第6765回「がんばっていきまっしょい 映画版 敷村良子原作 感想、ストーリー、ネタバレ」 | 新稀少堂日記

第6765回「がんばっていきまっしょい 映画版 敷村良子原作 感想、ストーリー、ネタバレ」

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 第6765回は、「がんばっていきまっしょい 敷村良子原作 感想、ストーリー、ネタバレ」(1998年)です。優れた青春群像劇に仕上がっています。ストーリーについても無理はありません。ストーリーの紹介にあたっては、便宜上、原作と関係なく章とサブタイトルを付けさせていただきます。


 タイトルの由来は、一種の気合いでありエールです。リーダー格が「がんばっていきまっしょい!」と呼び掛けると、全員が「しょい!」と短く答えます。舞台は松山市の三津浜(?)です。


「プロローグ 廃屋となった部室」

 3人の男たちが、廃屋となった木造建築物に自動車を横付けにします。中に入ると、いつ壊れてもおかしくないほど傷んでいました。壁には、5人の少女を写した写真が張り付けられていました・・・・。「取り壊すしかないな」


「第1章 部活はボートだ!」

 1976年春、夕陽の中、海は金色に輝いていました。沖合を5人乗りのボートが進んでいました・・・・。その海を見つめていたのが、篠村悦子(悦ネエ、田中麗奈さん)でした。彼女は、4月から伊予東高に入学する予定だったのです。姉は秀才なのですが、悦子は・・・・。


 学校でも、答案用紙に漫画を描いていました。もちろん、教師から叱られます。「立っとけ!」、今なら体罰だと大騒ぎになりますが・・・・。悦子の後ろに座っていたのが、矢野利絵(リー、千崎若菜さん)でした。彼女の方から積極的に声を掛けます。


 悦子は、ボート部の顧問をしている教師に会い、入部希望を伝えますが・・・・。女子部はなかったのです。「篠村、ボートをやりたかったら、5人を集めろ。ひとりでボートはでけん」、それでも悦子はボート部に入部します。着替えひとつにつしても大変でした。


 そこで再会したのが、幼馴染の関野大(松尾政寿さん)でした。「なんでブーがここにいるのよ?」、関野は子どもの頃、デブだったのです。生意気な悦子をジャングル・ジムから突き落としたこともあります・・・・。ところで、悦子の練習は陸上に限られています。


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「第2章 集められた4人、新人戦までだから」

 悦子の仲間集めは続けられていました。「秋の新人戦まででいいから、ボートやろうよ」の勧誘に応えた女子が4人いました。ところで、高校で一般的に行われている競技が、「ナックル・フォア」でした。4人の漕ぎ手と1人の舵手で構成されています。


 メンバー紹介を兼ね、ポジションを記しておきます。

① コックス(舵手)、中崎敦子(ヒメ、清水真実さん)・・・・ 体力に自信がないため、コックスを選択した経緯があります。母親は亡くなっています、そのためか、料理が得意です。コックスの役割は、舵を担当する以上に、全員にペースを指示するという司令塔ともいうべき存在です。コックスの「キャッチ、ロウ」の掛け声で動きを合せます。


② 1番漕ぎ手(ストローク)、篠村悦子(悦ネエ、田中麗奈さん)・・・・ 本作の主人公、女子ボート部ではリーダー的な存在です。後ろ向きに漕ぐボートでは、ストロークは船尾に最も近い漕ぎ手です。残り3人は、コックスの指示だけでなく、ストロークの動きにも合せます。


③ 2番漕ぎ手(ミドルクルー)、矢野利絵(リー、千崎若菜さん)・・・・ クラスでは、悦子の後ろの席に座っています。協調的な少女です。ミドルクルー(2番漕ぎ手と3番漕ぎ手)は、ボートではエンジン的な存在であり、パワーを必要としています。


④ 3番漕ぎ手(ミドルクルー)、菊池多恵子(ダッコ、真野きりなさん)・・・・ 最も背の高いメンバーです、辛辣な言葉が洩れますが、決して非協力的ではありません。


⑤ 4番漕ぎ手(バウ)、中浦真由美(イモッチ、久積絵夢さん)・・・・ 小太り体型で背も低いメンバーです。バウは艇首の位置ですので、全員の漕ぎが見えます。姿勢の修正を指示するのもバウの役目です。また、艇の衝撃を最も受けやすいポジションになっています。


 しかし、5人そろいましたが、全員素人です。中学時代に体育会系の部には、誰も所属していません。ボートに乗りたいとコーチに申し出ても、5人の力では持ち上がりません・・・・。こんな5人で果たして秋までに形になるのでしょうか・・・・。夏休みが迫っています。


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「第3章 夏だ、合宿だ、花火だ!」

 夏休みに入り、5人は強化合宿に入ります。実に緩(ゆる)い合宿でした。「眠られへん、うち花火もってきてる」、いつしか5人は花火をしていました・・・・。それでも、5人の心はひとつになっていきます。美しい瀬戸の風景の中を艇は進みます・・・・。


