今回ご紹介するのは、真下みことさんの「茜さす日に嘘を隠して」と対になる『青く滲んだ月の行方』という物語です。『茜さす~』では女性側を主人公に、『青く~』では男性側が主人公になっており、共通する登場人物を二つの視点から見た時にどんな違いがあるのかを楽しめる作品になっています。ちなみにどちらから読んでも問題ない作りになっていますが、物語はそれぞれ異なる作家が担当しています。

 

『青く~』では16歳で作家デビューした、京大大学院生の青羽悠さんが担当しており、真下みことさんの『茜さす~』とは全く違ったカラーになっているところがみどころです。二冊を読み比べてみて、正直なところ、私が女性だからなのか『青く~』に出てくる男性たちにはサッパリ共感できませんでした。なぜなら、いつまでも拗らせているヤツばかりで腹が立ってしまったから。こいつあの時こんなしょーもないことを考えていたんかい!的なツッコミが多かったのです。

 

『青く~』の大まかな内容は、『茜さす~』同様男性たちによる青春群像劇といった感じ。さっそくですが、サラッとレビューしていきたいと思います。

 

 

 

第一話【端正な夜】

 

こちらは『茜さす~』に登場した皐月の友人・隼人が主人公になっているお話です。『茜さす~』では、隼人が皐月に気があったんじゃないの?という感じでしたが、ここでも隼人はそれをなかなか認めていません。隼人は何かに夢中になったり、好きと言える人を眩しく思うあまり軽蔑しています。なので隼人は他人からすると少しスカした奴に見えているんですね。

 

そんな隼人の前に現れたのが、不器用なのに真っ直ぐな皐月でした。皐月はみんなが内定を貰っている中、ただひとりだけ就活に励んでいるような子で、それなのに自分をわきまえずに何かを力強く望むところがありました。また、皐月は人間関係においてもドンくさく、あまり喋るタイプではありませんでしたが、隼人が上手に聞き役に回ってあげるともの凄く饒舌になる子でもありまました。

 

驚くのが『茜さす~』で皐月は、隼人のことを気配り上手の話しやすい人と評価していましたが、『青く~』で隼人は、皐月のことを馬鹿な女だと心の中で冷笑しています。なぜならいつも皐月の話す内容は誰かの愚痴や不満ばかりだから。隼人はそんな皐月の何にでも執着できるエネルギッシュさがウザったく、たまらなく羨ましかったのです。

 

どんなことにも関心と不満があり、色んな世界の扉を開け、顔を突っ込む皐月と、すぐに面倒になって諦め、何も望めない隼人。初めはこの気持ちが恋だと気づけなかった隼人ですが、いつもは言い寄って来る男の愚痴ばかり言う皐月が珍しく静かになった日をきっかけに、「これは何かある」と、焦りの感情が芽生えてしまい・・。

 

まぁ、ふつうに考えれば皐月が愚痴らない相手=いい感じの相手ってことですよね。しかしこの傷つきたくない、マジになりたくない、頑張るのダセーを大学生まで貫いている隼人に何ができるというのでしょう。彼はずーっと変わりたくても変われないことにウジウジしているのでした。

 

 

 

第二話【街の地球人たち】

 

こちらは皐月と隼人のサークルの後輩・大地のお話です。大地は複雑な生い立ちが影響してか、誰のことも信じられず、自分自身も誰からも受け入れられない存在だと思っています。そんな大地が唯一信頼しているのが俊也という中学時代からの親友ですが、俊也は愛衣という破天荒な女に人生を狂わせられています。大地は愛衣のせいでボロボロになっていく俊也を見ていられず、俊也から愛衣を引き離そうとしますが上手くいきません。

 

そこで大地は愛衣に近づき、どうにかして俊也を取り返そうとしますが、愛衣とは話が通じず、イラつきます。それどころか愛衣に近づくと俊也に嫌がられてしまいます。実は愛衣も複雑な家庭で育ち、現在はセックス依存症になっているところを俊也に支えてもらっている状態なのですが、それは大地も一緒なんですね。愛衣と大地はマッチングアプリで異性と連絡を取っては関係を持つということをやめられない不安定さを抱えており、俊也はそんなふたりを心配しているという感じなんです。

