「嘆けとて

               月やはものを

                   思はする

                       かこち顔なる

                           わが涙かな


平安時代から鎌倉時代にかけて活躍した歌人・西行法師が詠んだ、「百人一首」に収められている句です。

月が私に嘆けと言い、物思いに耽らせるのだろうか?いや、そうではない。月の所為にして流れる零れ落ちる涙なのだ。』という意味だと言われています。


「ラーメン大好き小泉さん」において、突き抜けた個性を持つ小泉さんがいわば輝く太陽だとすると、そんな小泉さんに憧れ、恋い焦がれる悪辣なストーカー・大澤悠の存在は、太陽の輝きを映す、いわば月のような存在と言えなくもないのでしょう。大澤悠、それはラーメンプロである小泉さんに対し、我々一般民衆の依代たる存在と言えるのかもしれません。

そして、月ならぬ大澤悠が小泉さんの冷遇を嘆き、想いが届かぬことを悲しみ、涙するその様は、読む我々の哀れみの涙を誘うものなのでしょう。

(大澤悠の涙)


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大澤悠が熱烈かつ執拗に小泉さんにアプローチし、冷たくあしらわれる様は、小泉さんの一風変わったキャラクター、「人類よりも麺類」というスタンスを際立たせる印象的な場面であり、最早、本作品の一種の様式美と言ってもいいのではないでしょうか。また、大澤悠が浮かべる悲しみや落胆の表情、絶望に打ちひしがれた様子は、読む者の哀れみの涙を誘って止みません。

言い過ぎですねごめんなさい。

大澤悠ファンの皆さんごめんなさい。

私だってホントは大澤悠のこと凄く好きなんです。私が月ならぬ大澤悠の有様に涙するその時、心に去来する想いの大半は哀れみでありますが、ごくごく若干とは言えども愛ゆえの同情、そして悲しみもあるのかもしれません。誤差の範疇なのかもしれませんが。


さて、何故に大澤悠がかくも冷遇されるか?についてですが、小泉さんと大澤悠とでは対人関係のスタンスが全く異なること、そして、大澤悠の一方的なコミュニケーションの癖が大きな要因なのではないか?と考えます。

てな訳で、大澤悠が小泉さんから冷遇される事例について紹介するとともに、何でこんなことになっとゃうんだろ?ってことについて考察してみたいと思います。


十四杯目での冷遇事例

今回取り上げるのは2巻第4話、十四杯目での冷遇事例について取り上げます。

下校時間、男子達からカラオケや映画のお誘いを受ける小泉さん。そんな男子達を見、大澤悠はドヤ顔で小泉さんの恋人はラーメンだと語る。

(ドヤ顔の大澤悠)

そして、大澤悠はキメ顔(満面の笑み)を浮かべ、小泉さんに一緒に帰ろうと誘うも、小泉さんは即、断り、ドアをピシャンと閉めて去っていく。

大澤悠はぎこちなく高橋潤のほうを向き、無表情に抑揚の無い声で言う。

ほら、小泉さんって照れ屋だから

(無表情で、抑揚の無い声で)

[考察]

ドヤ顔→キメ顔→無表情」という、見るも鮮やかな大澤悠の急転直下な落胆パターンです。作中では2ページの出来事ですが、小泉さんと親しいと勘違いし暴走する大澤悠、それを歯牙にもかけない小泉さんという2人の関係性がいい感じで描かれていると言っていいでしょう。大澤悠の落胆、いい感じです。


クラスの男子たちが小泉さんに彼氏でもいるのかな?と話しているのを聞き、大澤悠は心の中で否定する。しかしながらどうしても気になった大澤悠、小泉さんの後を付けてしまう。そして辿り着いた先はラーメン屋さんでなくレストランの前だった。時間を気にし、ソワソワする様子の小泉さん。隠れて見ている大澤悠の不安は募る。

(募る不安)

[考察]

大澤悠、「小泉さんの恋人はラーメン」とドヤ顔で公言しつつも、クラスの男子の話に速攻で惑わされています。小泉さんのことになると冷静さなどを完全に失ってしまうのでしょう。大き過ぎる関心ゆえに小泉さんの事となると動揺も激しいのでしょう。


小泉さんは男性と待ち合わせているのか?と不安に苛まれるストーカー大澤悠。そして、小泉さんの前に男性が現れ、「お待たせ」と言う。

「うわぁぁぁぁ、いやだいやだいやだぁぁぁ」と心の中で血の叫びをあげる大澤悠。

(現れる男性、大澤悠の血の叫び)

そして、小泉さんの前には他にも複数の男性が現れる。大澤悠は「まさか複数と…!!ダメ、ダメだよ」と心の中で叫び、そして隠れ場所から飛び出して絶叫する。

小泉さんダメ!そんなの間違ってるよ!!

