ジョン・シュレシンジャー1)監督

 

ニルソンの「うわさの男」が流れる中,テキサスの田舎町からニューヨークにやってきたジョー(ジョン・ボイド2))と取り壊し予定の廃墟をねぐらにしているラッツォ(ダスティン・ホフマン3))の物語です。

 

 

 

この映画と「フォレスト・ガンプ/一期一会」のつながりはこの場面です。

二人が道を渡る場面。ラッツォは脚が悪く,正常な歩行ができません。

「フォレスト・ガンプ/一期一会」でダン小隊長が車いすを押してもらい道路を横断する場面に通じるところがあります。この場面でもニルソンの「うわさの男」が流れていました。

間違いなく「真夜中のカーボーイ」に敬意を払って作った場面だと思います。

I'm walking here! I'm walking here!  タクシーのボンネットをたたくシーン

このセリフはAFIアメリカ映画の選ぶ名セリフベスト100に選ばれていました。

 

 

ジョーは自慢の体をいかしたママ活で金を稼ごうという甘い考えを持ってニューヨークに出てきました。

ところがそんなにうまくいくわけがない。

ようやく女とベッドインしてその最中にテレビの画面が変わるところがありました。

 

ウルトラマンの怪獣4)スカイドンと一瞬だけのジャミラが映っていました。白黒です。

結局その女にも逆に金を払うはめになりました。

 

ジョーは酒場で出会ったラッツォから女を紹介してくれる元締めに会わせると言われ20ドルをだまし取られます。

ホテル代もなくなり街をぶらつき,やむなく近寄ってきたゲイの相手をしたのに文無しだったという八方ふさがり。

ようやくラッツォを見つけたけれど金を持っているわけがない。

 

思い描いていた地,ニューヨークは冷酷で,ジョーはあっという間に絶望のどん底に陥ります。

 

結局ラッツォのねぐらで共同生活

ジョーはまた騙されるんじゃないかと思っていましたが,徐々に心を開いていきます。

ラッツォはマイアミに行く夢を語りますが,夢であってそのための具体的な計画はありません。

 

 

脚の悪いラッツォは,暖かい陽光の中,海岸線を走り回る夢を見ています。

 

ママ活もうまくいかず,ニューヨークの冬は厳しく,新聞紙を体に巻いて寝る生活です。

ジョーは大事にしていたラジオも質に入れ,売血までして喰いつないでいくしかない状況です。

 

ラッツォは咳き込みが強く病状は悪化の一途です。親父が靴磨きで肺をやられたと言っていましたが,ラッツォはタバコの吸い過ぎによる慢性の肺疾患でしょう。熱があるのは肺炎を合併したのではないでしょうか

偶然,「ヘンゼルとグレーテル」のパーティーに招かれ,ジョーはようやく20ドルを手に入れることができました。一方ラッツォはフラフラ状態で階段から転げ落ちてそれでも1ドルのタクシー代をもらって消えました。1ドルでタクシーに乗れた時代なんですね。

 

さらにラッツォの病状が悪化すると,医者を呼ぶよりマイアミに行きたいと言われ,ジョーは何とか金を得ようとしますが結局,ゲイの男から強盗してマイアミに出発することになります。

 

 

バスの中でラッツォは小便を漏らします。泣きながら”Wet“と一言

ジョーはカウボーイ衣装を全てごみ箱に捨てて「仕事を見つける,女じゃ食っていけない」と語り出します。

しかしアロハシャツに着替えさせてもらったラッツォはすでに息を引き取っていました。

真夜中のカーボーイのテーマ(音楽:ジョン・バリー5))が流れる中,窓ガラスにはマイアミの風景が映っています。

切ないなぁ。

 

ジョーはアメリカ人なのにMoneyのスペルをMonyと言っちゃうお馬鹿だけどいいヤツなんだよ。ゴミみたいなラッツォの面倒を見てやり,マイアミ行きのバスの乗せ,小便垂れ流しの服を着替えさせてやったり。

