2001年10月26日   第5回イブニングセミナーの様子

開催日:2001年10月26日(金)17:00〜19:00
開 場:福岡大学工学部11号館2階A会議室
講 師:青木 茂氏(青木茂建築工房)
セミナーの様子:
 

今回のイブニングセミナーでは、青木茂氏を講師にお招きし、リファイン建築とその実施例などについてお話頂きました。参加者は51名でした。
以下は、講演の大要です。なお、講演録の作成には野本和範君の協力を得ました。




(1)はじめに
若いうちは苦労したほうがよい。若いときは少林寺拳法に夢中であった。まともに建築をやりだしたのは30歳になってから。20年前、新建築のツアー(ヨーロッパ建築見学旅行)で、当時若手のホープの安藤忠雄と出会った。私は少林寺拳法、彼はボクシングをやっていたせいかとても気が合った。彼からは「お前はアホや」などと言われた。

(2)ヨーロッパでは…
・オルセー美術館
セーヌ川そば、古いものと新しいものの対比、プラットホーム跡など、鉄骨の門のプロポーションがよい。建物の中にいてどこにいたかが外から見て分かる、ということが重要なことなのでは。カフェが気に入っている。
・カステルベッキオ美術館(カルロ・スカルパ)
ロミオとジュリエットの舞台で有名、ヴェローナにある。ある一つの空間に少し手を加えることですばらしい空間をつくることを体感した。それをやってみたい。階段状のディテールが上手い、精密機械のような建築をつくっている。どこまでが古くてどこまでが新しいのか分からなくしているのがエレガントでオリエンタルな感じ、逆に驚きでもあった。古いものと新しいものの対比をやっている。
・ショーの王立製塩工場
円型の求心性のあるもの、残った部分と新しくつくったものの対比。

(3)実作
・鶴見町旧海軍防備衛所跡地資料館
最初の仕事、今ではもっと単純にしたら良かったと思っている。トップライトつける、色漆喰、左官仕上げ、ガラスを入れるなどを施した。工事費1400万、設計料80万の超ローコストで出来ている。
・緒方町庁舎
改装のコンペ、部分的に増築、20年後の市の状況に対応できるように考えた。古い部分の耐震補強を勧められたがしていない。人口の推移を見て増築するか決める、時間軸を見る。環境建築賞をもらった。
・宇目町庁舎
庁舎の建て替え、これを争う町長選挙があった。森林宿泊センター(旅館、築24年)から役所(事務所)へ、用途変更+増築をやった。用途が変わると積載荷重が平米100kgぐらい違う、建築基準法には適合しなくなる。そこで自重を徹底的に取ったらどうなるのか、間仕切、腰壁を撤去して20%ほど軽くした。その結果、耐震的に有利になった。既存の柱と梁をケミカルアンカーを打って鉄筋を溶接して繋ぐ、伸縮モルタルで一体化する、耐震ブレース、建物のズレ、えらい苦労した。既存の建物には荷重をかけず、ジョイントが建築的には離れている。エレベータはシースルーになっているが外は見れない、騙されたと言われるが苦肉の策。波板は残響が出てしまった。ブレースは力の流れが分かって安心感があるのではないかと思う。環境型の建築である。
細かいところは現場で処理する。

・野津原町多世代交流プラザ
耐震ブレースとケミカルアンカーによる補強と増築。空気層による断熱。木のルーバー。ルーバー状の屋根。夏至のとき壁の半分まで影がかかる、これとブラインドの組み合わせとなっている。以前何に使っていたか分からないので解体に神経を使う。天井を二重張りにして空気層による断熱を施している。

・八女市多世代交流館
和風でやろうとなった。自分の考えつかなかった所員の案はたいていオッケーする。
20%の解体に対するシミュレーションであったが、34%軽くなって10%戻した。その結果補強が楽になった。解体して鉄骨を建てるまで、だいたい1ヶ月から40日ぐらい。工期の短縮になる。しかし解体したら驚くべき手抜き工事が明らかになってくる。柱とかが悪いとカーボン(炭素繊維)を巻いて補強する。ホールの一部にコンクリートのガラをしいた。本当はお金が無いから玉石がわりなのだが、古い建物を使っている記憶という部分で、現代アートみたいな要素がある。市側は不満な感じであったが、芸工大の土井先生がコンクリートのガラがスバラシイと書いたら、市の人もスバラシイと言うようになった。権威に弱いなぁ…。植裁、桜と苺畑がある、お年寄りに快適な建築になっている。カラオケルームには和紙を張って裏に照明をしこんである。2階に児童図書館、床に空調がある、パイプ1本で1階と2階の両方を兼ねている。外部を覆っているので、気象に影響されない。理論的には永遠不滅の建築になる。


