煙草を30過ぎでやめてから10年以上経った。
粋がって吸い始めた10代の頃は、憧れていたキース・リチャーズがマルボロを吸っていると知っては、美味くもないのに無理してマルボロを吹かしていたのを思い出す。

もう煙草には未練はないし、一昔前と違ってすっかり喫煙者も少なくなった。
しかしお気に入りのアーティストが愛用しているモノは興味があるもので、ふと、そういえばサム・クックはどんな銘柄の煙草を吸っていたのかと思い知りたくなった。
ソウル・シンガーの中でも煙草を一つのアイテムとして写真に写る姿がサム・クックは多いほうだ。
しかし、その銘柄については今まで知ることがなかった。

ではさっそくその銘柄探しに・・・・・・といきたいところだが、その煙草に関連する珍しいアイテムが二つebayに出品されていたのでその紹介から(^_^;)

まず一つ目は、前回訃報を伝えたジェス・ランドのコレクションからこんなものが出品されていた。


見ての通りの14金ダンヒル・ライター。
フロントには古代ギリシャの演劇"The Comedy and Tradegy Masks"(悲劇と喜劇の仮面)の彫刻がされている。
注目すべきは下段右の画像に記された印字。 "YOU'RE TOPS SAM"
そしてこのライターがどういうものかが書かれたジェス・ランド直筆の説明文と、現在の所有者にむけたような依頼文が証拠として付けられていた。


左の画像を見てみると、"1958. Given to me by my client Sam Cooke - Xmas Gift"と書かれている。
どうやらクリスマスのプレゼントとして、サム・クックがチェーンスモーカーだったジェス・ランドにプレゼントしたライターのようだ。
説明文によるとサムが最初に所有していたものをランドに譲ったものとのこと。
年号が1958年となっているが、ランドとサムが出会ったのは,、1959年の秋頃だったので、サムがこのライターを手に入れた年号か、ランドが59年のクリスマスと間違っているかだと思う。
"YOU'RE TOPS SAM"の印字からして、元は"You Send Me"のヒットによる記念品としてサムに贈呈されたものではないかと想像する。

これはジェス・ランドが亡くなる数か月前から出品されていたが、9月の訃報を知ると、死期が近いことを感じたランドが自分の所持品を近しい人物に分けていた品の一つではと考えてしまう。
当初の開始価格が日本円で50万円だったが、落札者が現れぬまま、30万にプライスダウンし、更に20万まで落としていたが、それでも結局落札者もなく終了していた。
一時的なれどサムが所有していたものであるならば、喉から手が出るほど欲しいものではあるものの、さすがに20万でも手が出なかった(^_^;)
ん~ん、そうだな、1万位まで下がれば入札しようかと(笑)


それからもう一つの煙草に関連した珍しい出品はこの写真。


そこにはバーバー(理髪店)で、シェービング・ケープをかけられ、今まさに顔そりをされようとしているサム・クックの姿が。
サイズも大きかったせいもあってか、落札価格は確か3万円位だったと思う。
ちなみにその時、同じ出品者からジェームス・ブラウンとレイ・チャールズの珍しい写真も出品されていたが、そちらの落札価格が倍の6万位付けられていたのを見て、複雑な気持ちになった(笑)
この写真も落札しようか悩んだが結局諦め、誰も入札することなく終了していた(^_^;)

面白いことに、後ろの壁には"NO SMOKING"の文字があるにもかかわらず、顔そりをされているサムの手元に注目してみると、その指には煙草が挟まれている。
撮影用だったのかもしれないが、禁煙の文字を無視した大物感がこんなところでもうかがえたり(笑)

サムは大物ではあるものの、つい先ほどジョン・レノンの使っていたグレッチのギターが競売にかけられ、1億円以上の落札額を予想されているというニュースを見たが、それに比べてモノは小物であれ、サム・クック関連の品にももっと注目が集まってもいいのに、と、思ってしまう。
そう思うのはファンだからだろうか?(笑)
いや、むしろ目立たない方が安く入手できるのでそれはそれで歓迎ではあるけれど(^_^;)

