朝日新聞デジタル：かずら橋＠福井 - 福井

北陸たからもの

かずら橋＠福井

川面から１２メートルの高さのかずら橋。渓谷の自然に溶け込んでいる＝２０２０年８月、福井県池田町

　清流のせせらぎに時折、かわいい悲鳴が混じる。「揺らさないでパパっ。人生おしまいかも！」と小２の男の子。「絶対にムリ」と泣いて父親にしがみつく女の子も。
　福井県池田町にある「かずら橋」は、足羽（あすわ）川に架かる全長４４メートルの吊（つ）り橋だ。シラクチカズラというツル植物に覆われ、周囲の渓谷美に溶け込んでいる。高さは１２メートル。１人で渡ってもゆさゆさ揺れる。大人でも高い所が苦手な人（筆者も！）にはスリル満点。渡り切るとホッと笑顔になる。
　完成は１９９０年。地区のリゾート開発事業を進めた町が、観光の目玉にしようと計画した。実は７７年発行の町史にこんな記述がある。
　〈地名にカヅラ谷、カヅラ平がある。昔はここへ渡る為にカヅラ橋を利用したからだという。今も尚このカヅラ橋が残ろうなら、四国の祖谷（いや）にも似て池田カヅラ橋で、評判となっただろう〉
　町には平家の落人伝説も残る。追っ手が来たら、橋を落とす――。かずら橋の由来にはそんな想像も膨らむ。
　橋は手すりの芯などになるワイヤを何本も張り、カズラを巻く。カズラは年々劣化するので５年に１度は補修し、１０年ごとに全部巻き直す。今年３月に３度目の全面リニューアルを終えたばかりだ。
　「職人の腕も上がって、これまでで一番の仕上がり」と胸を張るのは作業を請け負う上屋敷工業（福井市）の上屋敷淳三社長（７４）だ。今回は直径１０～４０ミリのカズラを計６５００メートル使った。太さの違うツルを組み合わせて巻く。架橋の際、二つのかずら橋が並ぶ徳島県三好市の東祖谷に足を運び、学んだ職人技だ。ただカズラは池田町内にほとんどなく、社長の出身地の和歌山県の山で採取している。
　取材した日、意を決して橋を渡った。そろりと歩を進めると、５～１０センチほどある床板のすき間から真下の流れが見え、怖さが倍加する。元々は床板を敷き詰める設計だったが、完成直前に下見で途中まで渡った当時の町長が、すき間をあけるよう指示したという。「鶴の一声で、よりスリルが味わえる橋になった」と上屋敷社長は振り返る。
　橋はいま、「恋愛のパワースポット」としても人気だ。カップルなどがハラハラドキドキを一緒に体験すると、絆が強まる。そんな「吊り橋効果」が期待できるというわけだ。二つの流れが合流するのが橋から見えるのも縁起がいいとして、橋を管理する一般財団法人池田屋は「橋の上で愛を誓うと永遠に幸せになれる」とＰＲしている。
　地域おこし協力隊として２０１５年に東京から町に移住し、現在は農村体験宿泊施設ファームハウス・コムニタで働く笠原辰徳さん（３２）は御利益にあずかった１人だ。１６年夏、橋をライトアップしたイベントの会場で、すでに同居していた理紗さん（３１）に「これからも僕と暮らしてください」とプロポーズし、大成功。見守っていた職場仲間や来場者に祝福された。
　「ロマンチックな思い出です。かずら橋を渡って、幸せになるカップルがたくさん誕生してほしい」。３人の子宝にも恵まれた笠原さんはそう願っている。
　（佐藤孝之）

　◆かずら橋　福井県池田町土合皿尾。通行は午前９時～午後４時半、高校生以上３００円、小中学生２００円。冬季は閉鎖。足羽川沿いに全長約４キロの自然遊歩道もある。橋のリニューアルを記念して、インスタグラムでの「かずら橋フォトコンテスト」を開催中。「私のかずら橋」とカップルを写した「恋結ぶかずら橋」の２部門で投稿を募っている（１１月３０日まで）。詳細は特設サイトに掲載。

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