麒麟がくる(NHK 大河ドラマ) 放送画面を写真撮影したもの
麒麟がくる 41話、菊丸(岡村隆史)が運んだ薬草《カワミドリ・藿香/薬草の歳時記》
麒麟がくる (41話 月にのぼる者/2021年1月17日 放送)
菊丸(岡村隆史)が、明智 十兵衛(明智 光秀/長谷川博巳)の京都屋敷を訪れます。腹痛に良い薬草・カワミドリを渡すために。
菊丸は徳川方の忍者を務めていますが、このところ京方面に風雲急をなす動きはなく、菊丸は自らの親族すべてがこの世を去った事もあり、無常観を強めています。
最近は京の医師・望月東庵(堺正明)のもとで働く戦災孤児の駒(門脇麦)に思いを寄せ、調薬などをともに行う事に喜びを感じています。このまま平穏な時を重ねたいと願い、暮らしています。
《以降、一部ネタバレあり》
独自の忍びを使う羽柴秀吉に敵と見なされ、ついにはその刺客の襲撃を受けます。何とか逃げ切ったものの、駒に災いが及ぶ事を恐れ京を後にします。菊丸の、ささやかな願いはかないませんでした。
最終回まであと数回、菊丸と駒の再会はあるのでしょうか。良いエピソードを含ませての終幕にして欲しいと願います。
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カワミドリの花
薬草のカワミドリについて
菊丸が運んだ薬草・カワミドリは、実在の薬草です。
日本の野辺(野辺~低位の山辺)に見られる、シソ科カワミドリ属の多年草です。
夏~初秋に青紫色の花を咲かせ、見た目はミントなどのハーブ類を思わせます。葉の匂いをかげば、ハッカの様な良い香りがします。この、全草(花・葉・茎から根まですべて)を薬にします。
劇中の説明通り、お腹の不調に用いるものです。
軽い不調なら胃もたれ・食欲不振、さらに重い不調なら嘔吐・下痢の改善に役立ちます。
その性質から主に、胃腸型感冒(冬のノロウイルス、夏の胃腸カゼ)や急性胃腸炎に用います。
カワミドリの葉
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カワミドリは抗菌作用を示し、夏の食物が腐敗しやすい時期の胃腸常用薬として用いて良いものであり、緊急の食中毒(嘔吐・下痢)の対応にも用いて良いものです。
また、冬のノロウイルスによる嘔吐・下痢の対応にも、良いものです。
現代社会だと、今の時期に多いノロウイルス感染(胃腸炎症状)は医師の治療が普通なので、カワミドリの活躍の場はまずありません。
しかし、ノロウイルス感染の危急を過ぎたが、ちょっとした刺激(寒冷刺激がきっかけになる事が多い)で大便の漏れが起きる、どうしてもそれが収まらないという時には、カワミドリの配合された漢方薬・藿香正気散(かっこうしょうきさん)を服用すると、便漏れの状態を脱す事が出来ます。
《漏れそうな危急時は、2包を(2回分)をいちどに温湯で服用します。その後3日程は、忘れず1日3回継続服用します。食間に温湯での漢方エキス剤服用を基本とします。》
市販薬の下痢止めが多くあります。それは、ベルべリン成分である事が多いです。生薬・オウバク(黄柏)から抽出したものであったり、オウバクそのものであったりします。
しかし、胃腸カゼ(夏カゼ)・ノロウイルスでの嘔吐・下痢に限っては、カワミドリの方が身体に違和感がなく、治癒に向かいます。ベルべリン製剤では、下痢は止まっても、下腹に違和感が残りスッキリ感じません。
(ベルべリン・オウバクは寒性薬、カワミドリは温性薬)
◆藿香正気散/かっこうしょうきさん(和剤局方)
カッコウ(藿香) 辛、微温(発汗解表、化湿止嘔、行気止痛)
ハンゲ(半夏) 辛、温(燥湿化痰、降逆止嘔、消痞散結)
ビャクジュツ(白朮) 甘・苦、温(健脾益気、燥湿利水、固表止汗、安胎)
ブクリョウ(茯苓) 甘・淡、平(利水滲湿、健脾補中、寧心安神)
シソヨウ(紫蘇葉) 辛、温(散寒解表、理気寛中、行気安胎、解毒蟹毒)
コウボク(厚朴) 辛、温(行気化痰、燥湿化痰、下気降逆)
ビャクシ(白) 辛、温(散寒解表、去風止痛、消腫排膿)
チンピ(陳皮) 辛・苦、温(理気健脾、燥湿化痰)
キキョウ(桔梗) 苦・辛、平(清肺提気、去痰排膿)
ショウキョウ(生姜)辛、温(発汗解表、温中止嘔、解毒)
ダイフクヒ(大腹皮) 辛、微温(下気寛中、行水消腫、止瀉)
タイソウ(大棗) 甘、温(補脾和胃、養営安神、緩和薬性)
カンゾウ(甘草) 甘、平(補脾益気、清熱解毒、潤肺止咳)
湿困脾胃で、悪心嘔吐の強い時に用いる。