さてさて、それでは本題のサム・クックが吸っていた煙草の銘柄詮索に。

まず、最初の手がかりとなるのはやはりダニエル・ウルフが書いたサム・クックの伝記の訳書『Mr.Soul サム・クック』。
本書の中にはサムの煙草の銘柄を記すものはなかったが、コパの出演が決まってからのサムは、あまりのプレッシャーにより、バーで夜更けを過ごし、メンソールの煙草を何本も吸っていた、という記述を以前から見つけていたのでそれは知っていた。(※P351)

もう一つのピーター・ギュラルニックの書いた伝記本からも探せば何かしら見つかるかもしれないが、流石にあの英文の山からそれを見つけ出すのは至難の業。

てっとり早くFBのサム・クックのファンクラブに誰か知ってる人がいるだろうと投稿してみたが、やはりファンとはいえそこまで関心を持って調べている人も少なく、即答できる人はいなかった。

僕自身の見解として、コパの前に吸っていたメンソールというキーワードから、当時60年代に黒人の間で流行した「KOOL(クール)」ではないかと述べてみた。

サムが憧れていたナット・キング・コールもこのクールの愛煙者であったので、その影響も大きいのではないかと。

ちなみにメンソールの煙草を吸うとイ○ポになるという説があるが、あれは実際には科学的に証明されているわけではなく、このクールが黒人の間で流行したのを見ていた白人たちが皮肉ってそういう説を流したとも言われている。

その他の見解としてファンクラブの管理人のドナルドは、サムがタバコのCMをしていた「L&M」ではないかとコメントしていた。
L&Mからはメンソールが出ていないので、メンソールというキーワードを無視すれば、スポンサー料としてサムにいくらか現物支給されていたと考えればそれもありえる。
しかしサムは愛煙家として知られていただろうから、L&M側が黒人市場もターゲットにするべくサムを利用したかもしれないので、L&Mの広告塔になるまで、それを好んで吸っていたのかどうかは分からない。

クールかL&Mかと決めあぐねていたところに、アレサ・フランクリンのファンでもあるという投稿者が、決定打となるような記述を教えてくれた。
それはアレサ・フランクリンの伝記The "Queen of Soul"からの一節。

"I was a great Sam Cooke fan. I had a little book of everything on him, down to his Kent cigarettes. I had a pack of those. He was young, handsome, and quite dashing. He was a very down-to-earth and beautiful person."

「私は偉大なサム・クックのファンでした。私は彼が持っていた少しの本とケントの煙草に至るまでパックにして持っていました。彼は若く、ハンサムで、そしてとても活発でした。彼はとても現実的で美しい人でした。」

そこにははっきり「KENT(ケント)」の文字が。

そこでアレサ・フランクリンというキーマンを手掛かりに、ピーター・ギュラルニックの書いたサムの伝記をチェックしていくと、同じく「KENT」の文字を見つけた。(※P365)

このケントにまつわる話は、61年に当時18歳でポップに転向したばかりのアレサ・フランクリンとサム・クックの共演と深い関係があった。
同時にその時の様子を素敵なストーリー仕立てにしていたサイト(リンク)を見つけたので、ブログのタイトル通り『サム・クックと煙草とアレサ・フランクリンのお話』として取り上げてみることに。

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『You Send Me』

アレサは落ち着きを失っていた。

彼女はうまく演り終えた。アポロの観衆は賞賛の拍手をおくっていた。しかし、緊張していたアレサにはその拍手を心から受け入れる余裕がなかった。彼女は上手く歌っていた。しかし彼女は訳が分からないままステージを動き回っていたことを覚えている。ぽつんとステージの袖で立ち尽くしていたアレサは自分の頭をコツンと殴った。それは自信をなくし恐怖におののく姿。その時彼女は18才だった。
「アレサ、どうしましたか?あなたはよくやりましたよ」。
アレサは声のする方を見上げた。それは彼女の共演者であり家族の友人、そして愛すべきアイドルのサム・クックだった。アレサが7才の頃、サムが自宅に訪れ、彼に初めて出会ったその時から彼女はサムを敬愛していた。彼は当時から美しかった。それだけではなく、彼の優しい瞳は彼女を癒した。短い髪型は生まれつきハンサムな彼の顔を整え、その笑顔はあたたかく魅力的だった。男は彼女を骨抜きにした。

