・学校へ行けなかった私が「あの花」「ここさけ」を書くまで（文芸春秋）

秩父には武甲山という、ほかの山よりもひときわ大きな石灰岩でできた山がある。

セメントが採れるため、農作物に恵まれない過去の秩父は一時期ゴールドラッシュになったそうだ。母が言うにはこの狭い盆地に、映画館が三つ、ボーリング場まであったと。私が生まれたころにはもうそのブームは終わり、秩父は何の変化もない田舎町に戻っていたが、それでも武甲山は着々と山肌を削られていった。

容赦なく毎年形が変わっていく武甲山。秩父の子どもたちはいつしか、大人たちによって「武甲山を守れ」という作文を書かされることになった。入賞すれば、市長から賞状ももらえた。

しかし、その外の世界への憎悪にまみれていた、そして担任教師に対して謎のいら立ちを持った私は、それらをまんま作文にぶつけた。概要はこんなもの。

「武甲山がなくなってしまえば、盆地を形成する山が一つ消えるので風通しが少し良くなる。この閉鎖的な秩父という街も変わるかもしれないし、個人的には山を見上げて憂鬱な気分になることもなくなる。よって、武甲山が速やかに消滅することを望む」

なんとも黒歴史オーラの漂う作文だが、これは私からの嫌がらせだった。提出すると案の定、国語教師は「岡田さんは私が嫌いなんだ」と泣いた。

私はこの時、能動的な努力を持って他者を傷つけた。国語教師は、もう作文を書いてこいとは言わなくなっただけでなく、我が家にも来なくなった。

（P104-105）

 

こいつ田中角栄の「三国峠をダイナマイトで爆破する」くらいムチャクチャなこと言ってんな……。

 

 

発売から２年、購入から１年２か月。ようやく読みました。

中学以降、まったく学校に行けなかった女の子が業界屈指の売れっ子脚本家になる、というサクセスストーリーとしてはかなり面白かったです。ただ、その結末が「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」なんですよね。っかしいなあ～？

まるで中島裕之が２Aでくすぶってる頃に読んだ、「マネー・ボール」のような読後感でした。

 

あと多くの作品、人物の固有名詞が容易に特定できる形ながら伏せられているので、それを調べながら読むのが楽しかった。

子ども向けのアニメは自由に描かせてくれる、っていうのは「とっとこハム太郎」のことかな、とか、「花咲くいろは」の時期にP.A.WORKSから弟子にしてやってくれと頼まれた文芸のスタッフとは小柳啓伍って人のことかな、とか。

小柳氏が唯一脚本を担当した７話（巴さんがサバゲーオタクの団体客をさばく回）、面白かったよね。８年経っても良く覚えているから本当に面白かったんだろうね。

 

内容の面白さに反比例して非常に読みづらく、読破するまでに半年かかりました。ものすごい文体が愚痴っぽく、自意識に囚われていて、感情的だからです（ヒステリックという意味ではない）。

自分もそんなにたくさんアニメを観ているわけではありませんが、この人が脚本を書いたオリジナルアニメと通底するものをビシビシ感じました。

母親の彼氏に電話越しに「おっぱいを描け」と言われる話、学校に全く行ってないのに修学旅行だけは無理やり行かされた話、上京してアパートを探したら夜逃げした後の荒れ果てた家をあっせんされた話……確かに同情を禁じ得ませんでしたし、可哀そうだなと思いましたが、それはそれとして「可哀そうな私」全開なのはいかに客観的な事実であろうと気がめいりました。

改めて思ったのは、自分は「心が叫びたがっているんだ。」が嫌いなんだなーってことです。あれも「実際に可哀そうなワタシ」の話だった。

 

あとクドすぎるくらいに秩父のことを「閉鎖的な田舎」って書いてたけど本気か？池袋まで１時間ちょっとで出られるし、そもそも小学生の時はたびたび服を買いに行ったって書いてるやんけ。東京だろうとどこだろうと、彼女の居場所はどこにもなかったのでは。

あと岡田麿理の自伝観て思ったんですけど、「かわいそうな私」っていう自意識のが前面に押し出されているので、本当に可哀そうだと思うけど醒める

 

後半は上京して専門学校で自分の居場所を見つけた彼女が、収入上の危機やバッシングを乗り越え脚本を書き続け、オリジナルの企画を手掛けヒット作の原作者となる、おそらく脚本家としての一番高いところに到達するまで、そして小学生の時からすれ違い続け、売れっ子になってからも関心を示すことのなかった母親と話すところまでが語られます。感動こそはありませんが、どこにでもありそうでなさそうなわだかまりの消化する過程に、逆に感情移入すること必至。

そろそろ文庫版出ないかな。