園芸品種に就いて
花が咲くでも無し、幹が曲がりわだかまって面白味があるでなし、千年不変の容貌を
備えている野生岩ひばが、錦を織る様な色彩と形状の変化した品種を無数に作りだした
徳川時代園芸家の努力は、セッカチな現代人には驚異の一つと云はねばなるまい。
「岩ひば」は巻柏の一漢名の方が通りが良いが、植物の分類学と云う戸籍調べをして
見ると、有舌石松群(ユウゼツセキショウグン)、巻柏科(イワヒバカ)と云う事になる。
更に漢名や、古名をたずねて見ると漢名では長生不死草(チョウセイフシソウ)、
萬歳(バンザイ)、又 豹足(ヒョウソク)、求股(キュウコ)、交時(コウジ)、
千秋(センシュウ)等の名が本草の書に見えている。
和名では伊波久美(イワクミ)、又伊波古介(イワコケ)などは古名で、
近世は「こけまつ」「てんぐのもとどり」「くさひば」などの名もある。
しかしこれ等は皆原種「岩ひば」の名で、園芸的に作出された品種の総称は、
何とか区別した別名を用いたら野生種との区別が、ただちに解される事と思う。
これに就いては今春東京巻柏会の依頼にて小冊子を著述したがその中に、
園芸品種巻柏の総称として、「萬歳草(いわひば)」の文字を用いた事を述べておいた、
その拠る所は本草の古名には「萬歳(ばんざい)」の別名があるのによるので、
別に新規な命名では無い、只従来の慣用文字を改めたいと定義するだけである。
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