(4)プロジェクトの話
・旧長崎水族館計画
今は長崎総合科学大学の所有となっている。保存運動が盛り上がっている。建築再生デザイン会議にも関係していた。「データがあったら再生計画をたてる」と言っていたらその日のうちに資料が届けられた。原設計は武基雄。アプローチと石がいい、ホールが空間的にいい。長崎に原爆を落とされて、そこからがんばろうという建築ではないか、と感じた。総科大の歴史の林先生は値打が無いと言っていたが、作ったエネルギーを感じとることが重要ではないか。そこで、やはり軽くして耐震補強をする。室内は暗いからトップライトを設ける。内部にいながら外部に近い、増築にも備える、ガラス張りの箱をつけられるようにしている。予算として5億かかるところを4億ぐらいでできる。しかし、いらんことするなと怒られた。こういう保存問題は労多くして敵をつくるなぁと実感した。

・三野原病院計画
新しい建物の計画では床が余る。そこで余った部分を外部にする。そうすれば光が入ってくる。かつ各フロアに植裁を置く。各フロアごとにお年寄りが車椅子で家庭菜園を持つということもできる。今から建物は余ってくる、要らないからと解体するのではなく、要らなくなったところをどう使うかを提案したい。家庭菜園で作ったものが外部に出てきて、自分の家がどこなのかが外から見て分かる。作っている人がファサードを形成している。
でもやっぱり院長におこられて一円の得にもならなかった。
・八女市室岡公民館
八女のお宮のそばにある保育所を公民館に変えられないか、と持ちかけられた。一つは和風、一つはガラス張りを提案した。リファイン建築といえどもガラス張りばかりでなく和風もできる、ということを示したかった。4年か5年たったら出来上がる、という気の長い話。あまり意匠に関係なくできるという一例。
・蒲江町保育園計画
青木氏が生まれ育った地域の中学校が廃校になって小学校が中学校に移転し、小学校が余った。その体育館をなんとか保育園に使えないか…ということ。屋根は掛かっているけれど外部、一部はガラスで覆う。余った床をどうするか、余ったワンスパンを切るというわけにはいかないから、地域で有効利用。自分では気に入っている。

・集合住宅計画

一つは小笹、バラバラのスケルトンにしてやっている。もう一つは、住みながら補強をする方法を提案している。耐震補強がイッキに出来ないから、一つ一つ炭素繊維によって5年から10年かけてやろうとしている。ワンベッドルームなのかツーベッドルームなのかを考慮して、縦長の空間のプランを決めてやっていこう、という提案。

(5)ここからは質問を聞こうと思う…リファインはここまで
太記:実際に建物を解体していく時にかなり綿密な作業になると思うが、業者的にはどういうところに依頼しているのか?

青木:一般的な業者、綿密に墨だしをし、全部カッターをいれる。神経質に言わないといけない、めんどうくさいからだろう。(3階建てだとそれぞれのスラブがズレていて)4次元になってしまう。だから今では外側にH鋼を建てて(スラブを)隠してしまう。

太記:解体の時、施工性能の問題があって、経年変化による変形があって、解体の時の精度の問題があって、あまり期待どおりにはいかない?

青木:いかない。ウチのスタッフが常駐している。かなり神経質。リファイン建築は半額になると言っているが、リファインだけだったら単純に言うと1/3しか安くならない。構造が1/3、仕上げが1/3、設備が1/3。解体が20%ぐらいなのだが、手間がかかるから予算の半分を使ってしまう。建築を作るシステムをどうするかというところの操作が一番面白い。補強に使うカーボンは優秀だが、平米あたり5万円もする。材料費よりはるかに高い、
使っている企業は元々防水工事をやっていた会社で、次にコンクリートのクラックの補修をやる会社を始めて、そのあとに炭素繊維を巻くという会社をやっている。3つの分野を持っている。そこの社長に相談をした。5万は高い、だから使えん。あんたの所も(炭素繊維を)使いたいやろ。今から僕がやる仕事は全部あんたにやる、おまけに防水の仕事もやらせる、それからコンクリートの補修もやらせる、と。それでカーボンも使って、全部で1万2千円でやってもらっている。
多能工というと、大工に左官の仕事をさせたり、左官に大工の仕事をと考えたりするが、そうではない。そこが持っている会社の能力を合わせる、ということ。例えば、溶接工。鉄骨工事、天井を張る工事にも関係している。今うちではドアは鉄骨で作っている。合わせると一人の人が何回も来る、これは経費の節約になる。多能工っていうのはそういうことをやる。

須貝:ヨーロッパでは、屋上にガラス状のものがあって明るくて非常にいいが、夏は暑くて使いものにならないという問題があるが、西陽がきつかったり、暑くて使い物にならないとかいうのはないのか?

青木:屋根はルーバーの上がキャットウォークになっていて設備、電球の取り替えができる。屋根部分に空気層を作っているのと、空調の吹き出し口を人間がいる部分にあてていることで、十分対応できている。

近藤:皆が気になっている設計料について…

青木:宇目は5億の物件で2500万だから5%、一般的な新築と全く同じ。野津原はだまされた、1億のもので設計料は430万、外注費が3百何十万で自分の所に100万だけきた。八女は市長がきめて、僕の作品を見てまわって、一応10%といったら、一応予算は10%だけど消費税がかかるとかで……(減らされた?)。大分のある町に提案しろと言われて提案しにいった、2億の物件。コンペになって、うちの案が通った。400万と言われて、とてもじゃないができない、と言っていたら別の業者に取られてしまった。学会賞をもらったってことで、一応は第一人者なので、設計料についてはがんばろうかなと思っている。10%ぐらいあるとちょうどいいんだが、日本はソフトにはなかなか金を出さない。

山本:リファインする建築に違いはあるのか?

