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〈W杯を楽しむ〉小田嶋隆・塀内夏子・湯浅健二・高岡英夫

2010年6月11日10時54分

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写真:小田嶋隆さん小田嶋隆さん

写真:湯浅健二さん湯浅健二さん

●「剣豪小説」報道を抜け出せ――コラムニスト・小田嶋隆

 日本のスポーツ報道は、剣豪小説だ。人間対人間の戦いの延長に、チームの勝敗があるのが基本になっている。だから、スポーツ紙の見出しは人名を中心に作られ、スターにスポットを当ててドラマを展開する。私はこれを日本のスポーツ報道の「スターシステム」と呼ぶ。

 投手と打者が1対1で対戦する野球では、この形式は有効にはたらく。しかし11人が連携して動き、攻守が瞬時に入れ替わるサッカーを語るには適当ではない。今大会の日本代表はスター不在で魅力がないと言われているとしても、それはスター不在のチームの描き方が分からないからだ。タレントを呼んだり、イケメン選手を追いかけたりといった本筋と関係ないサッカーの取り上げ方もみられる。「スター不在」は、スターシステムが招いた嘆きに過ぎない。

 メディアと一緒に嘆いても仕方ない。W杯を、サッカーの観戦眼を鍛える絶好の機会ととらえたい。別に難しいことじゃない。今大会では、一つの試合を熟練のカメラマンが操る30台ものカメラでとらえる。サッカーを熟知したディレクターが映像を切り替えていく。ボールばかりを追いかけるのではなく、例えばパスが出るタイミングで、カメラを引いてサイドを駆け上がるFWを画面に入れてくれる。いやおうなく、パスのコースや試合の流れの背後まで教えてくれる。

 経験を積むと分かることが、観客にもある。野球中継で打球が右翼線方向に飛べば、打球が映っていなくても二塁打だと分かる。一塁走者は生還できるか、と考えを巡らせる。これは野球を見る経験を積んだからだ。サッカーの見方が分かるようになれば、スターがいなくても、日本戦でなくても、十分楽しめる。

 ◇おだじま・たかし 1956年生まれ。著書にサッカーに関するコラムを集めた「サッカーの上の雲」がある。パソコンやメディア、憲法、学歴など政治、社会に関する評論活動も。

●嫌なヤツってステキ――漫画家・塀内夏子

 嫌なヤツって魅力的だ。友達にはなりたくないけど、いざというときに頼もしいヤツ。シンプルでタフなエゴイスト。サッカー選手で言えば、シュートを打ちたいから打つという考え。手で相手を押しのけても突進するタフさ。失敗してもおれは悪くないと言い放つ傲岸(ごうがん)さを持っている。

 今、青年誌に連載している架空の日本代表を描いた漫画の主人公に、そんな私の理想を託した。ミスをして、チームメートにあきれられても、サポーターやメディアにたたかれても謝罪も反省も後悔もしないで、また突っ込んでいく。元フランス代表で「キング」と呼ばれたエリック・カントナをイメージした。カッとなって粗暴に振る舞い、しばしば処分を受けた。賛否はあろうが、そのぐらい熱い男でなきゃゴール前の激戦を抜け出すことなんかできない。

 和をもって貴しとなす日本人だが、実はみんなそんなヒーローを求めているのではないか。編集長からは「読者が拒絶反応を示すような、もっと嫌なヤツを描いて」と言われている。

 かつて三浦カズは「おれにパスを寄越せ」と、すべてを自分中心に動かすような存在感があった。中田ヒデも「おれのパスに合わせろ」と試合を支配した。彼らのプレーを見ているだけでワクワクした。ヒデとカズの全盛期は、現実の試合がおもしろくて漫画のテーマが見つからなかった。「だらしないぞ」という代表への怒りが今回の連載を始めるきっかけになった。

 しかし、現実に日本でエゴイストは育ちにくい。であれば、せめてピッチの中だけでいい。エゴイストになる魔法にかかってほしい。魔法の力で相手も味方もけ散らすようにゴールへ突進する、嫌なヤツの姿を見たい。

 ◇へいうち・なつこ 高校在学中にデビュー。スポーツ漫画の第一人者。ヤングマガジンで架空の日本代表を描いた「コラソン サッカー魂」を連載中。4日に単行本第1巻が発売された。

●リスクは取りにいけ――サッカージャーナリスト・湯浅健二

 リスクを恐れるな――。全国のサッカーチームの指導者は、選手にそう声をかけているに違いない。サッカーは不規則に動くボールを、足という、意のままに動かしにくい部位で操る。極めて不確実な、ミス満載のスポーツだ。リスクを恐れ、高い確率を追い求めていたらシュートなんか打てない。

