コモンモードフィルター

2021年5月21日掲載
11月20日追記

トロイダルコアに同軸を巻いたCMFはいくつも作りました。
いつも、コアに適当にまいて作っていましたが、今回のは、ローバンドを中心に、どういう性能のものが必要なのか、自分なりに考えて作ったものです。ポイントは、受信のノイズ低減がメイン、送信のインターフェアレンス対策は当たり前 とします。



考えたこと

まず、当たり前の、送信時のインターフェアレンス防止について、「同軸や電源にCMFを入れる」という手法はそもそもどういうことかと考えてみました。
図Aは平衡型のアンテナ系が問題なく動作している場合の模式図です。送信機のアンプから出た信流は、すべて同軸ケーブルでやりとりされて他には漏れず、すべてアンテナから放射されます。

図Bは現実的なものです。アンテナの平衡がくずれて、大地と、無線機、アンテナの間を還流する緑の電流が発生する様子を示しています。この電流は基本波電流であるだけに強力で、接地された周辺の機器に影響を与えます。それがPCへの回り込みになったり、テレビへのインターフェアレンスなどになります。ローパスフィルターでは効果ありません。

図Bで、何故、このようなコモンモード電流が発生するのかは、ここに書かれています。要するに、図Cのように、アンテナを2本の抵抗に置き換えたときに、本来等しいはずの2本の抵抗が等しい値にはならず、そのため、中点Cは大地と同電位にならないので、そこに電流が流れるということと思います。この電流はコモンモード電流となって同軸ケーブルを流れ、無線機のアースから大地に還流します。それが緑の電流です。

図Dは、この電流をアンテナ直下に挿入したCMFで阻止しようとしている図です。アンテナ直下にCMFを挿入すると、アンテナの抵抗の不均一性に対して、コモンモード電流の流路としての同軸ケーブルのインピーダンスが上昇します。「アンテナから大地に還流するコモンモード電流」から見ると、電源インピーダンスが上昇することになります。したがって電流は減少します。

この電流は、図Eのように、無線機アンテナ端子にもCMFを挿入してさらに低減することができます。また、アンテナ端子だけではなく、無線機のアース側にCMFを併用することにも意味があるとわかります。

どこにCMFを入れるのがよいかという点についても、はっきり書かれた記事を見たことがありません。無線機直近に入れるのが基本のようですが、ケーブルの途中にも挿入すると良い といった記事も見かけます。しかし、図Cの発生原因を見る限り、CMFは、まずは図Dのように、アンテナ直下に挿入するのが自然であろうとわかります。
また、この、アンテナ直下に挿入するCMFは、送信する基本波周波数にさえ対応すれば問題ないはず とわかります。



接地型のアンテナではどうでしょうか。
接地型アンテナは、大地に、鏡像を、いかに鏡像らしく作られるかがポイントだと思います。完全な鏡像を作ることができれば、図Fのように還流するコモンモード電流はありませんが、実際にはアース側の問題のために相応の電流が発生します。そのため、図Cと同様にコモンモード電流が流れます。これは、図Dや図Eの方法で低減可能ですが、平衡型のアンテナを使う場合よりはるかに難しいと思えます。
それにしても、CMFを挿入するまえに、 ここで色々実験検討したように、アースの強化をしっかり行わないと、飛ばないアンテナにならないかなと思います。




以上のように、送信インターフェアレンスについては、
・CMFは、送信時に、無線機とアンテナ、大地を還流するコモンモード電流を低減するのに効果があること
・コモンモード電流は基本波なので強力
・阻止のためには、アンテナ直下に、そのコモンモード周波数に対応したCMFを挿入するのが自然であること
がわかりました。


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次に、受信時ノイズ対策として「同軸にCMFを入れる手法」とはどういうことか考えてみました。

ノイズには2種類あると思います。
①同軸の芯線と網線を往復する電流に載るノイズ。
遠方から到来する信号と同じようにアンテナに入り、無線機に導かれるもの。低減するためにはビームアンテナの活用が効果的でしょう。
②アンテナや無線機から大地へ還流する還流電流に重畳されたノイズ。
接地型アンテナのように大地に電流を流す形で電波を(ノイズを)放射している機器が近隣にあって、それらが平衡アンテナの残留不平衡分で拾われる場合や、アンテナ展開の物理的な制約のために、平衡アンテナの片方のエレメントだけにノイズが乗っているような場合。CMFで減少できると思われます。

受信時の考え方は、送信時の正反対と考えられます。
図Gは平衡型のアンテナ系が問題なく動作している場合の模式図です。受信電流はすべて同軸ケーブルでやりとりされます。この中に、信号だけではなくノイズが含まれている場合があります。それが上記の①です。

図Hは現実的なものです。バランは入れているものの、アンテナの平衡がくずれて、大地と、無線機、アンテナの間を還流する緑の電流が発生する様子を示しています。②のような、様々な場合が想定できます。この電流は、アース端子を通じて受信機のアンテナコイルを流れ、受信信号に重畳されます。

