2016年10月1日土曜日

ツォルフェライン炭鉱業遺跡群の中のスクール

ツォルフェライン炭鉱業遺跡群の中のスクール (2006)

エッセンの北東にあるツォルフェライン炭鉱業遺跡は世界遺産に指定されています。1986年まで操業され、ヨーロッパ最大の炭鉱、コークス工場だったそうです。
現在、敷地内の遺構は、レム・コールハースのOMAがマスタープランを提案し、ノーマンフォスターなど有名デザイナーにより改装されました。レセプションホール、観光用に開放されている工場など、どれも、朽ち果ててしまう運命を免れ、一般の人が快適に過ごせる空間になっています。錆びるに任せた案内板も面白いです。
ある一角では、工場を背景に新婚さんの写真撮影、ある場所では、パーティーが開かれていました。敷地は広大で、自転車で走っている人が気持ちよさそうでした。

下調べで、この敷地に隣接してSANAAの設計によるデザイン学校が建設されている。その学校は経営がよろしくなく、次の使い道を模索している、という情報は見ていました。

で、このバウハウス様式の工場遺産とデザイン学校の建物との組み合わせがピンとこないので、立ち寄った際に見てきました。

設計はSANAA(妹島和世、西沢立衛)。2010年プリツカー賞を受賞。

建物の中は、展示会でもしていたのか、運び出し中で広々としていました。
中を見たのは1階のフロアだけですが、外から見ると2階から上のフロアは天井が高いように見えます。こうなると、東と西の2つのコーナーに向けて大きくなる様々な形状の窓により、そのコーナーでは相当な開放感がありそうです。

帰国後調べてみると、2階は10.5mのオープンスペースになっており、他の3フロアは3.6mが最小で目的によって高さが異なるようです。
4階は管理施設で、部分的に屋根の架けられた屋上庭園は、事務所階とつながって、自然光が取り入れられるようになっているそうです。中を見てみたかったです。

近づいてみると、向こう側の空が大きな窓越しに見えるので、コンクリートの立方体という閉鎖的な形状なのに、明るく感じます。
これは、外から眺めるより、中で作業すると高さの違う窓が楽しく感じそうな建物だなと思いました。

この特徴的な窓について、デザインコンペ提出案では、建物の形状は最終案と同じキューブだったものの、窓の配置は、整列したドット状の3000個!の窓が大きさを変えて点描のようなデザインでした。これが実現可能性から150個に減らされた今の案になっています。
今の窓の位置が、居住性が優れたものであるのは外から見てもわかったし、意匠面で妥協したようにも見えないので、実施設計段階での対話を経てよりよいものに変化させていくステップが、この建物は非常にうまく、根気よくなされたのだろうと想像しました。
この建築、前述したように、1,2階は違和感を感じるくらい、がらーんとしています。違和感を感じた理由は、通常屋内にある配管や冷暖房設備など、付属物がほとんど見えまないからのようです。窓枠やブラインドすら最小化され、コンクリートとガラスしかない印象。

このがらーんも、多くの協働作業の上に成り立っているようです。

壁は厚さ30cmの薄い皮膜であることを目標とした上に、これらの設備が構造内に一体化されるために、設計段階から、機械設備との協働作業で構造が決定されています。
床は、強度を持ち、かつ軽量とするため、50cmのスラブの中に球体のボイドがずらっと埋め込まれています。さらに、省エネルギーのため、壁、床の中に水が循環する配管がされています。将来的には、隣接する炭坑の水温30℃の坑内水を利用する計画があるそうです。

立方体の外景は、工場施設の形状と調和しています。下の写真ですが、赤い鉄骨がアクセントで現代でも通じるかっこよさです。

この形状と共通性を持たせることで、スクールの建物も工場遺産との仲間入りをはたしています。個人的には、工場側の存在感が大きすぎて、立方体一つだけのスクールがなにか寂しく、工場群との間に何かもう一つ建物があるといいなと思いました。
勝手なこと言ってますが。
*参考、ボルガーテッケンほか、ツォルフェライン経営・デザイン学校における統合的設計, Detail Japan, 2006.4

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