今敏監督の初作品「パーフェクトブルー」。

前に途中まで見てそれっきりだったので、今一度見直してみた。

いやー怖い。

どんくらい怖いかと言うと、ジャケットの時点で既に怖い。

 

同監督の作品に「パプリカ」という映画があるんだけど、これもジャケットが怖い。

どっちも、ずっと見てると引き込まれるような嫌な感じがする。

 

と、ジャケットの話は置いといて本編のお話を。

パーフェクトブルーは1997年の映画で、レーティングはR15。

wikiによると、海外ではR18だったらしい。まぁ妥当だと思う。

 

■ストーリー

主人公 未麻がアイドルから女優へとジョブチェンジするところから物語は始まる。

ラストライブの日、ファンから「いつも”未麻の部屋”見てるよ!」と言いながら渡された手紙。

中にはウェブサイトへのリンクが記載されており、何者かが「未麻の部屋」というアイドルとしての未麻になりすましたブログを運営していることを知る。

ブログには、未麻本人じゃないと知り得ないような小さな癖(風呂に入る時、電車から降りる時は右足から)や心情が書かれており、最初こそ「よくわかってるじゃーん笑」と笑っていた未麻だったが、だんだんと表情が暗くなっていく。

 

何者かにストーキングされている恐怖を抱えながら生活する未麻。

あまつさえ、女優としての仕事はお世辞にも上々とはいえない状態。

セリフが少なかったり、レイ◯シーンさせられたり。

まぁ、前者はしょうがないとしても、後者のレイ◯シーンが妙に生々しい。未麻は女優なりたてとは思えないほど泣いてるし、なにより声優さんの悲鳴がリアル。「え?え?これドラマだよね?演技だよね?」と不安になるレベル。

そして、次第に未麻の目から光が消えていく。これは「抵抗することを諦めた演技」ではなく、未麻の心情そのものが顕著に顔に出たシーンだったと思う。

 

ストーカーやら、やりたくない役柄やらで心身ともにクタクタの未麻。

そうしてる間も「未麻の部屋」では、未麻の心情を見透かしたような記事が投稿され続けている。

私は本当はあんな仕事したくなかった!脚本家が悪いの!

助けて!助けて!助けて!助けて!助けて!助けて!...

未麻は「違う!私はこんなこと思ってない!」と否定するも、その必死に否定する姿がこのブログの言葉を肯定してしまっていることに気づかない彼女。

次第に未麻はアイドルとしての未麻の幻覚を見るようになる。

幻覚

「本当はアイドルに戻りたいと思ってるくせに」

未麻

「違う!だって私はもう……」

幻覚

「そうよね。もうアイドルなんかじゃないもんね。

だって、あなたはもう汚れちゃったもの。

汚れたアイドルなんて誰も好きになんないよね。」

未麻

「違う!違うもん!」

といった具合に、未麻に悪魔の言葉を囁く幻覚。

未麻は取り乱しながら幻覚にこう言う

「あなた、誰なの?」

実は、このセリフが結構肝。まぁそれも追々。

 

それから程なくして、ドラマの脚本家が何者かに殺されてしまう

「もしかして、私のストーカーがやったのでは…」

と心配する未麻。そんな彼女の次の仕事はヘアヌード写真集。

当然、未麻は乗り気じゃない。

 

この頃から、未麻も我々視聴者も、何が現実で何が虚構なのか分からなくなってくる。

未麻はドラマの中で二重人格者を演じており、作中では、その役のセリフが度々登場するのだが、これがまぁ、気持ち悪いくらい現実とシンクロしてるのである。

まるで、未麻の心情を代弁してるかのように。

ドラマの未麻

「私、もう自分のことがわからない」

「私、怖いんです。私の知らない所で、もうひとりの私が勝手に……」

女優さん

「大丈夫、幻想が実体化するなんてあり得ないもの」

そんなある日、彼女はラジオ局で見かけた幻覚を追いかけ、迂闊にもそのまま道路へ飛び出してしまう。そこへ突っ込んでくるトラック。もうだめだああああああああ。

 

「きゃあああああああああ」という未麻の悲鳴と共に明転。

未麻が目を覚ますと、そこは自室のベッドの上。

さっきのシーンは夢?現実?

