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樹木シリーズ21 ホオノキ

  • 食べ物を包む大きな葉・ホオノキ(朴木、モクレン科)

     枝先に大きな葉を車輪状に茂らせ、その葉の大きさは30~40cmと国内最大級。大きな葉は、燃えにくく芳香もあることから、朴葉味噌、朴葉包み焼き、朴葉餅などに利用されるほか、昔から食べ物を皿代わりに使ったり、包むのに使われた。花もデカク、直径20cmほどもある。
  • 名前の由来・・・ホオノキの「ホオ」は、「包(ほう)」の意味で、大きな葉で食べ物などを包むことに由来する。
  • 花期・・・5~6月、高さ20~30m
  • ・・・トチノキの葉にある鋸歯はなく、滑らか。葉が大きく、7枚くらいの葉が輪になって付き、これを輪生という。花が咲く頃のものが、香りも強く食に利用する旬。葉を採るときは輪生している元からまとめて採るようにする。それを冷蔵保存すれば、年間通して使える。 
  • 大きな葉は食に活用
    1. 香りがあるので良い風味がつく。
    2. 殺菌・抗菌作用効果によって食材の保存に役立つ効果がある。
    3. 葉は水をはじき、燃えにくい。

       以上の特徴があることから、農山村の郷土料理によく利用される。ホオノキの大きな葉に食材と味噌を載せて焼くのが朴葉味噌。包んで焼くのが朴葉包み焼き。大きな葉に餅を包んだ朴葉餅も風味が良い。 
  • 食材を包む・・・昔は、ホオノキの葉を干したものを束にして、町の店に売った。店では、砂糖や魚、キノコなどを売る際、今のビニール袋の代わりに包んで売った。山では、釣り上げたイワナの鮮度と風味を保つために、味噌を塗ってホオノ葉に包んだりした。炭火の上に網を敷き、イワナのホオ葉味噌焼きをすれば、葉が燃えずにイワナと味噌が香ばしく焼ける。
  • 「秋田風俗問状答」(文化年間)には・・・田植えの際、「朴の葉を重ねて敷いて赤飯を盛り、それに朴の葉で蓋をして包み、近隣や親しい人に贈り合う」・・・また、ホオノ葉に包まれた食べ物は、「特に香ばしい」と記されている。
  • ほの葉飯・・・入梅時の大安吉日に、早苗を植える。神様にお神酒、海草(ワカメ)、ニシン、ほの葉飯、まゆ玉を備えて、田植えの始まりを告げ、田んぼに植えられた苗が早く根付き、順調に生育するように祈った(「田代の行事食」羽後町田代軽井沢 佐藤ミヨ) 
  • ほの葉まま・・・大きなホオノ葉にご飯ときな粉、ご飯と納豆を入れた「さつきのたばこ」料理。農家にとって田植えは稲刈り同様、一年で最も大切で忙しい作業。たばこ(休憩)は特に待ち遠しく、田んぼを前にムシロを敷き、車座になって男たちは酒っこを、女や子どもは「ほの葉まま」を頬張って食べ、一時の安らぎを求めた(「田代の行事食」羽後町田代軽井沢 佐藤 タキ) 
  • 神聖な葉の霊力・・・羽後町では、かつてご飯を包んだホオノ葉を捨てずに、腰に挟んで田植え作業をした。そうすることで、神聖な葉の霊力と薬効により、腰が痛まないと信じられていたからである。美郷町堀田では、かつて長雨が止むことを祈って行われる祈願の際、必ずホオノ葉に餅を包んで供えたという。ホオノ葉は、水をはじく性質があることから、雨をはじき飛ばして晴らそうとしたと言われている。
  • 大きな花が上向きに咲く・・・初夏、枝先にスプーンのような形の丸まった直径15~20cmの花弁が6~9枚集まって上向きに咲く。花には芳香がある。中央にそびえ立つのは赤い雌しべの集合で、その基部を多数の雄しべか囲む。開花初日の花は、半開きで、三日目には、花びらが反って雄しべも散る。 