 

それなのに大地は、俊也は自分の言うことよりも愛衣を選んだと思い込み、ショックを受けてしまいます。愛衣は『茜さす~』では主人公として登場するのですが、そこでは大地が変な子に見えるのに、『青く~』では愛衣が変な子に見えるのが不思議なところ。また、「茜さす~」で俊也は、なぜ愛衣を支え続けるんだろう?と少々疑問に思うのですが、『青く~』では俊也目線でその理由が書かれているのでぜひ注目してほしいです。

 

 

 

第三話【彼方】

 

こちらは『茜さす~』ではメインに書かれていなかったキャラたちのお話になります。和宏は高校時代まではブイブイいわせていたタイプですが、大学進学を機に地元を離れてからは「何かが違う」と、調子が振るわず、その後ずっとこじらせて留年地獄から抜け出せません。ある日、留年が親にバレてしまい実家に帰ることになるのですが、地元の友達に今の自分を見せることができず、なかなか話をしにいく決心がつきません。そんなときに寄り添ってくれたのが、『茜さす~』で文の友人として登場した綾香なのですが、まぁこの話は和宏がずーっとグズグズしていて途中、本を読むのをやめたくなるくらい”向き”じゃなかったとしか言えません。金持ちの道楽で大学行くなよというのが正直な感想でした。

 

 

 

第四話【αを待ちながら】

 

『茜さす~』では、文や綾香たちの母校の生徒が自殺する話がチラっと話題になるのですが、これはその学校での話になります。Aはなぜ亡くなったのかというのがよくわからない状態で進んでいき、どうやら心当たりのある生徒がいて・・的な展開になるのですが、この話だけ他とカラーが違い、別な本を読んでいるような気持ちになりました。

 

 

 

第五話【逆三日月】

 

最後は隼人と大地の”その後”になります。大学を卒業し、就職した彼らは、今でもときどき連絡を取り合っては会う仲です。しかし相変わらずふたりとも拗らせたままなんですよ。さすがにこうも同じことを何度もぐるぐると書かれると「もういいよ」とお腹いっぱいになってきます。ったくお前らが遊んで捨てた女たちは前を向いているというのに・・と、いいたくなりますが、彼らが悩んでいるのだから仕方があるまい。

 

この回では連絡先を削除して失踪してしまった大地を隼人が探すといったかたちになっています。いなくなった後輩を探すなんて、隼人にしては進歩!といいたいところですが、結局大地は見つからないまま終わります。ここで隼人は何か哲学的なことを言っているのですが、私にはサッパリ。ま、とにかく元気出せよとしか思えません。ん~、隼人と大地を見て思うのは、君らの学生時代は時間がありすぎて余計なことを考えすぎているんじゃない?ということ。いや、ビックリするぐらい遊んでるじゃん!って思うんですよ。ちっとも共感できるポイントはありませんでしたが、文章は詩的で美しく、好みだったので、筆者の他作品を読んでみたいと思いました。やはり他の本とリンクさせて書くというのは、難しいのでしょうね。そんな苦労が少しうかがえる一冊でした。

 

 

以上が『青く~』の内容なんですが、もしこの記事から読んだ方は、ぜひリンク先の『茜さす~』も覗いてくださいね!

 
本書には一話ごとに、その物語を要約したような歌詞が載っています。歌詞は青羽悠さんが、歌唱はシンガーのShunさんが担当しています。

 
YouTubeでも視聴できるので、色んな楽しみ方ができますよ。

 

 

 

 

さらに『青く~』と『茜さす~』の表紙を二冊繋げるとサプライズがあるので、そちらもお楽しみに。

 

 

 

 

 

 

みなさんはどちらの本が好みですか?

 

 

以上、『青く滲んだ月の行方』のレビューでした!