困惑する未麻(と我々視聴者)。もう何が何だかわからない。

そして、目を覚ますのを見計らったかのようなタイミングで鳴るインターホン。

訪れたのはマネージャーのルミさん。説明では初出だけど、本編では未麻に親身な女性マネージャーとして既に何度も登場している。

ルミ

「どう?女優の仕事には慣れた?」

未麻

「うん」

ルミ

「でもよかった。新しい未麻も好評で」

未麻

「うん…」

ルミ

「”うん!”って顔じゃないねぇ…。ねぇ、もしかして嫌がらせとかされてない?例のブログとか。あれはもう見ないほうが良いよ」

未麻

「でも、あのほうが本当の未麻らしいのかも。心の何処かにしまったはずの『もう一人の私』。

もしも、それが勝手に独り歩きを始めたとしたら……」

ルミ?

「大丈夫、幻想が実体化するなんてあり得ないもの」

え?これさっきのドラマのセリフじゃない?どういうこと?などと想像させる暇もなく、またシーンが転換。

今度はドラマの撮影現場に。

あれ?あれ?と言わんばかりの顔をしてる未麻(と我々視聴者)

もう一度言わせて。もう何が何だかわからない。

困惑しつつもドラマの撮影に臨む未麻。その最中、ギャラリーに紛れて気持ち悪い人相の警備員がこっちを見ていることに気づく。しかし、未麻はそいつがストーカーであると知らない。

とはいえ、僕が説明してないシーンでは既に何度か顔を合わせている二人。未麻は「あれ?あの人前にどこかで…」と少し考えるような素振りをする。

 

ここで、またシーンが明転。

未麻が目を覚ますと、またしてもそこは自室のベッドの上。

さっきと服装まで一緒。

何度でも言おう!もう何が何だかわからない。どこからどこまでが現実なの?

そして、またしてもタイミングを見計らったかのように訪れてくるマネージャーのルミ。

未麻

「ルミちゃん…久しぶりだね…」

ルミ

「え?何言ってるの。昨日も来たじゃない。」

未麻

「”昨日”は本当だったの?」

未麻の精神は既にボロボロ。

ブログに書かれていることこそが現実だと思うようになっていった。

そして、またシンクロするドラマのワンシーン。

俳優さん

「それじゃあ、殺人鬼は彼女が作り出した幻影なんすか?」

女優さん

「そう。彼女は居もしない警備員に怯え。やがて、それをトップモデル連続殺人の犯人と重ね合わせた」

俳優さん

「けど…幻影じゃ人は殺せないっすよ」

女優さん

「でも…幻影が”依代”を見つけたとしたら?」

俳優さん

「よりしろ?……まさか、あの殺された男達が!?」

女優さん

「そして、彼女にとって”役目の終わった者達”。

やましろ君!はやく彼女を見つけ出すのよ!次の被害者が出る前に!」

画面が引いていくと、そこには、このドラマを見ている男が1人。この男は、未麻のヘアヌード写真集を撮影したカメラマンである。

すると、そこへピザ屋がピザを配達に。しかし、この店員何かがおかしい。男が「いくらだっけ?」と聞いても何も答えず、立ち尽くしているだけ。

うーん、これは嫌な予感。

すると……

 

よっしゃ!予想的中!

じゃなくて!めっちゃエグいいいいいいいいいいいいいい。

 

この後、店員の皮をかぶった殺人鬼によって、この男は帰らぬ人となる。

この事件を機に、前述した脚本家含め、未麻の周りで殺人が2件も起きたとして未麻がマスコミから格好の標的となる。

そして「自分は二重人格者なのでは?」と悶々としている未麻にとって、それは真っ向から否定できない嫌疑であった。

未麻

「アタシ…生きてるのかな?

ひょっとしてアタシ、あの時トラックに轢かれて、それからずっと夢の中なのかも」

ルミさんに、そう吐露する未麻の目は完全に死んでいる。周りの視線も冷たいし。

こんな時でも寄り添ってくれるルミさんの優しさたるや。

んで!問題なのがこの後のシーン。またしても現実とドラマがシンクロしてしまう。

今度のシーンは「アイスピックで男を滅多刺しにする」というもの。

この状況においても、仕事を全うしようとする女優魂の熱い未麻だったが、遺体役の男性と先日殺されたカメラマンの男の顔が重なってしまい、未麻はそのまま気を失ってしまう。

そして、目を覚ますとまたもや自室のベッドの上。

???