ジョーは幼い頃に親に捨てられ,祖母の手で育てられ愛に飢えていました。その上,つきあっていた彼女が目の前で男らに蹂躙されるという過去があり,それがトラウマになって,ことあるたびにフラッシュバックします。

ラッツォも極貧の生活を送ってきたことは想像できます。

アメリカン・ドリーム(という幻影)に人生を賭け,社会の底辺へ落ちていく。それでも僅かな希望を友人ラッツォとの絆に見出そうとするジョーの生き方。共感する部分はあります。カウボーイ衣装を脱ぎ捨てる場面は,ありのままの自分に戻った瞬間ですね。最初からそうしてほしかった。

 

この映画はアメリカン・ニュー・シネマという範疇に入っています。アメリカン・ニュー・シネマの定義は難しく,Wikipediaでは「1960年代後半から1970年代半ばにかけてアメリカでベトナム戦争に邁進する政治に対する,特に戦争に兵士として送られる若者層を中心とした反体制的な人間の心情を綴った映画作品群,およびその反戦ムーブメント」と記載してあります。

この映画は戦争とは直接関係なく,「反体制的」というものでもないようです。「体制」からはみ出ていた人物が描かれているというだけです。ただハリウッドの伝統である撮影所システムを離れて作られたという点ではニュー・シネマなのでしょう。

アカデミー賞作品賞を受賞しています。いい映画ですね。

 

 

 

 

 

1)   ジョン・シュレシンジャー

真夜中のカーボーイでアカデミー賞監督賞を受賞

そのほかダーリング(1964),イナゴの日(1975)などの監督

マラソンマン(1976)では再びダスティン・ホフマンと組んでいます。

 

2)  ジョン・ボイド

オデッサ・ファイル(1974),チャンプ(1979),ミッション:インポッシブル(1996)などに出演し,帰郷 (1978)ではベトナム戦争での負傷兵役でアカデミー賞主演男優賞を受賞しています。

アンジェリーナ・ジョリーの実父です。

 

3)  ダスティン・ホフマン

卒業(1967)から始まり,真夜中のカーボーイ(1969),小さな巨人(1970),わらの犬(1971),パピヨン(1973),大統領の陰謀(1976),マラソンマン(1976),クレイマー,クレイマー(1979),トッツィー(1982),レインマン(1988),フック(1991),アウトブレイク(1995),スフィア(1998)と20世紀の映画界には欠かすことのできない俳優でした。今世紀になってからは主演を演じることは少なくなりましたが,カルテット! 人生のオペラハウス(2012)の監督も行なっています。クレイマー,クレイマー(1979),レインマン(1988)でアカデミー賞主演男優賞を2回受賞している演技派の俳優です。この真夜中のカーボーイのラッツォ役も彼にしかできない演技だったと思います。1999年にAFI生涯功労賞を受賞しています。

 

4)  ウルトラマンの怪獣

1966/07~1967/04に放送された初代ウルトラマンに登場する怪獣です。

ちょうど真夜中のカーボーイ(1969)を撮影していたと思われる時期に一致してます。

ジャミラはともかくスカイドンは地味な怪獣ではないでしょうか。

 

5)  ジョン・バリー

一番有名な曲はジェームズ・ボンドのテーマでしょうか。ただ原曲(ギターリフ部)はモンティ・ノーマンという人のもので,付け加えたり編曲しているのがジョン・バリーのようです。野生のエルザ(1966)でアカデミー賞作曲賞・歌曲賞の2部門を受賞しています。さらに冬のライオン(1968),愛と哀しみの果て(1985),ダンス・ウィズ・ウルブズ(1990)と4度にわたりアカデミー賞作曲賞を受賞しています。

自分としては真夜中のカーボーイのテーマ曲が一番いいと思います。哀愁に満ちた曲です。