に受けながら飛ぶ様を
映しながら、

“しみじみ。”

というテロップが画面に出されて
CMは終わります。




ポップな絵柄に何ともシュールな内容の
アニメーションで綴られたCMです。


CMの最後に出される画面には、

製作 讀賣新聞
企画 宮崎駿
原作 杉浦茂
演出 宮崎吾朗
作画 大場加門
制作 スタジオジブリ

の文字が見られます。


原作の杉浦茂さん。


戦前から戦後にかけて漫画を描き続け、
後進に多大なる影響を与えた漫画家です。


ポップな絵柄で構成されていると思いきや、
急にリアルでおどろおどろしい絵柄を挟む
唯一無二の奇想天外な漫画紙面に
所狭しと散りばめられたナンセンスギャグを
独特な言葉で彩るその作風は
シュールギャグ漫画の祖と讃えられるべき
存在であり、

赤塚不二夫、みなもと太郎、日野日出志、
花輪和一、いしかわじゅんなど
多くの偉大な漫画家の先生達に影響を与え、
手塚治虫さんまでも彼の漫画には一目置いて
いたと言われている程です。


読んでいて心躍りながらもどこか安心感を
得ることのできる杉浦さんの漫画は、
初版が刊行されて60年経った今でも充分に
楽しめる、
というより寧ろ今読むと逆に新鮮さを感じる
ことの出来る作品ばかりです。


そんな杉浦さんの漫画が織りなす世界が、
前述した漫画家さんたちと同じく彼の影響を
受けた1人である宮崎駿さんによる企画、
長男である宮崎吾朗さんの演出、
スタジオジブリの制作によって、
読売新聞のCMとして60年の時を経て現代に
カラーアニメーションとして蘇ったのです。


杉浦さんの世界観を忠実に守られた
その作品から宮崎駿さんの杉浦さんに向ける
リスペクトの思いが如実に現れています。


『杉浦茂』という偉大なる漫画家の存在を
テレビCMにて放映することで現代に生きる
幅広い人々に遍く知らしめ、
貴重な映像記録として残していただいた
宮崎駿さんと読売新聞には感謝しても
し尽くせない思いです。



古書店等で杉浦茂さんの作品を見かけたら
騙されたと思って是非読んでみてください。


その世界観に一気に引き込まれ、
読後にはえもいわれぬ満足感に包まれます。