  • 花のツボミ ・・・固い殻に割れ目が生じると、白い花が顔を出し、大きな花が開き始める。
  • 原始的な花・・・ホオノキの花は、1億年前に現れた「広葉樹の初期の姿」の一面を残していると言われている。1億年以前に栄えていた針葉樹は花粉を風で飛ばすが、その後優勢になった広葉樹は花粉を虫に運んでもらうことが多い。広葉樹初期のホオノキは、蜜ではなく、強烈な香りと、食料としての花粉で虫をひきつける。 
  • 自家受粉を防ぐ仕組み・・・両性花だが、時期によって「性」が変えることによって自家受粉を防いている。開花1日目は、雌しべが張り出して雌花となる。二日目は、雄しべが張り出して雄花となる。開花した初日に、昆虫が運んできた他個体の花粉を雌しべにつけてもらって受粉する。二日目には、昆虫の体に雄しべの花粉をつけ、他個体の雌しべへと運んでもらう。花の寿命は3日程度と短い。 
  • 自家受粉の確率は高い・・・ホオノキの花には蜜がないので、蜜を求めて飛び回るハチ類が寄り付かず、花粉を食べるだけの虫が寄ってくる。だから、花粉を雄しべから別の花の雌しべへと運ぶ確率が低く、自家受粉してしまう確率が5割以上もあると言われている。
  • 健全に育たない実も少なくない・・・自家受粉してしまうと、実は健全に育たない。その自家受粉の確率が高いと、健全に育たない実が多くできてしまう。しかし、そんな不完全な実でも、鳥が好む赤色になることから、鳥を効果的に呼び込む一助になっているらしい。 
  • 集合果・・・長さ10~20cmとデカク、秋に赤く熟す。らせん状にたくさんの小さな袋が並んでいて、それぞれの袋に果実が1~2個入っている。種が赤くなるのは鳥に食べてもらうためである。 
  • 鳥に散布・・・種子は、赤い実がとうもろこし状に集まった形で、ややグロテスクな形状をしている。この色と形が、鳥にはよく目立つ。10月頃、袋が割れて中から赤い種子が出てくる。鳥は、その赤い実を食べて、移動した後に、糞と一緒に種子を地面に落とす。 
  • 実を食べる野鳥・・・アオゲラ、コゲラなどのキツツキ類、ヒヨドリ、シジュウカラ、ヤマガラなど。
  • 休眠と発芽・・・種子は地中で20年以上休眠できる能力をもっている。陽樹であるホオノキは、眠っていた頭上にギャップができ、十分な光が射しこむと目が覚め、一気に芽生える。ただし、葉が芽吹く前はギャップかどうか判別できないので発芽せず、ギャップを判別できる夏に発芽(土用芽)する習性をもっている。 
  • 夏、赤みを帯びた黄緑色の新葉「土用芽(どようめ)」・・・ホオノキの葉は、夏になると、5月頃に展開が終わった1次伸長葉の上に2次伸長葉が展開する。その新葉の色は、赤みを帯びた黄緑色をしているので簡単に識別できる。この葉のことを「土用芽(どようめ)」と呼んでいる。この土用芽は、一次葉が今年になって稼いだ栄養分を使って展開している。また、第1次葉が日陰にならないように、できるだけ長く枝を伸ばしてから葉を展開しているのに注目。 植物は移動することができない分、実に賢く進化しているのが分かる。
  • 生長が速い・・明るい場所では、数年で2~3m程度に育つ。 
  • 重ならない葉の展開・・・一気に全ての葉を開かず、光条件に合わせて順次葉を展開していく。明るい場合は、たくさん葉を開き、暗い場合は、余り葉を開かない。大きな葉は車輪状につくため、お互いが重ならない。速く生長して高さを稼げば、上の葉が下の葉の陰になりにくい。体のつくりが実に合理的にできている。 