「気がついた?」

そう声を掛けられ右を向くと、そこにはルミさん…ではなく、今度はドラマで共演していた女優さんが。一瞬現実に戻りつつ、またドラマとシンクロ。

 

この、現実とドラマをシンクロさせる演出が最高にニクい。物語自体は一連の事件を客観的に見せるような作りになっているものの、こういうニクい演出のせいで、視聴者の精神状態だけは常に未麻と同様、つまり主観的なものにならざる負えないのである。

つまるところ、何が何だかわからない。

 

女優さん

「自分の名前は言える?」

ドラマの未麻

「私?…私はキリゴエ ミマ」

女優さん

「そう…仕事は?」

ドラマの未麻

「アイドル…いえ、女優です」

俳優さん

「完全に自分を新人女優”キリゴエ ミマ”だと思ってますね」

女優さん

「……解離性同一性障害。平たく言えば多重人格。

すべての犯罪は、彼女がもう一人の人格になったときに起こしていた」

俳優さん

「そう…じゃあ、”ヨウコ”の人格はどこにいったんだ?」

女優さん

「元の人格”タカクラ ヨウコ”は彼女にとって、ドラマの登場人物にすぎなくなった。

平凡な女の子だったこと。レイ◯されたこと。全てはドラマの中の出来事。

そう思うことで、彼女は救われたのよ」

こうしてクランクアップするドラマ。周りのスタッフが未麻を取り囲むようにして拍手を送る。

このクランクアップのシーンが意味することは、「ドラマはやはりドラマであって、現実ではなかった」ということなのだろうか。でも、もし、このドラマで語られた事こそが現実なのだとしたら、レイ◯シーンの妙な生々しさにも納得がいくんだけど……。

まぁ、ただ演出上は「ただのドラマでした」ということになっているので、とりあえずはそういう認識で。

 

そして、クランクアップ後の夜のテレビ局。

他の人とも別れ、1人廊下に佇む未麻。すると、向こうから例の警備員が……。

ホラー映画かな?

 

本能的にやばいと思ったのか、あるいは何か用事を思い出したのか、未麻は警備員が歩いてくる方とは逆の方向を向いて、少し前まで一緒にいた女優さんの名前を呼ぶ。

未麻

「エリさん」

だが、女優の姿はもうない。

そして男の方を振り返ると……。

\(^o^)/オワタ

 

スタジオに連れ込まれ、襲われる未麻。

ストーカー男は、アイドルとしての未麻に酷く依存しており、今の汚れ仕事をする女優としての未麻は邪魔でしかないのだとか。だから消しにきたのだそう。

殺したくて仕方ないくせに、未麻の服を剥ぎレイ◯しようとする犯人。殺したいのか犯したいどっちなんだお前は……。

その瞬間、とっさに床に落ちてたトンカチを拾い上げ、男の頭を殴る事に成功。男はその場に倒れ込む。

 

ボロボロのままスタジオから逃げ、ルミさんに保護される未麻。

事の顛末をルミさんに伝え、スタジオに戻ると、先程まで倒れていたはずの男が消えている。

「どうして……」と絶句する未麻にルミさんは「夢でも見たんじゃないの?」と声をかけ、車で未麻を送ることに。疲れが出たのか、車中でうたた寝する未麻。

次に目を覚ますとそこは既に自室。

キッチンでお茶を淹れているルミさんを見て安堵するも、この部屋、何かがおかしい。

この前死んだはずの熱帯魚は生きてるし、剥がしたはずのポスターもそのまま。

なんかBGMも怖い。めちゃ怖い。

 

慌ててカーテンを開ける未麻。

未麻

「ここ……私の部屋じゃない…」

幻覚

「そうよ。だってここは(アイドルとしての)未麻の部屋だもの」

そう言いながら現れる幻覚…ん?あれ?ちょっとまって。

鏡の未麻、デブすぎない?

 

ん?

んんん???

