エドゥアール・マネが挿絵を担当した貴重な限定本も

 

 

2018年3月末にオープンした仏文学者 鈴木信太郎氏の旧邸宅、鈴木信太郎記念館は、

仏文学ファン、建築ファン、ニッチな絵画ファンには超お勧めの場所。

(タイトルにも「超」を入れかけて、やっぱり取りました。ファン層がピンポイント過ぎる気がして。)

 

 

まず仏文学に関して言えば、さすがかつて30坪を所有した大地主の家系だけあって財力豊富、

仏文学を中心に和書も含めた膨大な蔵書量でした。

 

しかもこれですべてではなく、企画展内で入れ替えもあるのだとか。


 

 

 

鈴木信太郎先生のご専門、ボードレールやマラルメはいうに及ばず、

ジュール・ヴェルヌの「80日間世界一周」などは

様々なオリジナル版に加え、いくつもの古びた日本語訳も。

 

どんな作家の本があるのか見ようとしても、当時一流視された作家の作品は

すべて所有していたのでは、と思えるほど。

(多分それに近いと思います。)

 

 

金の箔押し本、献辞のあるもの、著者の署名入り、シリアル番号入り、

など、稀覯本が多い印象だったのですが、

研究目的のみならず、あえて稀覯本の収集もされていたというから納得。


やはりそうした希少な本は、そっけない文庫本とは格が違うというか、

歴史をどっしりと携えた存在感があります。


書斎には神聖な空気が漂い、

19-20世紀を中心に活躍した作家たちの魂が宿るかのよう。
 

 

 

 

そんな中、驚いたのが、

マラルメの240部限定の大型本。

 

なんと挿絵は印象派のエドゥアール・マネ。

革新的過ぎてなかなか世に受け入れられなかったこの画家を、マラルメは支援したのだそう。

 

そしてあえてこの豪華限定本の挿絵画家としてマネを起用。

挿絵ページは4枚と少ないですし、モノクロの墨絵のような趣です。

 

それが下の段の大きめの本です。

貴重な本なので複製ですが、マネの素早い筆致が確認できます。

 

こんなところでマネに出会えるとは・・・。

 

 

 

 

本書の日本語版も所蔵されていて、そちらの複製も並んでいます。

 

本のタイトルは「大鴉」。

そう、もともとエドガー・アラン・ポーが作った長編詩を

マラルメが仏訳したものです。

 

マネの挿絵の方は、印象派の画風はここでは封印されていますが、

のぺっとした人物の表情には既視感があります。

 

 

 

 

こちらの書斎、当時ではめずらしい鉄筋コンクリートでできています。

以前本の大量焼失を経験したため、書斎部分は頑強なつくりにしたといいます。

 

戦火を潜り抜けた、堂々たる建物です。

おかげで、これほどまでにそうそうたる国立国会図書館も真っ青というべきコレクションが

今に伝えられることになりました。

 

 

外から建物を見た時、さらに私を喜ばせたものがあります。

それは上部のガラス部分。

ステンドグラスです。

さあ、どんな図柄なんでしょう。

 

 

 

 

獅子が本を開いている様子が描かれています。

書斎にぴったりの柄です。

 

4枚あるステンドグラスの絵はそれぞれ少しずつ異なっていましたが、

色調はすべて同じです。

 

 

 

 

こちらは犬?それとも小鹿?

 

 

 

ペガサス?

 

 

鳥たち。

いずれも本をしっかりこちらに開いて見せています。

 

 

 

 

鈴木氏は知識階級との交友も多くあり、暖炉の上には

須賀国太郎の手による鳥図も。

 

他に油絵も2点ほど掛けられています。

 

信太郎先生の息子さん道彦さんも同じく高名な仏文学者ですが、

前者はマラルメ、ボードレール、後者はプルースト研究で知られています。

 

館内のビデオで道彦さんが話されていた内容によると、道楽で仕事を決めた父と違い

戦争時代に育った自分は父とは別の方向で仏文学を志した、とのこと。

 

ただプルーストはボードレールの信奉者で

「失われた時を求めて」の中にもオマージュが出てくるほど。

 

ボードレールを尊敬したプルースト、を

信太郎氏を尊敬した道彦氏、と置き換えることができるかもしれません。

 

 

 

 

 

先ほどの外見はコンクリートの洋館でしたが、実はこのお屋敷

和、和、洋の3棟続きで、左の座敷棟は、埼玉の実家からの移設です。

 

 

 

 

お座敷の中は、清潔感があり、きれいにまとまっています。

 

 


透かし彫りなど木彫もこまやかで、

さんさんと差し込む日差しを受けた障子の白さも鮮やかでした。

 

 

 

 

場所は新大塚駅から徒歩2分。

入場無料。

https://www.city.toshima.lg.jp/129/bunka/bunka/shiryokan/suzuki.html

 

 

 

英知が詰まった書斎に酔いしれて、自分ももっと勉強しなくちゃ、

などと思いつつ、家に帰れば自堕落な私がいます。