  • 高く生長することを優先・・・余り枝を出さず、真っすぐ上へ上へと伸び、高さ20~30mにもなる。細かい枝を出さないのが特徴で、花をつけるようになるのは20年を過ぎてから。寿命は短いが、萌芽によって寿命を延ばす戦略も併せ持っている。これは、小さな群落をつくり、ギャップで更新するタイプの樹木に適した戦略である。1億年も生きてきたホオノキのように、針葉樹と広葉樹の多種多様な進化が森の多様性を生み出した。 
  • 樹皮・・・灰白色で、ツブツブした皮目が見られる。根元から幹が枝分かれして株立ちすることが多い。 
  • 「コウボク(厚朴)」・・・夏にホオノキの皮を剥がして乾燥させたものを「コウボク(厚朴)」と呼び、古くから漢方薬として、腹痛、脹満、喘咳に用いられる。生薬原料の成木になるには20年から30年程度を要する。
  • 菅江真澄「駒形日記」(1814年8月19日)・・・檜山(雄勝郡東成瀬村)の高橋の家を出て、朴木台(ほおのきたい)という萱原をはるばると行った。むかしこのあたりはみな陸奥の国であって、柿本人麻呂の「みちのくの栗駒山の朴木の枕はあれど君が手枕」とよんだ朴木も、ここから産したのであろう。だから栗駒山の麓に、このような朴木台の地名もあるのだろうか。ある医師が言うには、中国から渡来した厚朴に似た薬になる木がここにある。同じ朴木の種類であるが他所の朴木と違い、この駒岳(栗駒山)でなければない朴木だと言っていた。そのようなわけで古くから、この木皮を採って薬とし、幹では木枕をつくって献上したのだろうか。
  • ホオノキの黄葉・・・秋、ホオノキは黄色から褐色に色づく。
  • 材の特徴・・・辺材はは幅が比較的狭く灰白色を呈し、心材はくすんだ灰緑色をしている。辺材と心材の境界がハッキリしているので、分かりやすい。狂いが少なく、軽軟で加工が容易。乾燥も容易で仕上げは良好。
  • 用途・・・金属に触れても錆が出ず、材が軟らかいので刃物を傷めず、ニワカウルシの付着が良いので、昔から刀剣や槍の梢材に欠かせなかった。「朴炭」は、漆器の最終仕上げの研磨や金属、石類の細工研磨に最適である。その他、漆器、下駄の歯、草刈り鎌、鍬の柄、炬燵やぐらなど。
  • 鍬の柄・・・種まきや除草などの軽作業に使う鍬の柄は、軽い材のホオノキやキハダ、ブナなどの柾に製材したものを、大工に丸い柄に仕上げてもらって使った。
  • 草刈り鎌・・・薄刃で柄は軽い材が良い。ホオノキやヤナギ、ヒノキ、ウワミズザクラなどの幼木や枝が主として用いられた。
  • 炬燵やぐら・・・四六時中火にあぶられてもささくれ立たず、手触りの良いことが条件である。この条件を満たす最高の木はホオノキ。次いでサワグルミ、オニグルミ、コシアブラなど。
参 考 文 献 
  • 「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
  • 「葉っぱで見分け 五感で楽しむ 樹木図鑑」(ナツメ社)
  • 「里山の花木ハンドブック」(多田多恵子、NHK出版)
  • 「樹木 見分けのポイント図鑑」(講談社)
  • 「読む植物図鑑」(川尻秀樹、全国林業改良普及協会)
  • 「樹木観察ハンドブック 山歩き編」(松倉一夫、JTBパブリッシング)
  • 「樹木の個性と生き残り戦略」(渡辺一夫、築地書館)
  • 「講談社ネイチャー図鑑 樹木」(菱山忠三郎、講談社)
  • 「樹は語る」(清和研二、築地書館)
  • 「野鳥と木の実と庭づくり」(叶内拓哉、文一総合出版)
  • 「あきた風土民俗考」(齊藤壽胤、秋田魁新報社
  • 「田代の行事食」(田代婦人部、平成6年3月4日)
  • 「秋田農村歳時記」(ぬめひろし外、秋田文化出版社)
  • 「菅江真澄遊覧記5」(内田武志・宮本常一編訳、平凡社)