湿困脾胃:上腹部膨満・胸の痞え・腹痛・口粘・味がない・食欲不振などの症候で、悪心・嘔吐・下痢・四肢が重だるいなどの症候を伴う事も多い。
※表寒を伴うものに良く、冬期はノロウイルスに、夏期は胃腸カゼ・胃腸炎(悪寒・発熱・頭痛を伴う)に用いられる。
※温薬ばかりの配合(温性薬10種、平性薬3種、寒性薬なし)、身体を温める漢方処方です。
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カワミドリの生薬名は、藿香(かっこう)です。中国では、その名で使われています。
ただ、現在の日本の薬事関係の法律では、カワミドリは藿香として認めす、南洋系の植物・パチョリを、藿香(かっこう)としています。
パチョリ
シソ科ミズトラノオ属で、インド原産の多年草です。精油成分・パチョリアルコールなどを含み、葉などからハッカ様の香りがします。葉から抽出した油を、香料などとして活用します。虫除けに効果があり、シルクロード交易の際には、交易品の布類を守るため、パチョリの茎葉が添えられていました。
パチョリの花
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カワミドリは古くから薬草として用いられていたました。生薬名は現在では藿香(かっこう)です。しかし歴史上、異論も多いものの様です。
以下は、薬草カラー大図鑑(伊沢一夫 著)の転記です。
日本、中国、朝鮮と広く東南アジアに分布し、中国では生薬としての藿香生産のために、これを栽培している。
9~10月頃、茎の先に紅紫色の花穂をつくるが、ひとつの花は唇形の花冠で、長さが約1cm、雄しべ4本がこの花の外に長く突き出しているのが特異である。
異論の多い植物
わが国では、カワミドリは腓草香(はいそうこう)で、藿香ではないとしているが、中国の「薬材学」や「中国高等植物図鑑第三冊(1974年・北京版)」には、カワミドリにこの藿香をあてている。そこでわが国でも、カワミドリは藿香ということになっている。中国から藿香の名で輸入されている生薬は、日本の藿香ではなく広藿香で、カワミドリとは別のポゴステモン属のもの。中国南部で栽培され、その全草を健胃、解熱、吐きけ止めに用いている。しかし、本来のカワミドリは、中国産も日本産も同じものであるので、この全草を藿香と名づけるのは、誤りではない。
小野蘭山は「本草綱目啓蒙(1803年)」で、排草香(腓ではなく排としてある)をカワミドリとし、「山中に自生あり、人家にも多く栽して、和の香と呼ぶ」と記し、カワミドリは排草香で、香そのものではないとしている。これに対して「花彙・上巻草之四(1763年)」には菜をカワミドリとして、カワミドリのみごとな図をのせているが、腓草香の名はない。
和名カワミドリの語源は不明である。
調整法
開花期の地上部を刈り取って、日干しにする。
成分
全草の芳香は精油によるもので、メチールキャピコール、アニスアルデヒドなどを含んでいる。
薬効と用い方
頭痛に・カゼに・健胃に
乾燥した全草5~15gを1日量として煎じ、3回に分けて服用する。
NHK大河ドラマ・麒麟がくる
岡村隆史演じる、菊丸。(テレビ画面を撮影しました)
NHK大河ドラマ・麒麟がくる
菊丸の自らに対する思いを盗み聞きしてしまい、切ない表情の駒。(テレビ画面を撮影しました)
NHK大河ドラマ・麒麟がくる
薬研をひき(金属の円盤を行き来させ)、薬草・薬樹を粉にする菊丸。(テレビ画面を撮影しました)
美しい風景を見せてくれた41話でした。
この場面も美しい
月あかりに照らされた正親町天皇、「月の輝く音がする」そんな風に思う場面でした。坂東玉三郎さんは、名優だと思います。
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麒麟がくる の一場面
「麒麟がくる」では、松永久秀が易をしていた回がありました(34回、2020年11月29日放送)。
その際、久秀も用いていた易の道具(メドギ・蓍、筮/細い棒の様なもの)は、濱口昭宏先生のお作りになったものだそうです。濱口先生のブログをご覧ください。
《メドハギは、マメ科ハギ属の草本。そのまっすぐな茎を、易をするためのメドギ(蓍、または筮)としました。後の世で材質が竹に変わり、易には筮竹(ぜいちく)を用いる様になりました》
濱口先生は、薬草観察会を主宰でもあります。やさしい言葉で、興味深く説明される先生です。
昨年の薬草観察会(金剛山)に参加させて頂きました。知識が増えて行く事は、とてもうれしい事です。
本年も実施される時は、参加させてもらいたいと思っています。