Over the Moon 〜 わたしの人生の小さな物語(3) | 川瀬有希の独り言

川瀬有希の独り言

田中好子さん、キャンディーズ、岡田有希子さんに捧げるブログ

『Over the Moon 〜 わたしの人生の小さな物語』と題された伊藤蘭さん初のエッセイ集、今回は二部構成の後半・B面「Private」について。



〈今でこそ、「子」のつく名前は減りつつありますが、わたしが子どもの頃は、ほとんどの女の子の名前の下には「子」がついていました。
 (中略)わたしの名前「伊藤蘭」は本名で、当時はとても変わった名前でした。
 子ども心に、一般的なよくある名前だったらよかったのになぁと思うくらい、とても珍しかったのです。〉
 〜同書124頁より引用

僕が幼い頃にも花の名が使われている女の子の名前はあったし、そういう子もたくさんいたけど、「蘭」の字をあてている人はいなかったなぁ。

昭和の間はまず見掛けなかった。

ここ20年ぐらいかな、有名無名を問わず時々お見受けするようになったのは。

蘭一文字だったり、2つないし3つの漢字名の中に蘭の字が入っていたり。

まだまだ少数派であることに変わりはないものの、珍しいって程ではなくなった気がする。

そのきっかけになったのは伊藤蘭さんがいたからとしか思えない。

今の親世代にキャンディーズのファンだったり、歌が好きだったりして、それで自分の娘の名に使用したケースが考えられる。

大袈裟でなく、伊藤蘭さんの登場そして活躍が世の中を変えたと僕は思っています。




趣里さんの通っていた小学校で余興として蘭さん・豊さん・担任の先生の3人で日本むかし話のお芝居をやったことに関して。

〈おかげさまでお芝居は好評で、子どもたちも喜んでくれました。
 ただ、わたしのドラマやお芝居を見てくださってるママ友が「すごくよかった! この前観たドラマよりよかった!」と、いつも以上に大興奮だったのは、ちょっぴり複雑な気持ちでしたね(笑)。」
 〜同書132頁より引用

こら、ママ友。

もう少しデリカシーのある称賛はできないのか(笑)。

気持ちは分かるけど。




自分が松田優作のファンでもあるからか、後半B面で最も心を動かされたのが「脚力、浮力で浮上する」のタイトルで綴られた章のこの部分。

〈これまでの人生で、わたしがいちばん深く沈んだのは、もう何十年も前のことです。
 結婚前の1988年9月、豊さんがとても仲良くしていた松田優作さんが、膀胱がんの治療のために入院されました。
 このとき、同じようにときどき血尿の症状があった豊さんも、優作さんにうながされて検査を受けることになったのです。
 結果は恐れていたとおり、初期の膀胱がん。
 撮影中のお仕事もありましたし、公表せず手術を受けることに決めました。
 家族に知らせたら、心配して結婚に反対するかもしれない。
 結婚生活自体、送れなくなるかもしれない。
 亡くなってしまうかもしれない。
 さまざまなことが頭をよぎり、これまでにないほど落ち込みました。
 仕事をしていましたから、泣き腫らした目で現場に行くことはできません。
 仕事があったおかげで、なんとか気持ちを保ちながら、日々を送ることができたようにも思います。
 (中略)共に生きていくことは、ふたりのなかではゆるがない未来でしたので、病気のことは家族にいっさい知らせずに結婚を進めました。
 わたしたちが新婚旅行から帰ってきた翌日、優作さんは帰らぬ人となりました。
 大きな驚きと深い悲しみのなか、なんとかこの苦難を一緒に乗り越えたい、越えられたらいいなと強く願ったのをおぼえています。
 おかげさまで、娘が20歳になったときには父親の”過去の病気のこと“として伝えることもできました。
 これまで元気でいてくれる夫にも、心から感謝です。〉
 〜同書134−135頁より引用

優作が早逝した際はショックだったが、まさか同じ時期に豊さんも初期とはいえ膀胱がんを患っていたとは。

この辺りの経緯は松田美智子の著書『水谷豊自伝』に記されており、詳細は省くが、豊さんの場合、帯・単発共にコンスタントにドラマに出続けていたから、その裏で闘病生活を送っていたなんて当時は思いもしなかった。

実の娘である趣里さんにもはたちになるまで話さなかったと上記のように打ち明けてるぐらいだから、僕も含め一般の人が知る由もなかったのは当然のこと。

そして、それを知った蘭さんの苦悩も想像に余りある。

これから結婚し共に歩んで行こうと決めてるさ中に、昭和の末期だと今以上に治療が困難とイメージされていたがんに、自分の愛する人が侵されるという現実をどう受け止めるべきか・・・。

それでも結婚に踏み切ったということは、蘭さんにも並々ならぬ決意があったものと思われる。

とはいえ、新婚旅行から帰国した翌日に親友の訃報に接するなんて、余りに残酷過ぎる。




何年か前に戻りたいという考えはないとのスタンスを述べつつ、

〈生きていると、人生のなかで大きな岐路となるポイントがいくつも訪れます。
 もしも、あのとき違う選択をしていたら、違う人生が開けていたのか。
 もしくは、どんな選択を、どの時期にしたとしても、結局は同じ人生だったのか。
 それを知ることは絶対にありませんが、興味深いなぁと思います。
 たとえば、あのときあの曲に出合わなかったら。
 あのふたりに出会わなかったら。
 中学校で演劇部に入らなかったら。
 東京音楽学院ではなく、劇団こじかに入っていたら・・・?〉
 〜同書142−143頁より引用

そうですねぇ、もし仮にデビュー曲『あなたに夢中』がいきなり大ヒットしていたら、キャンディーズはその後どういう道を歩んだでしょうね。

『年下の男の子』や『やさしい悪魔』はつくられていたかな?

自分自身が選ばなくても、与えられたもので運命が変わることはある。

それが何を意味するか、その時は分からないけれど、後にそういうことだったのかと認識することはあり得ると思う。

それで納得できるなら、十分幸せだと言えるでしょう。

ただ、あの解散の意思表示を、正に実力行使したことは正解でしたね。

時には抗うように、立ち向かうように動かなければならない瞬間があり、それさえ見過ごさなければ後悔のない人生を送れる筈です。




ということで、ざっと感想を綴ってみましたが、それ程細かく書かなかったのは、これから読もうとしている人がたまたま検索している中でここを見付け、目を通し、いわばネタバレのようになってしまわないようにとの配慮から。

他人の読書の楽しみを奪いたくはないですからね。

新刊は真っ新な気持ちで読んだ方がやっぱり充実するものです。

なので、掲載されている写真もupするのは最小限で。

読み返してまた何か思うことがあったら、この先追々綴るつもりです。