前回の第55仏に続いて、昨年(2022年)末に東京国立博物館(以下、東博と略記)の常設展示で拝観した仏像を取り上げる。

明治初年の廃仏毀釈の嵐の中で廃絶した奈良の大寺・内山永久寺に伝来した愛染明王坐像である。

廃寺となった内山永久寺から流出した文化財は数多い(代表的なものでは、大阪の藤田美術館が所蔵する国宝の《両部大経感得図》など)。

仏像では、東博と静嘉堂文庫、そしてMOA美術館が分蔵する四天王眷属立像(重文・康円作)や、同じく康円の作である木造不動明王及び八大童子像(重文・世田谷山観音寺蔵)などが知られるが、個人的にはこの愛染明王坐像がいちばんの優品という気がする。

何しろ素晴らしいのは像本体の彩色と、持物や荘厳具など付属品の遺存状態だ。

鎌倉時代に造られた像の厨子や荘厳具が、ここまで色鮮やかに、当初のまま良好な状態で遺っているのはかなり珍しいんじゃないかと思う。
厳めしい憤怒の形相を忘れ、思わず知らず見惚れてしまうほどの美しさ。。

個人的には、数ある愛染明王像の中でも五指に入る逸品じゃないかと思っている。
 

【拝観の記録】
木造愛染明王坐像/重文/東博蔵(内山永久寺旧蔵)
鎌倉時代・13世紀/像高:64.0㎝/木造・彩色・金泥・漆箔・切金
拝観日:2022年12月8日
於:東博常設展・本館1階11室