そして彼女はどうだったか?説教者の娘、料理して食べるのが大好きだった背の低い十代のみにくいアヒルの子。食べ物は彼女の親友でもあり宿敵だった。
アレサの赤ちゃんのように丸々とした顔の、その目は深くくぼんで悲しみに沈んでいた。
「ああ、サム、私は何を相手にしているか分からなかったわ。あなたのようにするにはどうしたらいいの?私は丸太につまずいているように感じたの」。
それは本当だった。
彼女は観衆を湧かせた。しかし彼女のぎこちなさは明らかだった。緊張感は彼女の動きを堅くさせた。

彼女はサムなら自分を助けることが出来ると知っていた。彼は同じようにゴスペルからポップに転向し、観衆をものにする方法を学んできた。立ち振る舞う方法、表現する方法、歌を売る方法。アレサは彼を研究したが、それを解くことはできなかった。
「どうすればサム、あなたのようにできるの?どうすればそれほど滑らかに歌うことができますか?」
彼女は問い求めた。
「シンプルです。観衆を気分良くさせなければなりません。それらと戦ってはいけません、感じるんです」。
アレサはそれが自分には出来ないことを知っていた。

彼女はポーチに手を入れ煙草を取り出した。
「あなたはケントをいつ吸い始めたんですか?」。
サムは笑って言った。
「それを一本頂けますか?」。
アレサはサムに煙草を渡し火を着けた。彼女はケントを吸うためにクールを諦めた。
何故ならそれはサムが吸っていたもの。彼女はサムの「Nearer To Thee」を聴いて以来、彼の虜になっていた。彼の歩む道を崇拝し、彼の言うことは何でも聞いていた。サムは目立っていた。彼は特別だった。
その時から彼女はサムのスクラップブックを集め、彼がクシャクシャにして捨てた煙草のパッケージまで保管していた。
「アレサ、あなたは私と初めて会った時を憶えていますか?」。
サムは笑いながら尋ねた。
「そう、あなたはハイウェイQC'sでデトロイトのショーの後、私のパパの家にやってきました」。
アレサは少女の頃を思い出し彼女の目は輝いた。
そのときアレサはリビングルームにいる素敵な18歳のリードシンガーをウットリした瞳で見つめていた。
「そのQCは、どのような表現者でしたか?」。
サムは笑って尋ねた。
「私たちはそのステージをうまく言い表すことが出来ませんでした。誰もそれを表す言葉を知りません。私たちは幾つかの言葉を選びかけましたが、一旦あなたが歌いだすとそれらの言葉は忘れさりました」
「それを初めてうまく言い表したのはパパです。彼は言いました」。
「これが『サム・クック』。それこそが『サム・クック』だ」。
アレサの父、C.L.フランクリンの存在は大きかった。
とても意志が強く威厳があり、サムは今まで出会った人物の中で彼ほど強力なものはいなかった。
彼の娘に対する影響力はあまりにも強すぎた。
1957年、C.Lは若いゴスペル・シンガーを集め、当時14歳だったアレサも引き連れていた。
その時サムは「ラヴァブル」を出しポップス・シンガーの道を歩み始めた。それを見ていたアレサも同じ道を望んだ。サムはアレサを説得してデュエットをしようとしたが、C.Lはそれを認めず、彼女を18歳までゴスペルの世界にとどめ、その後のレーベル契約も独断で決め、彼女を自由にさせなかった。
アレサは生身の人間ではなく、父親のオモチャだった。

アレサはサムに夢中で、サムのSARレーベルと契約することを望んでいたが、彼女の誕生日の直後にC.Lはコロンビア・レーベルと契約した。彼女は自分自身をコントロールすることが出来ず、単にツアーに出てそこで歌い、ゴスペルの精神さえ失いソウルでなくなっていた。
彼女は過ちを犯したのか?彼女はポップスに転向するべきではなかったのか?
彼女は既に二児の母だった。彼女は進むべき道を見失っていた。