図Iは、無線機のアース端子やアンテナ端子、さらにアンテナ直下に挿入したCMFでこれを阻止しようとしている図です。CMFを挿入すると、アンテナコイルを通ってアース端子から大地に還流する不平衡電流が減少するので、この中にノイズが含まれていたらそれは減少します。


CMFで減少するノイズはこのようなノイズです。
移動運用時の車の発電機やリゾートホテルの自家発電のノイズ、さらには、風呂釜からのノイズがまさにこのようなノイズの例でしょう。同軸ケーブルにCMFを挿入して改善したという報告を多く見かけますが、これらこそ ここに述べたことの事例だと思います。



どのようなCMFが必要かは、次のようにすれば検証できると思います。
図Jのように、同軸コネクタの芯線だけをアンテナ端子につないでみます。すると、何がしかのノイズや信号が受信されます。これは、アース端子から大地に流れ込む電流が流れてアンテナコイルを励起するためと考えられます。

この電流は図Hの緑の電流と同じなので、実は、この接続では、信号が聞こえ無い方がよいのです。 そこでこれを減らすために、大地との閉回路を遮断します。図Lのように、アンテナコネクタのところにCMFを挿入します。

まず、この接続で、ノイズや信号がどのくらい弱くなるか確認します。CMFの効果は50オーム系では30dB~40dB程度でしょうから、図KのようにCMFを挿入すると、Sメータ5つ、6つ分程度信号が弱くなると思えます。どの程度信号が弱くなるかで、CMFの効果を検証できます。

 

また、筐体を手で触って聞こえ方が変化したり(信号が強くなる)ノイズが増えるかどうか確認します。筐体を手で触ると大地との容量が増加するので、緑の電流が流れやすくなるはずです。そこで、変化が少ないときは、筐体と大地がもともと強く結合しているとみられますので、図Lのようにアース側にもCMFを併用し、筐体と大地の関係を遮断して緑の電流を減らす工夫をするとよいです。

都会地でSメータ5つ以上のノイズがある環境では、アンテナ側のCMFだけに頼るのではなく、このような、アース端子から大地に向かって流れる電流をカットする手段を併用するのが効果的です。同軸ケーブルに挿入したCMFである程度ノイズを低減し、さらにそれに加えて補助的に用いる形なので、クランプコアの応用で事足りるかもしれません。

ただ、よく言われるような小さなクランプコアを数個、あるいはありあわせのコアに数ターン巻いたようなもので良いかと言うとそうではなく、上記した十分な特性を持ったCMFが必要です。うまくいけば、 コアを一つずつ増やすと効果が目に見えるという状況も期待できましょう。
とはいえ、実際は、このような状況を作るのは案外面倒です。図Kや図Lを実際に試してみてください。


以上の検討のように、CMFは、ノイズが、アンテナや無線機から大地への還流電流に依存する場合に、ノイズ低減の効果を発揮します。

もともとノイズを拾いにくいとされる磁界型のシールドループは、①についてノイズ到来方向をヌルに合わせられることや、②について物理的に小サイズであることの利点があります。それでも、(アンテナの構造上「そもそも」、あるいは)残留不平衡成分が拾ってしまう可能性がある電界性のノイズについては、極力影響が出ないように配慮する必要があります。アンテナ側の対策はもちろんですが、無線機側でも、大地への還流電流を最小化するよう戻り側の補助的対策をあらかじめ実施しておくことも必要と言えるでしょう。


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以上で次がわかりました。
①アンテナの平衡不良で送信時にコモンモード電流が発生する様子、受信時にノイズが増加する様子
②同軸ケーブルやアース線にCMFを挿入してコモンモードの閉回路のインピーダンスを高め、それらを阻止する方法。
③CMFに要求される性能。回路系のインピーダンスを考慮する必要がある。
④送信インターフェアレンスは、アンテナ直下に挿入する基本波周波数に対応したCMFで抑圧。受信のノイズは、無線機側に挿入するCMFで抑圧。
などが理解できました。かゆいところに手が届く検討ができたと思います。


少し発展的に考えてみると、
送受共通に言えること として、とにかく、「無線機の筐体を大地からisorateする」こと
が特に重要だとわかります。見落としがちなので注意が要ります。

図Aから図Lの説明では、アース端子は大地に接続されているという書き方をして、この途中にCMFを挿入することで大地に流れ込む電流を減らすことを示しました。 しかし実は、この電流は、大地につないだアース電線だけを流れるわけではありません。図Lの説明で少し書きましたが、この電流は、無線機の筐体やケーブル、接続した機器の筐体など、あらゆるものと大地との容量結合を通じて流れる電流を含みます。つまり、同軸ケーブルにCMFを挿入するだけではなく、そもそもやるべきことは、「無線機と大地との容量結合はなるべく低減しておく」ことだとわかります。

