9月文楽公演 第2部
艶容女舞衣 (はですがたおんなまいごろも)

大阪千日墓所で起きた女舞芸人美濃屋三勝(みのやさんかつ)と大和五条の赤根屋半七との心中事件に取材、安永元年(1772年)初演。竹本三郎兵衛・豊竹応律ほかの作。

写真は公式サイトより。

酒屋の段
丁稚長太の間の抜けたおかしいひとりごとからの始まりに肩の力を抜いて物語の世界へと誘われます。子を抱いた女が酒を買いにきて、長太は酒樽を持って供します。

代官所に呼び出された酒屋の主人半兵衛が心配しきりの年寄五人組と帰宅。たいしたことない、たかが半七が人殺し。勘当したと。そこへ泣きながら長太がさっきの女の子を抱いて帰参。半兵衛を見込んでの捨て子のよう。大好きな錦糸師匠に、師匠が厳しく育成中の靖太夫。がんばれ!

半七は半兵衛の息子で、三勝という芸者に馴染み子までなし家に寄り付かず、挙句の果ては三勝がらみで人まで殺め、勘当されたのです。お園という可愛いい嫁も舅・宗岸(そうがん)が怒り里に連れ帰ってましたが、お園は半七を慕い泣き暮らす始末、病になりかねないと心配で再び嫁にしてやってほしいと頼みます。

半兵衛はお園のために頑なに断りますが、宗岸は半兵衛が半七の罪を引き受け、縄をかけられていたことを知ってのうえ。半兵衛、宗岸のやりとりが山場で、二人の親がそれぞれ子らを想いやってのいいぶん。藤太夫・清友がよく、とても感動的でした。

「いまごろは半七さん、」から始まるお園のクドキ、このセリフ、かつては知らない者がいないほど有名な一節だったそう。人形のみせどころ。釘付けになりました。太夫・三味線の聞かせどころ。

わたしがいなかったら、自分があのときしんでいたらと嘆くお園が、健気で可哀想でたまりません。解説によると江戸時代にもこんな女性はおらず、絶対的純粋結晶としての貞淑の究極がこのお園なんだそう。

ハイハイしてでてくる赤ちゃんが可愛いったらなくて。その子は半七と三勝の子お通。半七は子を自分だと思って育ててくれと。両親、お園に詫びと別れを告げ、死に場所を求め彷徨う、道行霜夜の千日へと続きます。道行霜夜の千日は、国立劇場では昭和50年以来二度目の上演だそう。

文楽の心中ものって、叶わぬ恋をしたふたりの悲しい行く末と、そのふたり、特に男の側の子や嫁、両親の心情を丁寧に描く、家族の愛の物語ね?って思いました。

心中に至るふたりにはやっぱり共感はできないけれど、身代わりになってでも助けたい、自分はどうでもかまわない、愛する人の幸せを叶えたいと思う家族の気持ちに涙しました。

文楽、やっぱり素晴らしい。
たっぷり堪能。幸せな1日でした。