アレサはまっすぐにサムの目を見据えて言った。
「教えて、私は正しいことをしていますか?」。
「お願いだ、苦しまないで。君はスターだ、よくやっている。だけどこれだけは覚えておいて。それは君が楽しいと思えないことであればしないでほしいんだ」。
その言葉を言い終わると直ぐにサムは、アレサが今の状況(父親の言いなりに過ごす生活)について良くは思ってないことに気づいた。これは彼女のための生活ではないと。
サムはアレサが自分の言うことを信じてくれることを知っていた。
彼女が溜息をついたとき、サムは何を伝えるべきかを理解した。

サムはアレサの手をとった。
「ねぇ、アレサ、それをしないで。この生活は君のためになってない」。
「でも、サム、パパは怒るわ」。
「C.L(お父さん)のことは忘れるんだ」。
サムはアレサのお父さんと違い、彼女のことを考え、敬い、もてなした。
「私は君のためにそれを説明しなければなりませんか?」。
サムは強調した。
「お金が今の私の神です。君もその神の元に身を置くべきだ」。
彼はゴスペル界を去ってからの変化を身を以て感じていた。
「アレサ、私は(ゴスペル界への道を)失った。私の後ろにはもう進むべき道はありません。しかし、私はそれを君の身にふりかからせません」。
アレサは初めて長い間、微笑んだ。
「本当に、サム、あなたは私がそうするべきだと思いますか?」。
サムは大きく頷いた。
「はい、私には分かります。アレサ、私を信じてみませんか?」
「私はサムのようにしてみるわ。私はします。サムは私にとって常に正しい道を教えてくれたから!」

「レディース・アンド・ジェントルマン!私たちのショーのスターを迎える準備をしてください!」。
ステージの上から司会者が叫び始めた。
「それでは『Mr.SOUL』を歓迎しましよう!それはそう彼のことです!サム・クック!」。
サムはアレサの頬に軽くキスをして、ステージに歩き出した。
「皆さん、お元気ですか?!」。
サムは白熱のスポットライトに目を細めて、悲鳴を上げて騒いでいる観衆にもう一度たずねた。
「私は言いましたよ、皆さん、お元気ですか?!楽しむ準備はできてますか?!」。

その様子をステージの袖で観ているアレサの顔は微笑んでいた。
そして心の中でこう呟いた。

「私は元気になりましたよ。もう大丈夫」と。。。



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何だかもう煙草の銘柄なんかどうでもよくなってしまうほど素敵なストーリーに鳥肌が(笑)
しかし、サムがクシャクシャにして捨てたケントのパッケージまで拾って集めていたほどアレサはサムに惚れていたんだということが、改めて知ることができ驚いた。
このアポロでのショーの時にサムはアレサにパフォーマンスについてレクチャーしていたことも、サムの伝記に書かれているので、実際にこんなやりとりがあったと思っても良さそう。
このケントがサムとアレサを繋ぐアイテムとなったことも間違いなさそうだ。

結果、メンソールやL&Mを吸っていた時期もあったかもしれないが、確実に分かったのがサムが好んで吸っていた煙草の銘柄はケントだということ。
ちなみにレイ・チャールズはマリファナを常用していたが、サム・クックの甥にあたる、ユージン・ジャミソン(Eugene Jamison)によると、サムはマリファナを嫌っていたと言っていた。

アレサはこの時のサムのレクチャーが励みになったのか、今やローリング・ストーン誌の選ぶ最も偉大な歌手でナンバー1に輝いているし、最近ではアデルの「ローリング・イン・ザ・ディープ」をカバーし、衰えを感じさせない声量にも驚かされる。

Aretha Franklin Rolling in the Deep


サムもきっとこのアレサの功績を見て、「凄いよアレサ!その調子!」なんて言ってるのかも。

そんなサムのお墓に参ることが出来るなら、線香代わりにケントの煙草に火を着けて置いてあげたい。

当然、その火を着けるライターは、あの14金のダンヒル・ライターでね(笑)

Smoke Rings- Sam Cooke