コスカシバによる食害


「コスカシバ」という名前を聞いて、それ何? という方が多いと思います。
私も樹木医研修を受けるまでは全く聞いたことがない言葉でした。物の本によると、幼虫の時に、樹皮と木部の境目にある形成層を好んで食べる芋虫と記されています。下図は、 今更ながら「年輪」のはなし - さくらがわーるどからこんにちは (tsukuba.ch)より引用 


 その被害を予防するには、サクラ等、観賞用の樹木の場合は、5月末〜9月末まで毎月1回、比較的残効性が高いスミパイン乳剤100〜300倍液を噴霧すると書いてあります。 しかし、サクランボ・ウメ・モモ等、果樹の場合は、収穫した果実に農薬成分が入る可能性があるので、収穫日から逆算してガットキラー・ラビキラー・ガットサイドS等のMEP系殺虫剤を散布または塗布する事という制約があります。

種類 適用作物 適用病害虫 希釈倍数 使用時期 使用回数
MEP乳剤 さくら コスカシバ 100〜300倍 成虫発生期 6回以内


これが、幼虫(芋虫)です。



この蜂みたいな虫は、蛾の仲間です。透明な羽根を持った小さな虫ということからコスカシバ(小 透かし羽)と命名されたようです。



こんなのは、どうでも良いような小さな虫なのですが、被害は甚大です。

先日、調査をした桜並木の悲惨な姿です。私が見た感じでは、ソメイヨシノよりもヤエザクラの方が大きな被害を被っています。

いったん形成層を食べられるとその樹皮は元には戻りません。なぜならば、樹皮部に位置している「細胞分裂して樹木を肥大させるべく形成層」と「光合成した栄養分を下ろす師管」が機能を失うため、写真のように悲惨な姿をさらすことになります。



予防対策としては、定期的な薬剤散布と、樹皮に糞が見えたらナイフ等で削り虫をほじくり出す処置が効果的です。

しかし、写真のようになってからは、樹皮を失った材部縁から不定根を誘導するしか対策がありません。

特に、右下の樹はまさに悲惨そのものです。この樹木の治療方法は? 

1、盛り上がった樹皮の縁に傷をつけます。

2、裸になった材の部分を水に浸したピートモスで包み込みます。

3、最後に専用の布で包み込むか、あるいは、トタンや木枠で囲みます。

4、定期的に樹木用肥料を施します。

5、そして、ふくれあがった樹皮から不定根が発生するのを神に祈りながら待ちます。もし、不定根が発生しそれが地面に到達すると、下の写真のように根が太くなり、この木の樹勢は一気に回復します。





左の写真は、私も一時会員登録したことのある「NPO法人 藪会」がネットに掲載していたものですが、誘導した不定根が、しっかり根を張っております。




左下の樹は平成6年に植樹された若い記念樹ですが悲惨な姿をさらしています。右下の樹もかなり悪戦苦闘しています。




私が依頼され、手をかけた事例を紹介します。


ある寺院から数珠の樹(モクゲンジ→ボダイジュ)の葉が枯れ始めてきた。このお寺にとっては「神木」なので是非回復させて頂きたいという依頼でした。

早速現地で拝見、枝先に明らかな枯れが始まった樹木を見てウーンと唸りました。実は、この手の症状、原因の究明が大変に困難なのです。



根・茎・葉と・・・・とあちこち見ましたが、なかなか要因がつかめません。

正直言って、焦りの色が見えたころ、樹皮周りに少量の糞を見つけました。でも、たとえ、樹木医といえども見かけが健全そうな樹皮に刃物を入れるのは

勇気のいることです。おそる、おそる、糞の出ている周辺を削ってみました。そしたら、樹皮の下にトンネルが見え、その中にいる芋虫を見いだすことに成功しました。

意外に早く原因を見つけることが出来、思わず「万歳」と叫んでしまいました。 ちょっと不謹慎であったかな?



この大木を枯死の危険に陥れたのは長さは1.5cmほどの2匹の小さな芋虫でした。

この芋虫があけたトンネルをたどっていったら、何と、この樹皮の3/4が鉢巻き状に食べられており、結果として、木部に位置する導管は無事なものの「樹皮部に位置している『形成層』と『師管』」が消失しておりました。これでは、葉が枯れるはずです。

処置と言っても私の出来ることは、この削った部分を消毒して樹脂で固めて腐朽を防ぎ、後は、住職に依頼して毎日根元にタップリ水をかけ、この夏をしのぐことだけでした。

それから2年後、傷口が狭かったのが幸いしてか、この外科処置跡は新しい樹皮が巻き込み、何もなかったように癒えていました。

お客様の役に立てて本当に良かったと、、胸をなで下ろしました。