J.S.バッハの子供たちのうち11番目に生まれた、ヨハン・クリスティアン・バッハと、彼が大きな影響を与えたモーツァルトの作品で構成されたプログラム。
J.C.バッハの作品をコンサートで聴く機会は多くなく、その点でも勉強になった。
クリスティアンはイタリアで学び、ロンドンに渡り大活躍。当時の新しい音楽を次々と紹介し、多数の新作オペラでもロンドンの聴衆の人気を集めた。
神童としての演奏旅行で父レオポルトとロンドンを訪れた当時9歳のモーツァルトは、J.C.バッハからオペラをはじめとするイタリア音楽の様式を学んだ。クリスティアンがいなければモーツァルトの後の活躍はかなり異なったものになったのではと思われる。
イタリア様式の明るく溌溂としたクリスティアンの作品は、モーツァルトとの共通点を多数見いだせ、影響力の大きさがうかがえる。
なかでも、モーツァルトの協奏交響曲に影響したと感じた、オーボエの池田昭子、ファゴットの宇賀神広宣がソリストとなった「協奏交響曲 ヘ長調」が楽しかった。
池田のオーボエは上品さがあり魅了された。
白井圭、村上淳一郎(他のメンバーも入っていたかも)は、昨日4時間近い東京・春・音楽祭の歌劇《ローエングリン》を弾いたばかり。
リハーサル不足なのか、演奏に勢いはあるもののアンサンブルが粗く、もう少しきめ細かさがほしいと思った。
皮肉なことに、今日のプログラムで一番聴きごたえとインパクトがあったのは、N響ヴィオラ首席の村上淳一郎が弾いたJ.C.バッハ「ヴィオラ協奏曲 ハ短調 」だった。
なぜ皮肉と書いたのか、実はクリスティアンの作品ではないからだ。
実際に作曲したのは、アンリ・ギュスターヴ・カサドシュ(1879-1947)。作曲家・指揮者・ヴィオラ奏者で、カペー四重奏団のヴィオラ奏者でもあった。1901年、サン=サーンスらとともに「古楽器協会」を設立し、20世紀初頭の古楽復興に寄与した。ピアニストのロベール・カサドシュの叔父でもある。
バロック風ではあるが、明らかにロマン派の音楽と感じられる。
特に第2楽章のロマンティックな表情は、ブラームスを思わせるところもある。第3楽章に第1楽章の主題が回帰するところもクリスティアンの時代様式とは異なる。
村上淳一郎はスケールの大きい堂々とした演奏で、この曲の新たな魅力を浮き彫りにした。チェロに近い鳴りの良い骨太な音でぐいぐいと演奏を進めていく。カデンツァの迫力たるやロックのような乗りの良さがあった。会場は文字通り熱狂した。カーテンコールは4回に及び、皆がアンコールに期待したが、村上は腕時計を指し巻きのサインとともに予定時間のオーバーを告げた。
次回の白寿ホールのN響チェンバー・ソロイスツは、12月6日(火)19時。
気鋭の若手弦楽奏者23名によるR.シュトラウス「メタモルフォーゼン(23の独奏弦楽器のための習作)」他が予定されている。
今回の出演者:
白井圭、三又治彦 (以上、ヴァイオリン)
村上淳一郎、三国レイチェル由依(以上、ヴィオラ)
村井将(チェロ) 矢内陽子(コントラバス)
池田昭子、和久井仁(以上、オーボエ)
宇賀神広宣(ファゴット) 木川博史、野見山和子(以上、ホルン)
山縣万里(チェンバロ)
プログラム:
J.C.バッハ
「交響曲 ニ長調 op.3-1」
「協奏交響曲 ヘ長調」 (ソロ:池田昭子、宇賀神広宣)
「ヴィオラ協奏曲 ハ短調 」(ソロ:村上淳一郎)
モーツァルト「ディヴェルティメント 第15番 変ロ長調 K.287」