青木:実作で出来たものは長崎水族館を除いてB級C級建築ばかり。建物はどうでもいいんだ。だから、どこを残すとか考えずにドラスチックに変えたらいい、と思っている。それが今まで。長崎水族館は残すものは何かに焦点を絞って…。採算に合わないと実践しないから、松竹梅を用意している。で、どこに金をかけるかとかメンテナンスの話とかしている。学会賞のときに安藤さんから電話があって、「B級ばっかりやってたらいつまでたっても一流になれへんで」と言われた。文化財までいかなくても、バブルのときに作ったものを、用途変更をして残していかないといけない。多用性はある。著書「リファイン建築へ」では、何でもオッケーよ、というふうに出している。

高山:これから作る新築物件で、例えば何十年先に用途変更をするということになってリファインするってことになった時に、そういうことは考えて新築を作るときに、どういった点に注意すべきか。こういうことをやっておくとやりやすいとか、そういうことは?

青木:そういったことは今でもやられている。大阪のスケルトン住宅とか。しかし、古い建物のメンテナンスなんか仕事来ない。同様に、今という時点で過去はみていない。建設業の最大の欠点は未来があること。今から先のことをやらないといけないと考えている。21世紀の何とかで、ほとんどの人が過去のことを取り上げない。今からどうするか。今からどうするかっていうと、今までやってきたことを直さないとやっていけない。

高山:すごいストックがありますから…

青木:僕らが建築をやりだしたころは、構造なんかは手計算であった。人間ってのは不思議なものでちょっとずつあげていってる。ちょっと多めに、10sなら10.5sに…、無意識にプラスになっていた。それが建物の余裕みたいなもの。いまはコンピュータでしょ?まったく余裕がないね。実は京都大学の西沢っていう構造の先生がいて彼と対談したのだが、多分新築より丈夫なのではないか、と言われる。欠点がわかってるんだ。30年なら30年経っているから弱点がわかっている。だから集中的に補強する。だから新築より丈夫なのではないか、ということになる。いまからの未来ばかりで、過去をふりかえらんでいるのが建設業の落とし穴がある。むしろ過去をどうするかということを建築界は見つめないといけない。

(6)おわりに
建築をシステム的に作ることに非常に興味があって、デザインに関しては東京のデザイナーに対してなかなか評価をもらえない、東京のコピーとかいわれる。建築を巡るシステムを構築していかないとなかなか認めてもらえないんだなと。
30坪で1000万の住宅を開発している。親や爺ちゃんが作った家が、たいして良くも無いのに、いい家だろ?、と自慢してくる。建築的に見たらたいしたことないけど、愛情がこもっている。それは家を作ることに参加しているから。自分でペンキを塗ったりしているから。1000万の住宅はコンクリートのコアをつかって水平力をもたせて、あとは木を使っている。基礎とかコンクリートを打つ作業はプロじゃ無いと出来ないが、組み立てる作業なら素人でもできる。週3日ぐらいやる、そうして半年ぐらいやる。そうすると、700万とか600万とかでおわる。余暇をつかってお父ちゃん立派やなぁと思わせたり、不良中学生みたいなのに手伝わせたりして、家庭の絆を深める。いまの社会に有効ではないか?ネットワークを作っていって前作った人がNGOみたいになったり、手伝ってもらって、金券みたいなのもらって、次の自分のときにつかって……ということを考えている。

デザインばかり考えていると行きずまってしまうが、大きくシステムの構築とかを考えていると、いろいろとヒントになる。社会に認めてもらうのに、デザインだけで無くシステムを作ることや参加することで認めてもらうこともできるのではないか。

野本:孤風院でやったけどけっこうアマかった。そのあたり大丈夫なのか?かえって耐久性が落ちたりはしないのか?

青木:コンクリートはともかく、木材を組み立てるぶんには大丈夫だ。垂直を見たり縄張りをしたりするのは大工さんなら簡単に出来る。元々、大工ってのはだいたいが一人でやっている(個人で大工会社をやっているということ、一人でなんでもできる)。プレハブ住宅が流行ってきて皆組織に入るようになってしまった。だからこのあたりを元に戻せば……。考えるってことが衰えてきた。考えりゃいいんだ。

以上で講演会を終了し、懇親会に移った。
 
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青木茂氏の今までの全作品が紹介された書籍が発売されました。CD-ROMも付録として添付されています。一見の価値あり!!

「リファイン建築へ」 建たない時代の建築再利用術
-青木茂の全仕事-
出版:建築資料研究社

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Last Update : 12 November, 2001