サスペンスだけではない、映画の神様。
1954年 監督/ アルフレッド・ヒッチコック
『裏窓』は、"サスペンスの神様"と謳われたアルフレッド・ヒッチコック監督の、最高傑作のひとつに数えられる作品です。
サスペンス映画が大好きなボクは、ヒッチコック作品をほぼ鑑賞済みであり、紛うことなき"サスペンスの神様"と崇めていました。
そんなヒッチコックファンのボクでしたが、やがて運命の人、ブライアン・デ・パルマを知ることにより、ボクのサスペンス映画市場はデ・パルマに一挙占領されてしまったのです。世界一のヒッチコックファンであるデ・パルマが、皮肉にもボクのヒッチコック離れを促したのです。
そんな経緯もあって、ヒッチコック作品を鑑賞するのは、おそらく四半世紀ぶり。
今回はレビューを目的としない、気楽な映画鑑賞をしようと本作を手にした訳ですが…いやあ、やっぱりそうはさせてくれないのがヒッチコックですね。彼の話術と演出は、時代を超越しています。やっぱり凄かった!
本作は、向かいのアパート住人が殺人犯ではないかと疑いを持った男の妄想で進む物語。
ヒッチコック得意の殺人描写も無ければ、異国情緒満載の大陸横断も無し。自身の得意技をかなぐり捨てて挑んだ、ソリッドシチュエーションスリラーの傑作です!
【この映画の好きなとこ】
◾︎リサ (グレース・ケリー)
主人公ジェフの恋人で、結婚に踏み切らない態度にやきもきしている。喧嘩になり部屋を飛び出す際「また会えるのかい?」と聞くジェフに返す「会わないわ。少なくとも明日の晩までは!」は最高のセリフ。
登場する度に変わるゴージャスファッションも見どころ
◾︎ステラ (セルマ・リッター)
覗き見がやめられないジェフを嗜めるも、やがて好奇心から加担してしまう看護士。事件の猟奇性を想像し、ジェフの食欲を削ぐ発言をするコメディパートが絶品。
『フレンジー』にも通じる食のブラックユーモア
◾︎ファーストシーン
ジェフ(ジェームズ・スチュアート)の境遇と職業を、映像だけで示すヒッチコック熟練の技。映画小僧はこういうのに弱いんですよね。
なんで骨折したんだろ カメラで撮影中事故に遭ったんだね カーレースのクラッシュに巻き込まれたのか! ファッション誌のカバーモデルをも撮る実力者なんだね
◾︎リサの自己紹介
ケリーの気品を最大限に活かした、映画史に残る自己紹介。「フレモント」の発音が妙に艶っぽく圧倒的印象を残す。
50年代らしい華やかさがありますね!
◾︎息を潜める男
愛犬を何者かに殺され、アパート住民に向けて喚く夫人。全住人が視線を注ぐ中、暗い部屋で身を潜めるひとりの男。燻らせる葉巻の灯りだけが浮かび上がる戦慄のショット。
◾︎リサとステラ
ジェフの推理に同調した2人は、殺人犯と思しきラーズの部屋への侵入を画策する。驚いたジェフが2人を宥めるも、好奇心に駆られた子供のように暴走する2人が微笑ましい。
逆転の構図。コメディ要素が多いのも本作の魅力
◾︎鉢合わせ
事件現場に忍び込んだリサが、帰宅したラーズに見つかる緊迫のシーン。そして向かいのアパートから覗くジェフまでもが気づかれ、絶体絶命のピンチに陥る!
何してくれてんねん何も出来ないふたり ジェフと目が合うラーズ!あわわ…マジごめんなさい!
◾︎ヒッチコックの本気
突如張り詰めた空気と共に、サスペンス映画の本領を発揮するクライマックス。電話相手を確かめずに喋ってしまうジェフ。階段を登る足音。消える明かり。そして開くドア…。
俯瞰で撮る恐怖の構図はデ・パルマに継承された ドアの前で止まる足音… 開くドア…ホラー映画並みの恐ろしさ!お見事!
◾︎映画史に残るハッピーエンド
アパート住人の、その後を描いたエピローグ。ハッピーエンドの連続に、頬が緩む事間違い無し。肝心のジェフにも、思わず笑ってしまうオチが待ち受けています。
どんなオチかは観てね! ジェフに寄り添おうと、ヒマラヤ山脈のガイドブックを読みながら看病するも、ファッション誌に替えてしまう可愛らしさ!
本作の魅力は、主人公たちのドラマのみならず、アパート住人それぞれの人生をも描いている所にもあります。時にユーモラスに、時に恐ろしく描かれた隣人たちは、映画ならではの魅力に溢れています。
心理戦に長けたヒッチコックは"魅力的な隣人"という餌を撒き、観客を"覗きの共犯者"に仕立て上げます。我々は知らぬ間に主人公との共犯関係を築かれ、いつの間にか逃げられない環境に放り込まれているのです。そう、観客は常にヒッチコックの掌で転がされているのです。
ヒッチコックは"サスペンスの神様"の称号に相応しい名匠ですが、やはりそれだけではありませんね。ロマンチックラブコメも上手いし、女優やキスシーンの撮り方も抜群に上手い。改めて惚れ直しましたよその才能に。
ヒッチコック作品では、『海外特派員』『めまい』『鳥』『フレンジー』が特に好きで、本作に特別な思いはありませんでしたが、今回の鑑賞でその魅力に絆されました。
こうなったら、今一度ヒッチコック作品群を観直さねばなりませんね。
アルフレッド・ヒッチコック監督作品こちらも
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