朝日新聞デジタル：農業編／（２）江戸期から根付く伝統野菜 - 東京

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東京１５０年

農業編／（２）江戸期から根付く伝統野菜

早稲田ミョウガを収穫する井之口喜實夫さん。株の根元を掘り、赤く色づきふっくらしたつぼみを丁寧に摘んだ＝２日、練馬区高野台３丁目

ビニールハウスで農家と品川カブを収穫する大塚好雄さん（右から２人目）＝１７日、東久留米市

キャベツやダイコン、ネギを栽培する畑の一角で、青々とした細長い葉が秋風に揺れる。７年前から作っている早稲田ミョウガだ。株の根元を掘ると赤く色づいたつぼみが姿を見せ、強い香りが立ちのぼってきた。

　「赤みが強く、大ぶりのものができて満足。遮光など手間をかけたからね」

　１０月初め、収穫した練馬区の井之口喜實夫（きみお）さん（７０）はうれしそうに話した。早稲田ミョウガは鮮やかな赤色と丸みを帯びた形が特徴。苦みが少なくやさしい香味は江戸時代に庶民に好まれたという。

　「江戸時代から大正時代にかけて今の新宿区の早稲田大学周辺はミョウガの一大産地。東京に根付いてきた『江戸東京野菜』の一つです」。江戸東京・伝統野菜研究会代表の大竹道茂さん（７４）が教えてくれた。

　江戸東京野菜の調査と普及に取り組む大竹さんは２０１０年、自生する早稲田ミョウガを探し出そうと早稲田大の学生と捜索隊を結成した。かつてミョウガを作っていた井之口さんも加わって大学周辺を探し歩き、民家の庭先にひっそりと生えているのを発見。井之口さんが栽培を引き受けた。茎をやわらかく育てる「ミョウガタケ」も作っており、秋のミョウガと春のミョウガタケは、新宿区立の学校で給食に出されている。

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　練馬ダイコン、馬込三寸ニンジン、滝野川ゴボウ、内藤カボチャ、千住一本ネギ――。これらの江戸東京野菜は、もともと江戸にあった地野菜とともに、参勤交代で諸国から集まった武士たちが地元から持参した野菜の種を市中で栽培し、品種の改良を経て「江戸の野菜」として定着させたものだ。１９６０年前後まで都内や近郊で盛んに作られてきた。

　大竹さんはＪＡ東京中央会に在職時、江戸・東京ゆかりの野菜と花を紹介した本を出版したり、その土地の伝統野菜の説明板を立てたりするうちに、江戸東京野菜の掘り起こしに取り組むようになった。「同じサイズの画一化した野菜が大量流通するのに違和感を持った。都内の農地で数世代にわたって栽培されてきた固定種の野菜が残っていて、それぞれ歴史や由来などの物語がある」。ＪＡ東京中央会により登録された江戸東京野菜は、現在４８品目に上る。

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　「葉が太く大きく育ったな。いまの時期にしては上出来だ」

　１７日、東久留米市のビニールハウス。ふっくらした土から伸びる品川カブを見てそうつぶやいたのは、北品川本通り商店会（品川区）で青果商を営む大塚好雄さん（７０）。２０センチほどの細長い根とその２、３倍ある大きな葉が特徴のカブが江戸時代、品川一帯で漬物用に作られていた。そんな由来を知った地元商店街の店主らは、その品川カブをまちおこしの材料にしている。

　商店街近くの品川神社に地元伝統野菜の説明板が立ったのがきっかけだ。大塚さんは、品川の名が付いた野菜があったと初めて知り、「皆で育てたり食べたりすることができれば話題になるのでは」と考えた。

　２００４年、商店主や住人ら有志が集まり、品川ゆかりのカブを探そうと活動開始。大竹さんも加わって調べると小平市の農家で作られていることがわかり、種を分けてもらった。

　まずは子どもにと、品川区内の小学校などに働きかけ、品川カブについて学び、栽培する機会をつくった。いま、約３０の小学校が種をまいて育てている。

　品川カブの商品化にも挑戦した。スイーツを開発したり、ラーメンの具材にしたりと工夫を凝らす。毎年１２月下旬には、学校や地域の人たちが収穫した品川カブを持ち寄る収穫祭を開き、品川カブが入った「品川汁」を味わう。「江戸の人は旬の味覚を楽しむことを大事にした。江戸東京野菜がそんな思いを抱かせるきっかけになれば」。大塚さんは期待を込めて言った。

（山田知英）

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