「はつ鮎」 中勘助 | 和風画師の徒然記

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和風画房 結(ゆい) オフィシャル ブログ

あと少しすれば、梅雨も明けて「初夏」ですね ♪
(近年は、初夏の心地よさなど感じる間なく、猛暑となってしまいますけど…)

随筆「銀の匙」で有名な、元祖イケメンといってもいい 文豪の中勘助さん。

 

 


この詩はその中さんが、ご家族の方への愛をこめて 唄ったものです。

脳内だけでも、初鮎が跳ねる(富士山のふもとから流れる)藁科川の清流を想い浮かべて、読んでいただけたらー

 




「はつ鮎」


藁科川に初鮎をつるかたがた

もしや脚絆わらぢの釣り支度で

竿をもたない年寄がいつたら

お邪魔でもすこし席をあけて

釣りを見せてやつてください

背の高い半身不随の

ものいへない年寄です

彼はわれとわが心から

淋しく苦しく不仕合せで

釣りのほかには楽しみがなく

これといつて慰めもありません

老衰のうへに病気もてつだつて

重たい鮎竿がもてないため

さうふしてひと様の釣りを見てあるきます

そんな老人にお逢ひでしたら

私の伝言を願ひます

私はここにきてゐると

うきや糸まきおもりなど

かたみの品もあるから

ゆつくりよつて休むやうにと

どうぞ皆さんお願ひします

彼は私の亡くなつた兄です


(出典:『中勘助詩集』岩波文庫)



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