(絶叫)

[考察]

大澤悠、完全に冷静さを失っています。狼狽の極みに達し、ストーカーの本分を忘れ、隠れ場所から飛び出しての絶叫です。何故、大澤悠がかくも狼狽するか?ですが、以下の理由が考えられます。

その1:「偶像」としての小泉さんの毀損及び小泉さんの理解者であるという大澤悠の自意識の毀損

大澤悠が好きな小泉さんとは、「どこか浮世離れしたラーメンにだけ興味がある美少女」といった、ある種の「偶像」めいたものでもあるのでしょう。そして、そんな小泉さんを自分は理解しているという自負もあるのでしょう。①の「ドヤ顔」はその気持ちの現れなのでしょう。

そんな小泉さんが男と待ち合わせするということは、大澤悠の中の「偶像」としての小泉さん像を大きく毀損するものであり、また、小泉さんの無二の理解者であるという大澤悠の自意識を損ねるものでもあるのでしょう。

その2:嫉妬故

大澤悠が小泉さんに抱く感情は、単に興味や関心などではなく、同性同士とは言え、多分に一種の恋愛めいたものも含んでいるのでしょう。恋愛めいた感情の対象である小泉さん、そして男性に恋愛めいた感情を持たないと信じていた小泉さんが、自分の気持ちを裏切って男性と恋愛関係にあるという事実は受け入れ難かったのではないでしょうか。

その3:倫理観故

大澤悠が隠れ場所を飛び出す最終的なきっかけとなったのは、最初の男性以外にも複数の男性が現れたため、複数の男性と恋愛関係にあると思い込んでしまったためでした。大澤悠は、おそらく男性との恋愛経験には乏しいのでしょう。そのため、男女関係に係る価値観については空想的・理想的なきらいとなってしまい、倫理観も相応のものとなってしまうのでしょう。ですので、「複数の男性との交際」ということには殊更に抵抗感を抱いてしまったのでしょう。


男性たちは小泉さんに「たいめいけん」のラーメンコーナーの順番を譲ってもらっただけだったと判明する。安堵のあまりヘタリ込む大澤悠。そんな大澤悠に対し、小泉さんは「何であなたはここにいるんですか?」と尋ね、冷たい眼差しを向ける。大澤悠は言葉に窮し、「えっと~」と小さく呟きながら半泣きとなる。

(半泣きの大澤悠)

小泉さんはしばし沈黙したのち、ラーメンの券売機に向かい、ため息をついた後、大澤悠にラーメンを食べるのかと水を向ける。幸せそうにラーメンを食べる小泉さん。そんな小泉さんを頰を赤らめて見つめる大澤悠。

(至福の2人)

小泉さんの恋人はラーメンだよねと確かめるように言う大澤悠。2人きりのカウンターながら、お互いの距離は遠い。

(2人きりのカウンター)

[考察]

大澤悠の危惧は杞憂であったと判明しました。大澤悠、涙しますが、この理由は安堵故の開放感、そして言い訳出来ない状況に陥ってしまったが故の焦燥感なのでしょう。

そして結局はいつもの通り、微妙な距離感を保ってラーメンを食べることのなりました。大澤悠を追い詰めず、結局はラーメンに誘い、でも距離感は相変わらずというところに小泉さんの単純なようで複雑なパーソナリティが感じられます。


まとめた感想

このエピソードで印象なのは、何と言っても大澤悠の涙でしょう。大澤悠の涙、それはこの物語の「月」としての彼女の小泉さんへの歪んだ慕情の発露、そして常に行き過ぎる行動の代償とも言えるものなのでしょう。

そして、最後のシーンはまさに2人の関係を表しているものなのでしょう。付かず付かず、でも決定的には離れない。冷徹に接するように見えながらも、でも心のどこかでは大澤悠に感情を刺激されている小泉さん。

小泉さんは大澤悠のことが嫌いなのでしょう。けれど、それは嫌悪感などではないのでしょうし、そして大澤悠に無関心でもないのでしょう。その気持ちは小泉さんが大澤悠と関わっていることの証でもあるのでしょう。

「好き」の反対は「嫌い」ではありません、無関心なのでしょうから。


(たいめいけん バターラーメン)