2月8日(木)晴 ⑳「と」:父が残せるもの=『トミーが三歳になった日』

 

 トミー(トーマス・フリッタ・ハース)は、1歳の時に、両親と共にテレジン(チェコ)のユダヤ人強制収容所に入った。3歳の誕生日はここで迎えた。何もない部屋だった。父は製図室で働くことで、神や筆記用具を得ることができた。それによって、収容所の暮らしを書き残し、また息子に「壁の外にある世界」を描いて教えようとした。しかし、それは発覚して、父と叔父の二人はアウシュヴィッツに送られ、父は間もなく亡くなった。

 1945年解放された叔父は妻とトミーを迎え、息子として暮らすことにした。それからの変転も激しかったとあとがきでトーマスは書いているが、極秘に隠された父のスケッチが見つけ出され、息子トミーの手に残された。このスケッチとトミーの話を元に、作家ミース・バウハウスが書き上げたのが、これである。

「わたしは信じる……戦争がおわったら、きっとトミーと手に手をとって、おもてにでるんだ。あの子に、あらゆるものを見せてやろう。町の通りという通り……広場という広場……川を……橋を……もっともっと、と、トミーがせがむ。ねえ、もっととおくへいこうよ! 世界中へ! さあ、おいで、と、わたしはいう。壁はどこにもないんだ。さあ、いっしょにおいで……」

 お父さんの言葉だ。

 サブタイトル「ユダヤ人収容所の壁にかくされたベジュリフ・フリッタのスケッチブックから」。よこやまかずこ訳(ほるぷ出版995.4第20刷)1800円

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「と」はいっぱいあるのです。「読書のアニマシオン」ですから!

『どっさりのぼく』は詩集。「ここに ばくがいる」ことの喜び、存在することの意味をたくさんの詩人がうたっています。教室に持ち込みたい詩。小池昌代編、太田大八絵(金書房2007)1800円。

ケストナーの『動物会議』もぜひ! 子どもを大事にしない大人たちを懲らしめる世界中の動物たちの知恵。最後に世界中の指導者たちに約束させる誓約書が素敵です。池田香代子訳(岩波書店1999年)2500円