1月5日は漫画家 福地泡介さんの命日である。
淳之介のブログ

新聞社に勤めていた時に福地さんの担当の様な事をしていて、大変にお世話になった。

福地さんもお酒が好きだったので、よくご一緒させていただいた。


亡くなる二年位前の事だ。

「今日は僕の店に付き合ってよ」

「はい」

「お歳暮が届いたので顔を出さないとまずいんだよ。盆、暮れの二回しか行かない店なのだけど」

などと話しながら、待ち合わせ場所の帝国ホテルから銀座の店に向かって、二人でブラブラと歩いて行った。


電通通りの一本横、コリドー街寄りの通り沿いの地下にある店だった。

『順子』という看板がある。

田村順子の店?


店に入ってみると、やはりそうで田村順子ママがいた。

想像していたのとは異なり、こじんまりとした店でホステスもその時は二人しかいなかった。

早い時間だったので、客は私達二人だけであった。

順子ママと若いホステス、福地さんと私の四人で席に着いた。


「先生、わたくし結婚を考えてますの」

「いいんじゃないの」

緊張していたので、二人の会話を聴きながら黙って酒を飲んでいた。

その内に、私に話がふられてきた。

「あなた、わたくしの事を悪女だとお思いになる?」


「思う訳ないじゃないですか」

とでも言えば良かったのだろうが、何故かその時は反対の事を言った方が良い様な気がして

「はい、絶対に悪女です」と答えた。

「まあ!あなた、失礼しちゃうわねえ」

「ウッ」

外してしまったのだ。


助けを求めようと隣にいる福地さんを見るが、何を馬鹿な事を言っているんだ、という様な顔をして飲んでいる。

この後、私に会話が向けられる事はなかった。

「そろそろ帰ろう」

福地さんがやっと言ってくれて『順子』を退散し、別の店に行ったのだ。


目黒にある福地さんの自宅経由で帰る途中のタクシーの中で

「順子ママ、結婚するって言っていただろう。誰か判る?」

「いいえ」

「江夏なんだよ」

「はあ」


覚せい剤取締法違反で江夏が逮捕されたのは、それから間もなくしての事だった。