2020年(令和2年) 4月23日(木)付紙面より
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俳聖・松尾芭蕉が「おくのほそ道」紀行の際、「羽黒山中興の祖」と称される天宥(てんゆう)別当(1595―1675年)の追悼文を依頼され、その時に関係者に宛てた書簡の軸装が発見された。所蔵していたのは酒田市芸術文化協会長を務める工藤幸治さん(80)=同市若浜町、酒田あいおい工藤美術館長。テレビ東京系の人気番組「開運!なんでも鑑定団」に鑑定を依頼しこのほど、「真筆」のお墨付きを得た。同番組は首都圏などで放送済み、本県では5月23日(土)午前9時半から山形テレビ(YTS)で放送される。
芭蕉は1689(元禄2)年旧暦6月に羽黒山に逗留(とうりゅう)。この際、羽黒山再興に尽くした天宥別当の功績をたたえ、「無玉(なきたま)や羽黒へかへす法(のり)の月」の句を詠み、それを記した追悼文「天宥法印追悼句文懐紙」は、出羽三山歴史博物館(鶴岡市)が所蔵し、県文化財に指定されている。
軸装は2018年、庄内地方の旧家から「あなたは古いものが好きだから」と譲り受けたものという。署名や落款(らっかん)はないものの、軸に象牙を使用しており、書簡周囲を彩る金蘭が鮮やかだったことから「真筆」と工藤さんは判断、本間美術館(酒田市)の田中章夫館長から「芭蕉全図譜」(岩波書店、非売品)を借りて芭蕉の筆の運び・流れなど研究を進めてきた。工藤さんが読み下したところ、書簡は「『其玉(そのたま)』『無玉』どちらでもよい。知識のある人に聞いて、そちらで決めてほしい」などと記載、「逗留中の芭蕉一行を案内した地元の俳人、近藤左吉(号・呂丸)に宛てて書いた書簡では」と推測していた。
番組スタッフからの強い要望もあり今回、「真贋(しんがん)をはっきりさせたい」と工藤さんは鑑定を依頼。「古文書の生き字引」と称される増田孝愛知東邦大学客員教授が鑑定に当たり、「オープンプライス」では、工藤さんの「予想価格」を大幅に上回る思わぬ高値を付けて「真筆」と判明。増田客員教授は「国文学史上、新発見の重要な史料」と前置きした上で、自ら詠んだ句の最終決定を相手に委ねていることを受け、「厳密な言葉選びで知られる芭蕉だが、こんな一面もあったのかと思わせる史料」と続けた。
工藤さんは「書簡を調べていくうちに芭蕉や天宥別当に関する知識を深めることができた。この出合いに感謝」と。そして「元の持ち主とも相談してしかるべき箇所に寄贈し、多くの人から目にしてもらいたい」と話した。