 

未麻

「ルミちゃん……どうして…」

と絶句する未麻に「ルミちゃん?誰それ?」と言わんばかりの態度をとる偽未麻(ルミ)。

そう、二重人格者だったのは未麻ではなく、ルミだったのだ

ルミは元アイドルでありながら、あまり売れず、道半ばでマネージャーへと転職していた経歴を持っていた。ルミが未麻に対して親身だったのは、昔の自分と未麻を重ねていたから。未麻を売れっ子アイドルにすることで、過去の自分を慰めようとしていた彼女は、先程のストーカーよりも異常なレベルでアイドルとしての未麻に固着していたのである。

結果、彼女は自分を未麻だと思うようになってしまった。

この部屋は、アイドル時代の未麻の部屋を完全コピーしたルミの自室で、ブログも彼女が運営していた。未麻を汚そうとする者達を殺していたのも、もちろんルミ。

そして、ルミはルミにとって「偽物」である未麻に襲いかかる。

未麻はベランダから隣の建物の屋根に飛び移るも、執拗に追ってくるルミ。

演出上、未麻の姿で追ってきているが、中身はデブのルミさん。そのくせ、未麻をしっかり追い詰めているあたり、殺意が高すぎて怖い。

ルミ

「さぁ、終わりにしましょう。”未麻”は二人もいらないもの」

未麻

「私が未麻よ!」

ルミ

「あははは、冗談。未麻はアイドルなんだよ???あなたは汚い偽物よ」

未麻

「そんなの知らない!私は私よ!!!」

未麻が暴れ、ルミのかぶっていたウィッグが取れた瞬間、幻想で塗り固められていた偽未麻の姿が解け、本来のルミの顔に戻る。この顔、夢に出そう。

ウィッグが取れ、取り乱すルミは、自分が暴れて割ったガラスに気づかず腹部をグサリ。

腹部から血を流しながら道路へ倒れていくルミ。

怪我をよそにウィッグを被り直すことで、再度”未麻”になるルミ。

トラックが来てもお構いなし、彼女にとってそれはスポットライト。

不敵な笑みを浮かべ、腕を広げながらトラックを迎える。

 

あ、死んだ。と思ったその瞬間、未麻が突進。

 

二人は轢かれず生還。

そこから時代は流れ、精神病院らしき施設のシーンへ。

御見舞の花を大事そうに抱えるのは、ルミという人格を閉ざし、自身を未麻だと思い続けているルミ本人。

花の送り主は、声が少し老け、見た目も女優としての貫禄が出てきた未麻。

先生

「お忙しいでしょうに」

未麻

「ああ、いえ」

先生

「時折、ルミさんに戻ることもあるのですが……」

未麻

「もう会えないことはわかってるんです。でも、あの人のお陰で今の私があるんですから…」

 

病院からの帰り際、ナースさんたちが声を潜めて会話をしている。

ナースA

「ねぇ、あの人……」

ナースB

「ええ!?うっそー。来るわけないでしょ。本物の未麻が」

ナースA

「似てるだけかぁ……」

この会話からも、未麻が相当有名な女優になっていることが分かる。

そして、車に乗り込んだ未麻はバックミラー越しに笑みを浮かべこう言う。

私は本物だよ。

このセリフが、最初の方に出てきた「あなたは誰?」へのアンサーになっている。

幻覚は未麻の心の底にある感情が現れたものなので、幻覚もまた本物の未麻なのだ。

 

■感想

長いけど、これでも省略してるシーンが多々あるので、気になる方はレンタルされたし。

上記の説明だと、亡くなったのは脚本家とカメラマンだけに見えるけど、実際は未麻の事務所の社長とストーカーの男も亡くなってたりね。

 

ラストを自分なりに要約すると……。

未麻→二重人格者ではないけど、精神的な疲れて幻覚を見ていた

ルミ→自分をアイドルとしての未麻だと思い込んでいた二重人格者のおばちゃん

未麻は、ブログで書かれていた自分の気持ち(ルミが書いていた偽記事ではあるが)を否定できずにいたので、最後のシーンでルミを見殺しにすることは、自分の中にある気持ちを殺すことにも等しかった。だから助けた。

最初の方で僕は

未麻は「違う!私はこんなこと思ってない!」と否定するも、その必死に否定する姿がこのブログの言葉を肯定してしまっていることに気づかない彼女。

と言ったけど、最後まで自分の気持ちを否定し続けようとしたら、未麻はルミを見捨てていたんだろうと思う。自分の気持ちを認める(=あのブログを肯定する=ルミを助ける)ことで、彼女は前に進むことができるようになった。

だからこそ出た言葉

「もう会えないことはわかってるんです。でも、あの人のお陰で今の私があるんですから…」

 

とまぁ、きれいな感じにまとめたけど、トラックに轢かれる→目を覚ますあたりのシーンは未だにちょっと分からない。考察サイトめぐりしようかな。