3/31朝日俳壇・歌壇。

◎小林貴子選

★惜春や天衣無縫のマエストロ(新潟市)江口穂波

 【評】小澤征爾氏の面影が彷彿と。

★春めくや定家の記す超新星(東京都目黒区)椿 泰文

 ※平安末期から鎌倉初期の歌人である藤原定家と超新星、意外な気がしますが、藤原定家は『明月記』という日記風のエッセイに多数の天文現象を書いているそうです。超新星については3件もあるといいます。寛弘三年四月二日(1006年5月1日)…深夜、南の低い空に出現。半月くらい明るく輝いた。1054年の客星出現…陰陽師・安倍泰俊(やすとし)から聞いた古い記録を書きとめたもの。高い塔に登ってこの星を捕まえようとした好奇心旺盛な京童。など。

★雪間草生き続けよと声のする(新潟市)齋藤達也

 ※「雪間草」=一面を覆っていた雪が気温が上がりあたたかくなって消え黒々とした土が現れる。その土に萌え出た草を雪間草という。春の訪れを実感できる草。


◎長谷川櫂選

★アユタヤの蹠(あうら)大きな寝釈迦かな(三木市)内田幸子

 ※アユタヤ王朝は、1350年から1767年にビルマ軍に破壊されるまでの417年間、タイの中心都市であった。寝釈迦仏はタイ西方の北の大草原にあり高さ5m、全長28mの巨大寝釈迦仏。1956年に復元されたが、ビルマ軍による破壊と傷はそのまま残されている。

千年の都に四年卒業す(加東市)藤原 明

 【評】(千年の)京都の大学に四年。それも千年のひとこま。

★風吹けばどこも真白や飛花落花(浜松市)大平悦子

★雪解が大河となりて日本海(長野市)縣 展子

★晴れわたる空の下なる余寒かな(浜松市)久野茂樹

★杏子忌の花と星とが語りあふ(所沢市)木村 佑 

★春蘭や妻が愛して石のそば(神奈川県松田町)山本けんえい

★俳壇賞貰ひ卒寿の春が来る(吹田市)太田 昭

 ※太田昭さんは、2023年朝日俳壇賞を受賞されました。句は「八月を真二つにして黙祷す(長谷川櫂選)」。「八歳のときに対米英戦争が始まり、十二歳で敗戦の痛みを知った。日本の昭和は、まさにこのとき真二つにされた。開戦の罪は今でも忘れることは無く、国のために散った若者たちへの黙禱を忘れることもない。」(ご本人の談)「八月を真二つ、とは、じつに印象鮮明。昭和史を一言で描いた。」(選者選評)

 ※その時の詳細は↓

第40回「朝日俳壇賞」(1/7)

https://ameblo.jp/kawaokaameba/entry-12835592802.html

★あばよとて庇(ひさし)すり抜けシャボン玉(柏市)木地 隆

 【評】「あばよ」とは律義なシャボン玉。どことなくフーテンの寅さんふう。


◎大串章選

★引き揚げ者開墾の村黄砂降る(相馬市)根岸浩一

★卒寿てふスタートライン風光る(敦賀市)中井一雄

 【評】90歳がスタートラインとは ! 前向き思考に脱帽。

★人生は旅逃水を追ふごとし(長野市)縣 展子②

★満州に父の青春鳥帰る(神戸市)末永拓男

★進学を拒否して海女になりにけり(栃木県壬生町)あらゐひとし 

★悲しさも悔しさも捨て卒業す(長崎市)下道信雄

★今年蒔く種を残して逝きにけり(静岡県河津町)岩城紀子

★雛飾る能登の雛を思ひつつ(善通寺市)合田 豊


◎高山れおな選

★ひひなみなまぶたひとへにまばたかず(日立市)加藤 宙

★理容師に春の頭を注文す(東京都板橋区)竹内宗一郎

★愚禿親鸞大愚良寛万愚節(松山市)谷 茂男

 【評】愚の一字が思わせるさまざま。一茶に〈春立や愚の上に又愚にかへる> 。

★手話の子の空に「さよなら」鳥雲に(茅ヶ崎市)清水吞舟

★雛の日に男紛れて散らし寿司(名古屋市)山田邦博

★タテカンに俗字溢るる四月かな(千葉市)團野耕一

★雛箱のちょうちょ結び雛納め(横須賀市)前田あさ子 

◎永田和宏選

★こそばゆし目標などと言われつつデイサービスの最高齢は(我孫子市)松村幸一 

 ※松村さんも白寿。

★胸の奥ずんと突き刺す二人の名年賀はがきに並びてあれば(小平市)篠原美奈子 

☆竹釘を口にくわえて桧皮打つロボットにできぬ職人の技(石川県)瀧上裕幸

 ※馬場あき子(三席)共選。

★方円の器に水は従ひぬ妻の器にわれは従ふ(東京都)庭野治男


◎馬場あき子選

★逃げ切ったつもりで逝きし犯人の残るポスターつくづく眺む(下関市)内田恒生

★三月の雪に驚くパンプスが気をつけて歩く私以上に(富山市)松田梨子

★ハルキウの地下鉄の駅空見えぬ教室があり児ら学びいる(観音寺市)篠原俊則②

★四歳が「お子様ランチもう嫌(や)だよ」パパとおんなじ鰻(うな)が食べたい(東京都)唐木よし子


◎佐佐木幸綱選

★珍しく魚屋に見る生海鼠佐渡の海より今朝来たという(長岡市)柳村光寬

 ※今回の能登地震の影響は佐渡の漁港にも相当の被害があった。佐渡の漁業者の必死の努力。

★家々の戸を開け放ち吊し雛はなやぐ伊豆の稲取の春(東京都)上田国博 

★船いまだ車線塞ぎて横たはる二艘の間を交互に抜ける(羽咋市)北野みや子

☆ゆれながらワルツを歌う合唱団いいな素敵だ人の声って(富山市)松田わこ

 ※高野公彦共選。

★ヌートリア己が害獣知らずして土手の青草のどかに食める(広島市)金田美羽

 ※ヌートリアは、堤防などに穴を掘るため、堤防決壊の原因になる、在来生物などを食べ生態系への影響がある、稲などの農作物の茎を食す、爆発的な繁殖力など、特定外来生物に指定されている。

★声優をやってみたくて申し込む夢はみるもの追うなと息子(名古屋市)さとうりえ


◎高野公彦選

★「脚はもうないのに足が痛む」と言うベッドの上のウクライナ兵(観音寺市)篠原俊則③

 【評より】戦火で失った手や足に痛みを感じることを「幻肢痛」という。

★「珠洲の塩使っています」とメモのあるバゲット一本トレーにのせる(相模原市)平野野里子

★年ごとに流氷薄くなる羅臼いつか消えるかクリオネ、あざらし(東京都)椿 泰文 

★ゆつくりとこの風邪回復するらしくおかゆがあまし白寿の舌に(我孫子市)松村幸一②

★子のいない私にとって介護とは子育てのよう七年目に入る(中津市)荒谷みほ

★長きこと介護施設に勤務する友が語りぬ「人はせつない」(横浜市)滝 妙子


◎「俳句時評」では、阪西敦子さんが、つい先日俳人協会賞を受賞した千葉皓史さんの句集『家族』を取り上げていました。

「俳句時評」は、後日、読みやすいようにしてまた投稿致します。