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樹木シリーズ148 ハナイカダ

  • 葉の上に花が咲き実がつくハナイカダ(花筏、ミズキ科)

     優雅な「花筏」という名前のとおり、葉の真ん中に花や実がのっている、何とも不思議な落葉低木。スギなどの針葉樹主体の林内で、特に沢が近くにある湿潤な場所を好む。幾分木漏れ日が射し込む辺りにまばらに自生する。若葉は、古くからリョウブなどとともに重要な救荒食、山菜として利用されてきた。また葉と果実は下痢止め、根は咳止めに用いられたほか、茶花にも利用される。雌雄異株。北海道西南部から本州、四国、九州に広く分布。
  • 見分け方・・・花や実が乗っている時季は、簡単に見分けられる。しかし、葉だけの頃は、どうやって見分けるか。答えは葉の主脈。主脈は基部から中央まで特に太い。恐らくハナイカダの祖先は、葉の脇から花の柄を出していたが、その柄が葉の真ん中まで主脈とくっついてしまったのであろう。 
  • なぜ葉の上に花が咲くのだろうか?(参考:ハナイカダ | NHK for School)・・・こんなに目立たない花でも昆虫がやってくる。そんな中、花粉を運ぶ主役はアリだという。アリはハチ類のように飛ぶことができないが、花が葉の上にあると、アリが歩きやすく、蜜を吸う時に足が支えられるのでなめやすい。こうしてアリに花粉を運んでもらうために、花の柄が主脈と合体・進化したと考えられている。そのお陰で雌花は、しばらくすると小さな実が膨らんでくる。(画像出典:ウィキメディア・コモンズ
  • 名前の由来・・・葉を川を下る筏(いかだ)に、その上に乗る花や実を筏を操る船頭に見立てて、「花筏」と書く。別名ママコ、ヨメノナミダ、ツツデ、オトコジンなどと呼ばれる。 
  • 別名ママコ・・・昔から若葉を菜飯にしたことから、「飯子(ママコ)」。他に葉の上についた花や実を飯粒に見立てたとの説もある。
  • 別名ヨメノナミダ・・・昔、若い嫁が殿様の使いから「葉に実のなる木を見つけてこい」と命ぜられた。夜遅くまで探したが見つからず、思わず流した悔し涙が、葉の上に落ち、それが月光に黒真珠のように輝いた。それがハナイカダの果実になったという説話から、「嫁の涙」と呼ばれるようになったという。 
  • 花期・・・5~6月、高さ1~2m 
  • 生育地・・・スギなどの針葉樹主体の林内で、湿気の多い半日陰地に、株立ち状に生える。 
  • ・・・葉の表面は光沢があり、主脈は基部から花(実)の位置まで太い。花の柄と主脈が合体したことから、不思議な花筏のようになった。側脈は葉先に方へ弧を描いて伸び、糸状で柔らかい鋸歯がある。(出典:ウィキメディア・コモンズ
  • ・・・雌雄異株。主脈の中央付近に淡い緑色の小さな花を咲かせる。雄花は数個が集まってつき、雄しべは4個。雌花は通常1個だが、稀に2~3個つく。雌しべは1個で、柱頭は4裂する。 
  • 果実・・・直径7~9mmの球形で黒く熟し、甘酸っぱくジューシーで食べられる。葉の上に、黒く熟した実が並ぶと、よく目立つ。それは緑の皿の上にごちそうが盛られているのと同じで、鳥たちも好んで食べる。このハナイカダの巧妙な戦略には脱帽だ。(出典:ウィキメディア・コモンズ
  • 若葉は山菜・・・春先の芽出しの頃、まだすぼまり気味に展開した若葉を利用する。おひたしや佃煮、炒め物、天ぷらが定番。葉を茹でたり蒸したりすると、マツタケの香りがするといって、炊き込みご飯にする地域もあるという。 
  • 薬効・・・葉や果実は下痢止め、根は咳止めに用いた。中国では、滋養強壮、止血、下痢、健胃に用いた例がある。
  • 花筏置きざりに川流れゆく きくちつねこ
  • 本流の脇によどみて花筏 原田町子
  • 落ちてすぐ大河をめざす花筏 小島とよ子 
参 考 文 献
  • 「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
  • 「葉っぱで見分け 五感で楽しむ 樹木図鑑」(ナツメ社)
  • 「里山の花木ハンドブック」(多田多恵子、NHK出版)
  • 「樹木図鑑」(鈴木庸夫、日本文芸社)
  • 「樹木 見分けのポイント図鑑」(講談社)
  • 「秋田の山野草Ⅱ300選」(秋田花の会)
  • 「続・読む植物図鑑」(川尻秀樹、全国林業改良普及協会)
  • 「講談社ネイチャー図鑑 樹木」(菱山忠三郎、講談社)
  • 「山から海まで完全実食 日本の山菜100」(加藤真也、栃の葉書房)