この文章を読んでいると,下図のうち左右それぞれ2列の陰影パタンは上方向に,中央の5列の陰影パタンはした方向に動いているように知覚される(運動錯覚が生じない場合,観察距離を変えてみて下さい).
下図を注視するとこの運動錯視は不明瞭になる(見えなくなるわけではないが).このことから,周辺視野での輝度変調パタンの観察がこの運動錯覚成立の条件であることがうかがわれる.
5円玉の穴のような小さな隙間を通してこの絵を観察した場合,運動錯視が不明瞭になる.このことは,眼球運動がこの錯覚の成立に重要な役割を果たしていることを示唆している.
この錯視を用いると,さまざまな対象を動かすことができる.これらの一連の運動錯覚図形の観察においては,知覚される動きに対応する物理的運動は画像の中には存在しない.その意味では,これらの画像の観察において生じる運動感覚は主観的なものと言えるかも知れない.ただし,大多数の観察者において同様の運動が知覚されるとしたら,この体験される動きには一種の客観性があるとも言えるだろう.