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2012年04月03日
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才の国

俳優 勝村政信さん(48)

写真: 拡大

写真:「シンベリン」で熱のこもった稽古をする勝村さん=渡部孝弘氏撮影 拡大「シンベリン」で熱のこもった稽古をする勝村さん=渡部孝弘氏撮影

◇理想の演技求め常に壁高く

 自在な動きと歯切れよいせりふ回し。どんな役でも鮮やかな演技を見せる俳優、勝村政信さん(48)。10代のころは演劇への関心は皆無だった。

 「サッカーばかりやってきたが、選手で食べていけるようにはなれなかった。高校卒業後、スポーツ用品の問屋で2年近く働いた。ある日、自分の席から部長の席を見て、『あそこまで20年かかるのか』と。先のことも考えず会社を辞めた」

 「突然、芝居がやりたくなって無名塾や文学座を受けた。いいところまで行ったが、ダメだった。仲が良かった芝居好きな女の子に『就職しようかな』と話したら、『こんな劇団があるよ』と教えてくれたのが、蜷川さんのところだった」

◇若いときは毎日懸命/鴻上さんから演技的身体学び、演劇的頭脳は蜷川さんから

 1985年、演出家の蜷川幸雄さんが主宰していた「ニナガワ・スタジオ」のオーディションに合格。俳優として受けたのに、初めての公演では裏方に回された。

 「芝居のことは何も知らないまま。蜷川さんのことも、そのころCMに出ていたので『ケロッグのおじさんだ』なんて眺めていた。先輩の会話に出てくる評論家の名前を頼りに、神保町の古本屋で2冊買ったのが初めての演劇書。少しずつ買っては読みあさり、今は家に数千冊ある」

 「若いときは毎日一生懸命だった。あのころの蜷川さんの芝居はいつも平幹二朗さんが主役。その舞台を見ては夜中に稽古場へ戻り、平さんのせりふを大声でまねした。『オイディプス王』の冒頭なんて、今でもしゃべれますよ」

 女子大生劇団として知られた「自転車キンクリート」にも客演し、80年代の小劇場演劇で注目される存在に。劇作家の鴻上尚史さんが主宰する人気劇団「第三舞台」に入り、一躍スター俳優になった。

 「鴻上さんは、エンターテインメントは時代の最先端の表現を見せるものだと考えていた。過剰に動き回り、マシンガンのようにしゃべる。それを観客に美しく見せる。そんな演技を、ノイローゼになるぐらい何度も怒られて教わった。鴻上さんから演劇的身体を学び、演劇的頭脳は蜷川さんにいただいた」

◇責任持ち舞台で遊ぶ

 ドラマや映画、バラエティー番組などにも活躍の場を広げた。根っこには、舞台俳優として培った多彩な演技術と表現力がある。

 「俳優は自分自身の人生だけを生きることができない、数少ない職業。舞台俳優の仕事は、その魅力や価値を観客に伝えてもらうしかない。だからこそ役のキャラクターが生き生きと呼吸しているように演じたい。まじめにうまく演じるのは実は簡単だが、小劇場から出てきた僕らぐらいは『責任持って舞台で遊ぼうよ』と考えている」

 「この仕事は壁だらけでもある。俳優同士でも『演技に正解はない。不安は一生続くんだろうな』なんて話ばかり。もうすぐ16歳になる娘にも、よく言っている。『何事でも一生懸命やれ。そうすれば鍵を獲得できる』『その鍵がどの扉のものか分からなくても、鍵さえあればいつか開く扉が見つかる』と。僕にとっての鍵とは、舞台に上がるための最低限の技術のことだろうか」

 母校の県立浦和北高校にほど近い彩の国さいたま芸術劇場(さいたま市中央区)で、2日に開幕したシェークスピア劇「シンベリン」に出演している。

 「サッカー部の合宿で通った銭湯もすぐそこ。当時は寂しいところで、劇場ができるなんて想像もしなかった。昔の友達が大勢見に来てくれるのがうれしく、恥ずかしい。シェークスピア劇は、華麗な修飾語をどうコントロールして表現するかが、役者としての面白さだ」

 「シンベリン」は五輪関連の記念フェスティバルに招かれ、初夏にロンドン公演も決まっている。演出の蜷川さんは「ここぞ」という公演には、勝村さんを起用してきた。

 「昔は稽古場であまりしゃべらなかった。けれど、最近は共演者をリラックスさせるため、蜷川さんにあえて文句を言うこともある。演出家の芝居作りがあまりにも絵画的なときは、美しさを少し壊すような動きをつけることも。全員でいいことを増やし、悪いことを減らすのが稽古場の作業だから」

 「俳優とは何かが欠落しているから、それを補おうとする力でどうにか踏ん張っていられる存在なんだと思う。理想の演技の壁は、相変わらず高いままだ。一瞬だけ目標に近づくけれど、またすぐに遠ざかっていく……」

◇心技体備えた名手

 取材前に「シンベリン」の稽古を見学させてもらった。阿部寛さん、大竹しのぶさん、鳳蘭さんら豪華な共演者とともに、ユーモアを交えて天衣無縫に演じる勝村さんの姿は、まさに演劇界のファンタジスタ。

 インタビューではじっくり言葉を選びつつ、演技と舞台へのこだわりを哲学的に語る姿が印象的だった。心技体を兼ね備えた名手の技を、ぜひ劇場で確かめてほしい。(藤谷浩二)

◇かつむら・まさのぶ 1963年、蕨市出身。県立浦和北高校卒。87年に劇団第三舞台に入団し、人気俳優に。92年に退団後はテレビ番組でも活躍。舞台「シンベリン」の埼玉公演は21日まで。NHKEテレ「テレビでドイツ語」にレギュラー出演している。

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