そのためには、無線機の電源ケーブルはもちろん、無線機を他の機器に接続するケーブルには、必ずすべて、無線機直近にCMFを挿入する必要があります。
「シールド線を使うのだから構わないだろう」 などと無造作に接続してしまうと、外皮を通じて機器全体の筐体面積が増加し、結果的に大地との容量結合を増やすことにつながるので注意が必要です。どのようなケーブルであっても、筐体から出るケーブルであればそれらすべてにCMFを挿入することを怠ってはなりません。

この時、無線機直近に挿入するCMFは、その無線機で運用するすべての周波数で良好に機能するものである必要があります。例えばハイバンドのアンテナにつながる同軸ケーブルでも、ローバンドではアース線になるため、ローバンドでの回り込みや受信ノイズに対応するには、ハイバンド用のアンテナがつながっているケーブルにさえも、ローバンドで十分機能する(アース側を十分分離できる)CMMを挿入する必要があります。
また、そのようなCMFは、各ケーブルの、回路インピーダンスに見合ったものである必要があります。電源はローインピーダンスなので問題ないとしても、PCと接続する信号系などには熟慮が必要でしょう。当然、通信速度は遅くするとしても、パスコンが無ければ如何ともしがたいかもしれません。場合によるとPCや無線機に手を入れる必要があるかもしれません。

アンテナ系はどうでしょうか? 信号は50オームとしても、同相電流の系のインピーダンスはいくらほどでしょう? 手探りでやってみるしかないということでしょうか。。。
とにかく、このようなCMFを、無線機から出るすべてのケーブルに挿入します。


おまけ。。。
ハイバンドのアンテナ線にローバンドまで抑え込むようなCMFを挿入することは、ハイバンドでの運用に、受信感度や送信電力の低下といった悪影響を及ぼす可能性があります。結局のところ、極論すると、ハイバンド用とローバンド用の無線機は分離するのが効果的と言えるのかもしれません。



 

参考測定例

Maclabブランド 13mm用  2021.10末購入

 
実測
5回巻き 27μH
10個54μH =10個使って 339Ω @1MHz
 
コア内6回通過 DC~20MHz  ゲイン0の基線は上から2本目。
約10dB@3MHz、約20dB@10MHz

セット購入 2021.10購入
13mm 5回巻き 21μH   10個42μH =10個使って 263Ω@1MHz
9mm 5回巻き 27μH   10個54μH =10個使って 339Ω@1MHz
7mm 5回巻き 15μH   10個30μH =10個使って 188Ω@1MHz

この測定値を見る限り、市販の安いクランプコアはハイバンド以上でないと意味がないと言える。


森宮電機
低周波用フェライトコア MNシリーズ  
MSFC13KMN

カタログ値
http://www.morimiya.co.jp/products/emi/ferrite_mn.html
6回通過で、約900Ω@1M~10MHz
50オーム系だと 1/18 = 約25dB

 

測定値
コア内6回通過 DC~20MHz  ゲイン0の基線は上から2本目。
2MHz以上約25dBでフラット

同軸ケーブルに5~6個はさみ込めば、ローバンドでも一定の効果が期待できる。



アメリカのアンテナ
モズレーTA-33の RFチョーク   直径6インチ5回 長さ2インチで7.6μH
             直径10インチ10回 長さ3インチで56μH
ハイゲインTH3-MK4のRFチョーク 直径6インチ12回 長さ4インチで22μH =1382Ω@10MHz

 

様々な巻き回数など

   

FT240#43にW1JR巻きで、左から、12回、14回、16回巻き。
スペアナの縦軸は、上から2本目の線がゼロ。横軸は、Center 10MHz、Span 20MHz



   

FT240#77にW1JR巻きで、左から、12回、14回、16回巻き。
スペアナの縦軸は、上から2本目の線がゼロ。横軸は、Center 10MHz、Span 20MHz



FT240#43と#77に、それぞれW1JR巻き14回巻きで直列。
スペアナの縦軸は、上から2本目の線がゼロ。横軸は、Center 10MHz、Span 20MHz




作ったもの

(1)普通の3D2VをFT240-#43にW1JR巻きしたものを2つ直列接続
ケーブルは、コア一つあたり1.2mほど要ります。

FT240-43  10回巻き計算値 124μH
W1JR巻き16回巻きの2直列 実測値367μH 2305Ω @1MHz

縦軸のゼロは上から2本目の線、横軸は、center 10MHz、span 20MHz



(2)FT240-#43とFT240-#77に各々W1JR巻きで16回巻いたものを直列接続

縦軸のゼロは上から2本目の線、横軸は、center 10MHz、span 20MHz



これらを、塩ビのパイプに入れ、エアコン配管等を通す部品を利用して扱いやすい形にまとめました。防水できているので、いざとなったら屋外でも使えます。



      

http://www.karinya.net/g3txq/