 そして、新学期が始まります。いよいよ愛媛県大会の新人戦です。決戦の場は、石手川ダムの湖畔です。


「第4章 はじめての敗北、そして、・・・・」

 5人は湖水へ降りていきます。他校の生徒もオールを持って下っていきますが、伊予東の5人はヨタヨタしています。男子部員が声を掛けます。「おれらが持って行ってやる」、しかし、悦ネエは断ります・・・・。競技は1000mで行われます。中間点の500mには表示がされています。


 湖水には3つのポンツーンが置かれており、係員がボートを手で押さえます。「スタート!」の声と共に競技が始まります。カメラは、伊予東クルーを追います。「コックス!ペースが速すぎる」、他校に追いつこうとヒメ(コックス)の掛け声がクルーの能力を上回っていたのです。


 500m時点で既に他校との差は歴然としていました。未熟なままレースは終わります。「新人戦までの約束や、これで終わったな」と言ったのは、バウのイモッチでした。しかし、他の4人は再戦を期していたのです。「ビリからの脱出や!」


 5人の闘いは続きます・・・・。


「第5章 新コーチの加入」

 5人が体育館で陸上練習をしていると、コート姿の女性が見つめていました。顧問が紹介します。「おまえら、優秀なコーチ望んでいたやろ、新コーチの入江さんや。全国大会で1位にもなってはる。元日本代表のコックスや」、しかし、コーチの入江晶子(中島朋子さん)は陸上練習のメニューを渡しただけでした。


 腹筋200回、腕立て伏せ100回、懸垂100回、グランド10周、階段20本(私の記憶)・・・・、「これ何日分のメニュー?」、それでも、5人はメニューを消化していきます。そんな時に、悦ネエがランニング中に倒れたのです。「あんた、いっぺん診てもらった方がええよ」、保健室教諭のアドバイスでした(伏線です)。


 5人がボートを出すために男子部員を呼ぼうとした時、入江コーチは止めます。「あんたら、ボートぐらい、自分たちで運ばんでどうするの」、あれほど持ち上がらなかったボートが持ち上がったのです・・・・。そして、新学年を迎えます。女子ボート部の新入部員はひとりだけでした。大西という1年生です。


「第6章 悦ネエ、腰痛に」

 秋の県大会に向けて6人が頑張っている中、ある朝、悦ネエは母親に起こされます。「遅刻するよ」、しかし起き上がれなかったのです。腰痛でした。医師は無慈悲に告げます。「ボートはダメや。それでのうても完治には半年はかかる」、診断はぎっくり腰でした。


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 幸い、悦ネエの抜けた穴は、新入部員が埋めますが・・・・。「うち、ボート以外、何にもない。。でもボートでけへん」、そんな彼女に母親は温泉を奨めます。そこで出会ったのが入江コーチでした。ふたりは話し合います。


 「私は腰痛で挫折した人は何人も見てきてる。そやけど、這い上がってきた人がほとんどや。あんた、もっと根性あると思ってた」、腰痛の発症以来、悦ネエは部に顔を出していなかったのです。悦ネエにやる気が戻って来ます。「コーチ、もっと技術を教えてほしいんです」


 部員は、入江コーチには「何か訳がある」と考えていました。そのとおりかと思います。しかし、教える気になったコーチは、俄然変貌します。悦ネエも復帰します。そして、運命の愛媛大会の日を迎えます。


「最終章 ビリだけは嫌や!」

 以下、結末まで書きますので、ネタバレになります。


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≪予選≫ 「ビリ脱出」に向けて、予選が始まります。「がんばっていきまっしょい!」の掛け声をかけたのは、コックスのヒメでした。4人が短く「しょい!」と応えます。5人は確実に力を付けてきています。それなりのゲーム運びができました。念願のビリから脱出できたのです。


≪準決勝≫ 伊予東は、あくまでチャレンジャーです。「ビリだけは嫌や!」を合言葉に頑張ります。幸い、ビリは免れました。決勝進出が決まります。こうなりますと欲が出ます。ビリでなければ、琵琶湖で行われる全国大会への出場権が与えられるからです。


≪決勝≫ 決勝が始まります。いずれのチームも、県では強豪校です。伊予東は、500mの中間地点まで、必死で食らいつきます。悦ネエに異常が生じ始めたのは、その頃からです。激しい運動のためでしょうか、それとも何かの疾患のためでしょうか、オールが動かなくなったのです。


 湖岸で見ていたブーも、入江コーチも声援を送ります。「ひがしこー!がんばっていきまっしょい!」、エールを送ります。悦ネエの意識が混濁したのは数秒のことでしょうか、猛追が始まります。コックスの「キャッチ、ロウ」の声にあわせ、4人が懸命に漕ぎます。


 「ヒメ、どうやった?」、コックスのヒメは首を横に振ります。負けたのです。


「エピローグ 宴の後」

 悦ネエは、ただひとり艇庫を片付けます。三年生になる5人のクルーに、来年の全国大会はあるのでしょうか・・・・。


(補足) 2枚目の写真は連続ドラマのために大三島に作られた部室です。映画版とも大きくは違いません。ウィキペディアから引用しました。4枚目の写真は道後館の内部写真です。道後館の公式ホームページから引用しました。