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DATE/ 2020.12.11

日本で最も重要な統計調査「国勢調査」とは?

 5年に一度の「国勢調査」。今回は国勢調査とはどんなものか、回答は国民の義務なのかなど、調べてみました。

第1回国勢調査は鳴り物入りのお祭り騒ぎ

 国勢調査の最古の例は、紀元前3000年ごろのバビロニアやエジプトにまでさかのぼれるといいます。近代国家にとっては必須のものとして、欧米の各国が熱心に行いました。

 近代日本では、日本に住むすべての人と世帯を対象に行われる大規模な調査として、日本近代統計の祖といわれる杉亨二(こうじ)が発案しました。そこから得られる統計は、行政施策や経済活動の基礎データとして、「よりよい日本」をつくるために活用されてきています。

 明治29(1896)年、衆議院と貴族院で決議された「国勢調査ニ関スル建議」に「全国ノ情勢」を見ること、とその目的が示されました。「国勢」とは「国のいきおい」ではなく、「全国の情勢」を見ることなのですね。

 第1回国勢調査は大正9(1920)年に行われ、関係者一同はもちろん国民も「文明国の仲間入り」と大変な意気込みで取り組みました。今も残る北海道庁のポスターでは「此(こ)の調(しら)べに漏(も)れては国民(こくみん)の恥(はじ)です」と大書。調査の行われた10月1日午前零時前後には、各地でサイレン、大砲が鳴り、お寺やお宮では鐘・太鼓を鳴らすなど、まさに鳴り物入りのお祭り騒ぎで国を挙げての一大行事となったということです。

 当時の内閣総理大臣は、平民宰相と呼ばれた原敬。パリ公使館勤務時に「1886年人口センサス」を目の当たりにして、人口調査の重要性を学び、総理大臣になると内閣に国勢院を設置しました。実施の翌年11月、東京駅で暴漢に襲われ、国勢調査の結果を見ることなく永眠したのは、歴史の教科書でおなじみです。

青色の封筒でやってくる現在の国勢調査

 国勢調査の方法は、調査書類の配布→インターネット又は調査票(紙)による回答→提出→確認・集計の4段階となっています。対象は国籍を問わず、外国人の場合、日本に来て3カ月以上の人の回答を求めるため、調査票の対訳は27言語に上ります。

 調査書類は、従来は全国に居住する70万人の国勢調査員が全戸を訪問していましたが、令和2年度については新型コロナウィルス感染拡大防止の意味から、すべてポスティングに変更されました。また、同様に「インターネットでの回答」が強く呼びかけられたのも記憶に新しいところです。

 青色の封筒に入っている調査項目は16項目。世帯員それぞれの氏名、性別、生年月などに加え、住居の種類や住んでいる期間に学歴、そして、勤め先を始めとした就業状況などが問われます。単身者の場合、ネットなら10分程度。書類に記入するのはマークシート方式のため「黒鉛筆」の準備などが必要ですが、やはり10分もあれば回答できます。

 気になる統計結果の利用ですが、「地方交付税」の交付額を算定する基礎となることをはじめ「選挙区の確定」、「市となるための要件」など、多くの法令で利用が定められています。統計的な意味合いとして、「日本の人口が1億人を超えた年」「65歳以上の高齢者人口の割合」など、すべて国勢調査の数字が元になります。

対面調査からインターネットへ。住民の自発性が必須

 このように重要な国勢調査は「全数調査」であることに価値があるため「義務」と位置づけられています。しかし、従来行われてきた国勢調査員による「対面調査」が都市部などでは実質的に不可能になってきたため、回答の提出は住民の意思に任されることになりました。

 インターネット回答は2015年に導入され、約37%が利用しました。2020年の回答状況は、インターネット回答数が約2111万世帯で39.5%、郵送回答が約2236万世帯で41.8%、未回答が18.7%となっています(10月20日現在)。

 都道府県別には、静岡県の46.2%がネット回答、43.2%が郵送回答で、未回答世帯が10.6%。沖縄県の32.6%がネット回答、35%が郵送回答で、未回答世帯が32.4%など、ばらつきが目立ちます。東京都では40.6%がネット回答、32.2%が郵送回答で、未回答世帯が27.6%に上っています。

<参考サイト>
・国勢調査2020
https://www.kokusei2020.go.jp/index.html
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