 1976年、コーチ資格取得のためドイツ留学した24歳の私は当然、そんなことは分かっていた。しかし、現地でこんな経験をした。

 練習試合でチームメートがドリブルで走り込んできた。私の前方に空間があった。私は駆け上がってシュートに備えるべきだった。しかし、そうしなかった。チームメートは「なぜ走らない!」と激怒し、コーチは「無責任だ」と非難した。ミスはしていない。でも怒られた。釈然としなかったが、確かに私の頭にはシュートミスへの恐怖があった。リスクを恐れない、ということの真の意味を体感できた場面だった。

 日本では、リスクを取らない責任までは問われないだろう。むしろ指導者は、積極的な失敗でも「何で外すんだ」としかり、「蛮勇はだめだ」とたしなめる。リスクを恐れるなと選手に指導しながら、結果を言いつのって選手を責める。そんな姿勢が見えた瞬間、だれもリスクを取らなくなる。

 岡田監督は、5月の代表発表の会見で「全員でハードワークするサッカー」を選手に求めると述べた。これは全力で積極的にリスクを取りに行けという意味だ。彼自身もメディアやサポーターにたたかれながらも、リスク回避のサッカーからの脱皮にチャレンジしている。結果ではなく、取ろうとしたリスクの大きさを思いながら日本代表の動きを見るのも興味深い。

 ◇ゆあさ・けんじ 1952年生まれ。元読売サッカークラブ(現東京ヴェルディ)のコーチとして日本リーグ、天皇杯優勝を経験。著書に「サッカー戦術の仕組み」など。

●見返り美人の立ち姿――運動科学者・高岡英夫

 日本舞踊家の故武原はんさんは着物のすそを乱さず、実に美しく、ささっと歩いた。太ももの裏の筋肉「ハムストリングス」の推進力を使っていた。前ももの筋肉を使ってひざを上げると、すそがはだけてしまうからだ。

 実はこれこそ、サッカー選手の理想の姿だ。大腿(だいたい)部の前の筋肉は立ち止まったり、踏ん張ったりするためのブレーキ筋。裏は素早く走るためのアクセル筋。前が発達しすぎるとブレーキをかけながら走っているような状態になり、爆発的な突進力は生まれない。ポルトガルのロナウド、アルゼンチンのメッシ、ブラジルのカカといった選手を見れば、前ももは意外にすっきりしている。腰椎(ようつい)から腰の内へ伸びる大腰筋(だいようきん)とハムストリングスを連動させて、体幹に軸を作り、とてつもない突進力を生み出している。

 しかし、日本ではムキムキの前もも筋とひざの屈伸力を使う選手が少なくない。子どものころから緊張してプレーする習慣によると私は考える。大人があれこれ指導する環境でプレーすると、怒られないようにと自然にブレーキ筋が働き、動きが小さくなる。あるいは必要以上に頑張りを要求され、力みがブレーキ筋を働かせる。スポーツは緊張することだと体が覚えてしまうのだ。

 前ももと、ひざを使いすぎる選手は、ひざが折れて、立ち姿が「く」の字になる。切手でおなじみの「見返り美人図」は体の力を抜いて、天に向かってくたっと立つ。美しい立ち姿だ。腰内の大腰筋とハムストリングスを連動させて体の中心に軸を作る海外の名選手と同じ体の使い方。立つことは歩く基本、歩きは走る基本。W杯では立ち姿、走る姿の美しい選手に注目してみるのも楽しい。

 ◇たかおか・ひでお 運動科学総合研究所所長。独自の身体理論「ゆる理論」をもとにアスリートを指導、実績を上げている。共著「ワールドクラスになるためのサッカートレーニング」がある。

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得点ランキング

  1. 1位 (総得点5)
    選手名
    フォルラン (ウルグアイ・31歳 内訳:左足1、右足4、ヘディング0)
    スナイデル (オランダ・26歳 内訳:左足1、右足3、ヘディング1)
    ビリャ (スペイン・28歳 内訳:左足1、右足4、ヘディング0)
    ミュラー (ドイツ・20歳 内訳:左足0、右足4、ヘディング1)
  2. 5位 (総得点4)
    選手名
    クローゼ (ドイツ・32歳 内訳:左足0、右足3、ヘディング1)
    イグアイン (アルゼンチン・22歳 内訳:左足2、右足0、ヘディング2)
    ビテク (スロバキア・28歳 内訳:左足0、右足3、ヘディング1)

7月11日現在

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