レースが好きな人なら、レーサーになれたらなあ、と考えた事があるかと思います。
飛行機が好きな人なら、パイロットになれたらなあ、と思う事があるかもしれません。
ですが、戦車が好きな私は戦車兵になれたらいいなあ、とは絶対に思いません。
好きな戦車に対してそんな印象をもつようになったのは、2001年にエンターブレインから初代プレイステーションで発売されたパンツァーフロントbisというゲームがきっかけです。
パッケージは地味。一見さんお断り的オーラがあります。
今でこそ戦車ゲームはオンラインで色々とありますが、当時はこういったリアル系の戦車ゲームはほとんどありませんでした。
そんな時代の中でも抜群に出来がよかったこのゲームは、今でも続編を望む根強いファンがおり、中古でもまあまあの値段がついていたりします。
このゲームの最大の特徴は、戦車にヒットポイントという概念がなく、敵の砲弾を自車の装甲がはじき返せば無傷、貫通されれば即死という、シンプルかつ緊張感のあるシステムになっています。
舞台は第2次大戦中のヨーロッパ戦線で、プレイヤーはドイツ、ソ連、アメリカの3つの陣営の戦車をそれぞれ実際にあった戦場のシナリオで操作し、ガンダムに例えると、ドイツ=ジオン、米ソ=地球連邦、といったパワーバランスになっています。
選択できる3つの陣営の中ではドイツが最も優秀な戦車を持っており、実在した戦車エースであるミハエル・ビットマンが戦車1両で連合軍27台の車両を撃破した「ヴィレルヴォカージュ」の戦いや、そのビットマンが戦死した「N158街道」、パンター戦車1両でアメリカ軍のシャーマンを狩りまくる「バルクマンコーナー」などその筋では有名なシナリオがそろっています。
教育心を刺激するセリフでスタートです。
ですが、優秀な戦車を持つ一方、史実通り米ソの物量に摺りつぶされるシナリオも多いのがドイツシナリオの特徴で、史上最大のクルクス戦車戦を再現した「オクチャブリスキ」では、当時世界最強と言われたタイガー戦車でもって、文字通り雲霞の如く迫りくるソ連のT-34戦車に対峙することになりますが、超高速かつ集団で接近するT-34戦車を打ち漏らしてしまうと、いつの間に敵軍に全周包囲されている、
といった絶望感を味わうことになります。
撃ち漏らすと画面が赤いマーカーで埋め尽くされるハメに。
その他にも撤退戦、防衛戦のシナリオも多く、消耗していく自軍を成す術もなく見送る無力感も味わう?ことが多いのが特徴です。
一方の米ソでは物量をもって、少数精鋭のドイツ軍を各個撃破していくシナリオが多く、例えばソ連シナリオ「10月農場」は先述の「オクチャブリスキ」をソ連サイドでプレイする内容になっていて、味方の屍を乗り越えながら、スキをついて先ほどの精鋭タイガー戦車4両に肉薄する、という構成になっています。
敵が横を向くということは味方が狙われている、という事。
ドイツサイドから見れば大量で攻め込んでくる一見勝ち組のソ連サイドも、実は必死のパッチで攻め込んでいた、という気分が実感できます。
また、アメリカシナリオの「ルーデンドルフ鉄橋」では映画の舞台にもなった「レマゲン鉄橋の戦い」が再現されているのですが、ドイツ側88㎜高射砲、駆逐戦車の待ち伏せを多くの犠牲をはらいつつ撃退し、やっとのことで鉄橋までたどりつくと最後にヤークトティーガーというラスボスが登場する設定になっています。
青が自軍、赤が敵軍。ガンダム抜きでソロモン攻略、的な難易度です。
初見では名前なんかわからないので「新型重戦車」と呼称されます。
ガンダムでいうとGMの部隊でソロモン内部に飛び込んだらビグザムが待っていた、的な展開なのですが、正面から打ち合っては100%勝ちのないこのラスボスをどう攻略するか、というのがポイントです。
一方こちらがビグ・ザム。正面装甲は絶対に抜けません。
このゲーム、基本はどの陣営のシナリオも難易度は高いのですが、実は敵車の配置、出現タイミングが固定されているので慣れてしまうと詰将棋的に無双できたりします。
でもそれはあくまでゲームの話。
実際の戦争なら勝ちに行くまで何回戦死しても足りないほどで、実際生き残れるかは個々の力量ではなく、正直運しだいといった事が良くわかります。
もしも戦車兵になるのは絶対お断り、というのはそういう理由であり、実際の戦場であれば自分がドイツ側であろうが連合軍側だろうが絶対に生き残れない、と思うからです。
史実の戦闘でも、当時のアメリカ軍は1両のタイガー戦車に対し3両のシャーマンで対抗し、うち1両のシャーマンは犠牲にする前提だったそうで、最も勝ち組なアメリカでもそんな選択をしていたというのは相当キツイ世界です。
このパンツァーフロントbis は前作パンツァーフロントの改良版という扱いで、追加された要素にはシナリオを自作できるコンストラクションモード、一兵士としてドイツシナリオを継続できるストーリーモードがありどちらも改良版相当の出来なのですが、特に印象的なのは日本が舞台となっている架空シナリオが追加されていることです。
この日本シナリオ「串良」は日本が8月15日に降伏せず、アメリカ軍が九州から上陸した、という設定で、日本陸軍が本土決戦用に温存していた3式戦車、新兵器の4式戦車でアメリカ軍を向かえ撃つ、という架空戦記では良くありそうなシナリオですが、実際は虎の子とはいっても歴戦のアメリカ戦車相手には何のアドバンテージもなく、日本の田舎を舞台に負け戦を展開する屈指の難易度シナリオとなっています。
九州の田舎道を戦車が進みます。
日本陸軍虎の子3式戦車ですが、その実力は・・・。
農家の陰で「待ち伏せ&煙幕で移動」しか勝つ方法はありません。
このシナリオだけは発売後17年たった今でもクリアできていないのですが、日本の風景が戦場になる映像というのは、いろいろと考えさせられます。
一見戦車好き・戦場もの好きに向けて作られたようなこのゲームですが、いざやってみると「戦争は絶対にしたらアカンよな」と心の底から実感できる、という珍しいゲームです。